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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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058●フロー編●51.フローラティーネ

 断ってくれてもいい……それはフローリアンの本心であって、しかし本当の本心ではなかった。

 本当は断ってほしくなどない。その腕に抱かれ、ラルスの子をこのお腹に宿したい。

 けれど、王という立場を盾にしたり、女という秘密を知ったのだからと脅すのは違う。

 ラルスが、ラルスの意思で決めてほしいと、フローリアンは決断を委ねた。


「王……」


 なにを言われるのかと身構える。ラルスなら……と期待すると後がつらいかもしれず、フローリアンは断られる覚悟を決めた、その時。


「それ、わがままじゃないですから!」


 ラルスの口から飛び出してきたのは、そんな言葉。

 フローリアンがポカンと彼を見上げると、ラルスは少し怒ったように言った。


「王、わがままっていうのは、人のことなんかお構いなしに、自分のことだけを考えて行動することですよ! 俺に配慮してる時点で、それはもうわがままじゃないですから!」

「え、そう、かな……だって僕、ラルスにかなり無理を言ってると思うよ?」

「そのことに関して、俺が気になってるのは一点だけです」


 なんだろうとフローリアンは首を傾げる。ちゃんと説明できたつもりだし、なにかを言い漏らした覚えはない。


「王は、どうしてその役目を俺に与えようと思ったんですか?」

「どうしてって……」


 予想外の質問に、どう言葉を紡ごうと考えていると、一瞬だけラルスは瞳を暗くする。


「俺がフローリアン様を好きだと言ったから、その気持ちを利用しようと思ったんですか」

「ち、違う!」


 慌てて否定すると、ラルスはそっと目を細めた。


「以前、王のためならこの身を捧げる覚悟だと俺が言ったのを、覚えてますか?」

「覚えてるよ、でも違うんだ! ラルスを利用するつもりは、これっぽっちも……!」

「フローリアン様」


 言い訳しようとしていると、ラルスがピシャリと言葉を挟んでくる。


「俺は、こういう形でもフローリアン様を抱けるのは、嬉しいんですよ」

「ラ、ルス……」

「けど、王族の血を残すためだけに俺に抱かれる決意をしたというなら、あまりに王がかわいそうだ」


 ラルスは、やはり優しい。

 己の欲望のままに行動することなく、いつもこうしてフローリアンの気持ちを優先して考えてくれている。

 嬉しいような、心が温まるようでいてギュッと締め付けられるような。人を思いすぎるラルスがどこか憐れにも思えて、名のつかぬ感情を前にぽろりと涙が溢れそうになる。


「王?」

「ごめん……僕は、大事なことを言ってなかったね……」


 フローリアンが不安になったのと同じように、ラルスだって不安になっていて当然だ。

 人の機微に聡い男だから、言わなくてもわかる……なんて思ってはいけなかった。


「僕は……僕は、ラルスが好きなんだ……抱かれるなら、ラルスじゃないといやだったんだ……!」

「フローリアン様……」

「きっと、出会った時から好きだったんだ……僕の方がずっとずっと長く、ラルスのことが好きなんだよ! 僕の方が、片想い歴は長いんだからね……ばかっ」


 なぜだか涙があとからあとから滑り降りてきて、頭が熱い。


「嬉しいです、フローリアン様」


 一歩、近づいてくるラルス。その手が視界に入り、涙を拭いてくれるのかと思ったその時。

 ラルスは唇でフローリアンの涙にキスをした。


「わ、わぁ!」

「え、だめでした?」

「だめ、じゃ、ないけど……び、びっくりして……」

「フローリアン様が嫌がることは絶対にしませんから。遠慮せず言ってくださいね」

「う、うん、ありがと……」


 そういうと、もう一度涙にキスをされた。

 右を流れる涙に。左を流れる涙に。そしてそのまま降下していき……


「ん、んっ」


 唇に、キスされた。


(ラルスが、知らない男の人みたいだ)


 キスを受けながら、そんなことを思った。

 これを望んだのはフローリアンの方で、まだまだ今からだというのに、すでに心臓は爆発しそうになっている。

 少し離れたラルスは嬉しそうににっこり笑っていて、フローリアンは赤くなっているであろう顔で睨みつけた。


「ラルス……、僕、初めてなんだからね!」

「わかってます」

「なんかもう……は、恥ずかしくて……」

「恥ずかしがってるフローリアン様、めちゃくちゃかわいいですよ」


 いつものような明るい声ではなく、しっとりとささやくように言われると、身体中に痺れが走り抜けていく。


「ば、ばか……」

「フローリアン様のすべてを、俺に見せてください」

「も、もう……っ」


 いつもの明るいラルスとは違いすぎて、どうにもむず痒い。ラルスはすでに上半身裸で、火照る体を感じ取ってしまう。

 ぎゅっと抱き寄せられたかと思うと、フローリアンはそのままベッドに押し倒された。

 見上げると、ラルスの顔は真剣そのもので。今すぐにラルスがほしいような、それでいて時間が止まってほしいような、変な気分になってしまう。


 ラルスはゆっくりと覆い被さってくると、ちゅっと音を立ててまた優しくキスをしてくれた。


「ラルス……」

「なんですか、フローリアン様」


 ラルスが呼んだのは、男の、名前。


「僕……本当はね、フローラティーネって名付けられるはずだったんだ……」

「フローラティーネ……」


 本来ならそうつけられたであろう名前をラルスは呟き、その長い指がフローリアンの髪を()く。


「フローラ……似合ってます。さわやかで優しくてかわいいフローラにぴったりです」

「ん……うん、フローラって呼んで……僕のこと……二人っきりのときは、フローラって呼んで!」

「フローラ……フローラッ!」


 ラルスは何度も女の名前を呼びながら、息荒くフローリアンの唇を奪い続ける。


「ラルス……ん、ラルス、すき……だいすき……っ」

「フローラ……俺も、愛してます」


 二人は互いの名前を呼び、抱きしめ合いながら甘い夜を過ごした。



挿絵(By みてみん)

漫画/遥彼方さま

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

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ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
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異世界恋愛 日間4位作品
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

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そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

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▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
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なぜキスをするのですか!
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 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
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キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かったです!(嬉泣) サブタイトルも良いですね。 遥さまの漫画は、このシーンだったのですね。 素敵なシーンが見事に描かれていて、さらに感動しました!
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