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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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059●フロー編●52.報告

 朝の光がカーテンから差し込んでいる。

 いつもの時刻に目を覚ましたフローリアンは、隣で眠っているラルスを見つめた。無防備な寝顔はかわいらしく、それでいて精悍だ。

 見たいと思っていたラルスの寝顔。顔が勝手に綻んでしまうのはどうしようもない。

 そろそろ起こした方がいいとわかっていても、昨夜のことを思い出すとどうにも照れ臭く、起こすのをためらっていると。


「ん……んー、朝か……」


 どうしようか悩んでいる間に、ラルスが自分で目を覚ました。寝起きの顔は、少しぼんやりしていてかわいい。


「おはよ、ラルス」

「フローラ……」


 お互いに寝転んだまま、フローリアンはラルスを見て微笑んだ。するとラルスの腕が伸びてきて、ぎゅっと閉じ込められる。


「わ、ちょ……ラルス!」

「やばい……俺、今めちゃくちゃ幸せです」


 言葉を紡ぐ前に唇を塞がれた。おはようのキスにしてはやたらと長かったが、フローリアンも幸せを噛み締めながらそれを受け入れる。


「ん、もうっ、そろそろ着替えないと」


 あまりに長いキスだったので、フローリアンはラルスの頭をばしっと叩いて強制終了させた。

 叩かれたラルスは苦笑いした後、やはり優しい笑みを向けてくる。


「フローラ、体は大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。ラルスが優しくしてくれたから……って、なに言わせるんだよ、ばかっ!」

「だって、やっぱり気になるじゃないですか。気持ちよくなってくれたのか」

「お、教えないっ」


 そんなこと言わなくとも、昨日の反応でわかっているだろうのに意地悪だ。顔から蒸気を吹き出しそうになってそっぽを向くと、後ろからラルスの手が伸びてきて抱きしめられた。


