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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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063●フロー編●56.名付け

 フローリアンたちが別荘に来てから、四ヶ月と二週間が過ぎた。

 フローリアンとツェツィーリアのお腹は随分と大きくなり、先に陣痛がきたのはツェツィーリアの方。

 しかし中々生まれず、ツェツィーリアの出産を見届けたいと思っていたフローリアンは、仕方なく部屋から出る。

 部屋の外で一人待っていたラルスが、心配そうに眉を下げながら近づいてきた。


「ツェツィーリア様、長いですね……大丈夫そうですか?」

「うん、多分……苦しそうだったけど」


 朝からずっと苦しみっぱなしで、もう夜である。

 妊産婦の死亡率は周辺諸国に比べ、ハウアドル王国は低い方だ。しかしだからといって、どうなるかはわからない。

 つらそうなうめき声が聞こえてきては、心配だし不安だ。


「とりあえず、もう遅いですから俺たちは寝ましょう。もし朝までかかってもまだ生まれないようなら、交代要員が必要になりますし」

「うん、そうだね……」


 朝には生まれていてくれたらいい。ツェツィーリアの出産に立ち会えなくてもいいから、あんまりツェツィーリアを苦しませないでと祈りながら、フローリアンたちはベッドに入った。

 疲れていたのかスッと眠りに入ったフローリアンだったが、ちくりとする痛みで目を覚ました。ツェツィーリアの苦しむ声が聞こえていて、出産はまだのようだともう一度眠りにつく。

 しかし、またしばらくしてお腹の痛みで目を覚ました。


(陣痛、かな……初産だし、まだ間隔長いから大丈夫だよね)


 ツェツィーのように長いお産になっては大変と、フローリアンは眠れるうちにとまた目を瞑った。

 その後も何度か痛みで目を覚ましたが、まだ大丈夫だろうと眠りに落ちる。数度ほど、それが続いた時のことだった。

 ぱしゃりと生温かいものが足に触れると同時に、激しい痛みがフローリアンを襲う。


「ああ!! ラルス、ラルス……っ!」

「フローラ!?」


 フロリアンの声にラルスが飛び起きてくれる。


「痛い、痛いよ!!」

「今バルバラさんを……」


 そう言ったラルスをの腕をぎゅっと掴む。

 あっちはあっちでツェツィーリアのいきむ声が大きくなっていて、バルバラとヨハンナ、それにイグナーツのがんばれ、もう少しだという声が聞こえてきていた。


「だ、め、ラルス……行かない、でっ」

「なにを!」

「もう、生まれる!!」

「え?」


 ラルスには片時も離れてほしくなくて、その腕に爪を食い込ませるようにして掴んだ。

 するとラルスはフローリアンの不安な気持ちを感じたのか、そっと笑顔を見せて安心させてくれる。


「大丈夫ですよ、フローラ。俺、山羊の出産なら、何度も見てますから」

「い、あはは……、も、ラルス……っ」


 痛みが最高潮だというのに、山羊の出産と同じ扱いにされてなんだか笑ってしまう。


「俺がとり上げますよ。フローラはなにも心配しなくて大丈夫ですから。俺を信じて」

「ん、うん……んんーーー!!」


 ラルスがそう言ったわずか数分後。

 別荘で、二人分の産声があがっていた。



 ***




「陛下、本当にお疲れ様でございました」


 ヨハンナとバルバラがそれぞれに祝福の言葉をかけてくれる。

 産湯できれいにしてもらった我が子は、ほやあと泣いていて。そうっと抱くと、愛おしさが込み上げた。




 生まれたのは、フローリアンの子もツェツィーリアの子も女の子だった。女の双子として、王家で育てていくことになる。

 ぐっすり眠っていたツェツィーリアとは、夕方になってようやく顔を合わせることができた。ゆっくり眠ったはずのツェツィーリアは、それでもどこかげっそりとしている。あの痛みを何時間も感じていたのだから、それも当然かもしれない。


「お互い、無事に生まれてよかったね、ツェツィー」

「途中、わたくしはもう死ぬのかと思いましたわ……」

「ツェツィーも無事でよかったよ」

「ありがとうございます。フロー様もご無事でよかったですわ」


 イグナーツは嬉しそうに赤ちゃんを抱っこしたまま離さない。ラルスもうずうずしているのがわかり、フローリアンは娘を渡してあげた。


「めっちゃくちゃ小さくてかわいいですね……何度抱っこしても飽きないです」


 嬉しそうに笑うラルスに、ちくんと胸が痛む。

 ここにいる間はどれだけ抱っこしても構わないが、王都に戻るとそうはいかなくなることに申し訳なさが募る。


「フロー様、お名前はお決めになりましたの?」

「それがまだ、悩んでて……ツェツィーは?」

「わたくしたちは決めましたわ」

「へぇ、なんて名前?」

「リーゼロッテですの。〝神に愛された〟という意味の」

「わぁ、すごくいいね!」


 リーゼロッテがイグナーツの手の中でほやあと泣き声をあげる。ツェツィーリアは隣にいるリーゼロッテの顔を覗き込み、幸せそうに目を細めた。


「僕たちはどうしよう、ラルス。なにかつけたい名前ってある?」

「フローリアン様もつけたい名前、ありましたよね?」

「色々考えてたら、わかんなくなってきちゃったんだよ。ラルスの方でなにかいい名前があったら、それをつけたいと思ってる」

「本当ですか!? 待ってください、ちょっと今真剣に考えますから!」


 ラルスはフローリアンが思う以上に張り切って、抱いたばかりの娘をフローリアンに渡すと、紙とペンを持ってきて色々と書き始めた。


「……そんなに、名づけたかったのか?」

「はい。俺、この子の親だって言えないんで、せめて名前だけでもプレゼントしたくて」

「……ごめん」

「あ、違うんですよ! 俺の子には間違いないですし! 生まれてきてくれて嬉しいんです」


 生まれた娘を取り上げてくれたのは、ラルスだ。その瞬間、ラルスは一筋の涙を流していた。

 長く護衛をしてくれているが、ラルスの涙を見たのは初めてだ。だから、子どもが生まれてどれだけラルスが喜んでくれていたのかは、わかる。

 ラルスは何度もあれでもないこれでもないと頭を悩ませていて、その姿を見ると口元が緩んだ。

 そしてたくさんのバツがついた名前の一番下に、ラルスは初めてくるりと丸で名前を囲む。


「……フローリアン様、メイベルティーネとか、どうですか?」

「メイベルティーネ……」


 言葉に出すと、名前の旋律がするりと胸に入ってきた。

 あむあむと口を動かしている娘を見ていると、それ以外にいい名前など思いつきそうにない。


「うん、メイベルティーネにしよう」

「本当ですか!?」

「すごくいい名前だよ、ラルス! ありがとう!」

「ははっ!」


 ラルスは嬉しそうに笑ってメイベルティーネの頬をつつき、「ベル」と呼んでいる。どうやら愛称はベルで決まりのようだ。


 こうして、フローリアンとラルスの子どものメイベルティーネは双子の姉ということになり、ツェツィーリアとイグナーツの子どものリーゼロッテは双子の妹ということにし、王都に通達がなされたのだった。



挿絵(By みてみん)

イラスト/みこと。さま

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
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キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

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