「生まれてきた性別、間違ってなかったって思えました?」


 その言葉にどきりとする。

 いつだったか、ラルスが言っていた言葉だ。フローリアンは性別を間違えていない、保証すると。

 彼はフローリアンを女として満たすことで、本当に証明してくれた。そう思うと、胸の奥からじんわりと温かいものが込み上げてくる。


「うん……僕、生まれてきた性別を間違えてなんかなかった……女で、合ってたよ……」

「フローラ……」

「ありがとうラルス……また僕を抱いてくれる?」

「もちろん。毎日でも……今からでも抱きたい気分です」

「そ、それはだめ!」

「あはは!」


 いつもの笑顔を見せたかと思うとベッドを降りて、ラルスは手早く騎士服を身につけ始めた。

 見慣れた姿になると、まだベッドの上でいるフローリアンに、にっこりと笑ってくれる。


「フローラの着替え、手伝いましょうか?」

「い、いらないよ! 着替えを見られるのは恥ずかしいから、僕の執務室で待っててよ」

「もうフローラの体で知らないところ、ありませんよ。俺」

「そーいうことじゃないの! いいから出て行く!」

「わかりました。じゃあ詰所に顔を出してから、執務室で待ってますね、王」


 最後は公私を切り替えて部屋を出て行った。

 フローリアンは急いでベッドを降りて、衣服を身につける。

 胸を押さえつけているところなんて、間抜けすぎて絶対に見せたくない。

 着替え終えたところで、遠慮がちなノックが聞こえてきた。


「フロー様……ツェツィーリアです。入ってもよろしいですか?」

「大丈夫だよ、入っておいで」


 許可するとツェツィーリアはゆっくりと扉を開けて入ってきた。


「おはようツェツィー」

「おはようございます、フロー様」


 ツェツィーリアの顔を見ると照れ臭くなって、なんだかぎこちない。さすがのツェツィーリアも、どこか恥ずかしそうだ。

 けれど、今までなんでも話し合ってきた仲である。ツェツィーリアとイグナーツがどうなったのか、それだけでも確認しておきたい。


「えっと、少し話せる?」

「わたくしは大丈夫ですわ。フロー様はお仕事があるのでは?」

「うん、だけどちょっとくらいなら大丈夫。話、聞いてもいい?」

「フロー様もお聞かせくださいましね?」

「わ、わかってるよ」


 聞くということは当然、言うということだ。

 恥ずかしいが、ツェツィーリアにだけ話させるわけにもいかない。


「えーっと……ど、どうだった?」


 ツェツィーリアのために椅子を引き、座るのを確認するとフローリアンもその対面に座った。


「その……フロー様はどうでしたの?」

「僕は、その……」


 お互い抽象的な言葉の応酬だったが、勇気を振り絞って言葉にする。


「だ、抱かれたよ、僕……ラルスに、抱いてもらえたんだ……っ」


 耳から湯気でも噴射するのではないかと思うほど、顔が熱くなった。


「ああ、フロー様、ようございましたわ!! おめでとうございます!!」

「お、大袈裟だよ、もう! ツェツィーの方はどうだったの?」


 聞き返すと、今度はツェツィーリアの方から湯気が見える。


「わ、わたくしも……結ばれましたわ。イグナーツ様と」

「わあ! おめでとう!! おめでとう、ツェツィー! よかったね!!」

「お、大袈裟ですわよ、フロー様!」


 同じことを言ったのが面白くて、二人で顔を見合わせてプッと笑った。

 けれど、ツェツィーリアは十年のもの想いをようやく成就させたのだ。祝杯をあげたい気分になってもおかしくない。


「体、大丈夫だった? 痛くない?」

「大丈夫ですわ。イグナーツ様が、その……優しくしてくださったので。フロー様は?」

「僕はちょっと、筋肉痛でさ」

「筋肉痛ですの!? そんなになるまで一体なにを……っ」

「ち、違うから! これは、山登りした時ので──」

「ふふっ」

「もう! ははは!!」


 二人で朝から笑っていると、なんだか涙が溢れてきた。幸せだ、という気持ちが込み上げてきて。

 それを見たツェツィーリアが、ハンカチを出しながら目を細めて椅子から腰を浮かした。


「ふふ。フロー様の涙もろさは、変わりませんわね」

「だって、嬉しいんだよ……ツェツィーが幸せそうにしてくれて……僕まで、幸せで……」


 ハンカチで涙を拭ってくれるツェツィーリアは、大人の女性の色気に溢れている。

 きっと素敵な夜を過ごせたのだろうと思うと、また胸がいっぱいになった。


「イグナーツには、僕が女だって話したんだよね? なんて言ってた?」

「もしかしたら女ではないかと思うことはあったようですわ。そして私たちに協力してくれると言ってくださいました。つまりその……ま、毎晩でも必要ならばする、したい、と……」

「ふぅ〜ん?」

「もう、フロー様、いじわるですわ!」

「あはっ」


 ニヤニヤしてみせると、またツェツィーリアが顔を真っ赤にしている。いつもクールなツェツィーリアのこんな姿は、長い付き合いだが初めて見た。


「でも、現実問題、毎回ツェツィーが夜にイグナーツの部屋に行くのは無理があるよね」

「そうですわね。誰に見られるかもわかりませんし……」

「ツェツィーもこの部屋を使ったらどうかな。奥に自分の部屋があるでしょ。僕とラルスも、この奥の部屋を使うことにするよ」

「それでも、お二人がこの部屋に出入りしているのを見るものがいたら、おかしく思われませんこと?」

「ラルスがこの部屋に入るのはそう珍しいことじゃないし、イグナーツもリュートを抱えて入ってくれば、変な詮索はされないよ、きっと」


 フローリアンの提案に、ツェツィーリアが「そうですわね」と頷いてくれる。


「対外的にフロー様は男性だと思われていますし、男三人と女一人で部屋にいても、わたくしの不倫を疑われることはありませんわね。フロー様も一緒ですし」

「うん、だから今夜からはイグナーツにこの部屋に来てもらうように言っておいてよ」

「今夜から……わ、わかりましたわ」


 今晩のことを考えて、顔を火照らせているツェツィーリアがかわいい。思わずふふふと声を漏らしてしまう。


「一緒に妊娠できたらいいね!」

「そうですわね。フロー様と一緒の子育ては、楽しそうですわ」

「うん! ああもう、なんか今から生まれるのが楽しみになってきちゃった」

「お気が早いですわよ。けれど、もしフロー様に女の子が生まれても、性別は偽らないでくださいましね」

「それだけは絶対にない!!」


 キッパリと言い切ると、そのフローリアンの真剣な顔がおかしかったのか、ツェツィーリアはプッと笑って。


「絶対に、あり得ませんわね!」

「うん! あはは!」


 夫婦の寝室で、声を上げて笑った。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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▼ 代表作 ▼


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キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


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▼ざまぁされた王子は反省します!▼

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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― 新着の感想 ―
[良い点] ラルスが甘々でお砂糖増量ありがとうございます(〃艸〃) さらにはフローリアンとツェツィーの報告会(笑)は、ほのぼのニヤニヤしました。 幸せいっぱい女子トーク、楽しかったです♡
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