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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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057●フロー編●50.わがまま

「王が……フローリアン様が女で、嬉しいですよ。俺」


 フローリアンの告白に、ラルスはいつもの優しい目尻でそう言った。

 女で嬉しい……その言葉が、フローリアンにとってもなにより嬉しく、心に花が咲いたように優しい空気が流れる。


「……本当?」

「っていうか……すみません、実は俺、王が女だって知っていました」

「え、どうして!?」


 フローリアンは女であることをひた隠し、最新の注意を払っていたはずだ。観察眼のするどいシャインならともかく、ラルスに気づかれるとは思えない。


「先王であるディートフリート様の結婚式に行ったことがありましたよね。その旅の最終日に、王が温泉に入ったの、覚えてますか?」

「覚えてるよ、人生で初めての温泉だったんだから。……え? まさか」

「すみません……覗いていました」

「うそぉ!!?」


 フローリアンは立ち上がってラルスから距離をとる。今はしっかり服を着ているというのに、思わず両手で胸を隠した。


「見たの?! 僕の! 裸を!!」

「違うんです!! 覗いておいてなんですけど、覗こうと思ったわけじゃ!」

「でも、見たんだよね?!」

「み、見ました……すみません」


 しょぼんと肩を落とすラルス。覗くつもりじゃなく覗いたなど、意味がわからないが、おそらく悪気はなかったのだろう。

 それでも、ラルスに肌を晒していたのだと思うと、羞恥だけでなく憤りが湧いてくる。なにより、ラルスは忘れることができない記憶力を持っているのだ。

 自分の裸をいつでも思い出せるのだと思うと、むっと口を尖らせた。


「僕の裸だけ見てるなんてずるい。ラルスも見せてよ」

「今ですか?」

「今!」


 フローリアンの無茶な要求に、ラルスはベッドから立ち上がって紺色の騎士服に手をかけている。

 ラルスは臆することなくするするとボタンを外すと、服を取り払った。しっかりと筋肉のついた上裸が姿を現して、フローリアンは慌てて顔を背ける。


「見るんじゃなかったんですか?」

「み、み、見るよ……っ」


 ちら、ちら、と確認しながら、少しずつ視線をまっすぐに向けていく。

 隠すものを剥ぎ取られた上半身は、主張するようにフローリアンの前に存在していた。


「すごいね、筋肉……僕とぜんぜん違う」

「そりゃあ俺は男で、王は女ですから」

「触っても……いい?」

「いいですよ」


 許可を得たフローリアンは、そっと手を伸ばす。

 硬い筋肉。ラルスの腹筋の溝をなぞるように触れていくと、ラルスの体がピクリと動いた。


「あ、ごめんっ」

「いえ、大丈夫です」


 護衛騎士の鍛えられた体はきれいだ。恥ずかしかったのは最初だけで、いつまでも見ていたくなってしまう。


「どうしよ……どきどきする……ラルスも僕の裸を見た時、どきどきした?」

「もちろん、めちゃくちゃどきどきしましたよ。混乱もしましたけど、どきどきして……そしてほっとしました」

「ほっと?」


 お腹の筋肉から顔に視線を移動させると、ラルスは真剣な表情でフローリアンを見ている。


「フローリアン様が女だとわかる前から、この気持ちがあったんです。ふとした仕草や、気遣いや、いつも一生懸命なところ。そして俺に楽しそうに笑いかけてくれる姿に、とっくに惚れてました」


 すきになったところを嬉しそうに挙げてくれるラルスを見ると、フローリアンの胸はきゅんと音を立てる。そんな風に見てくれていたことが、嬉しくてたまらない。

 

「だから、王が女だとわかった瞬間は嬉しかったですよ。そこからはもう、自分の気持ちを抑えきれませんでした」

「ラルス……」


 嬉しかったいうことは、やはりラルスはノーマルだったのだろうか。だとすると、フローリアンが男だと思っていた間は、葛藤があったに違いない。

 少し恥ずかしそうに笑うラルスを見ると、抱きつきたくなった。けれどまだだと、フローリアンはその腹筋から手を離す。


「僕は今からわがままをいう。ラルスの気持ちを利用した、今までで一番のわがままだ。だから、嫌なら断るという約束を忘れないでほしい」

「はい。大丈夫です、安心して話してください」


 ラルスのしっかりとした語調に、彼がどんな答えを出しても受け入れると決めてから──フローリアンは話し始めた。


「僕は、女だけどこの国の王だ。女に継承権がない国で、僕が女だということを誰にも知られるわけにはいかない。知られれば、僕を男として育てた母さまが糾弾を受けることとなり、僕自身もどうなるかわからなくなる。つまりは、王家の存続自体が難しくなる」

「はい」

「だから僕は、これからも男として生きていかなきゃならない。けど……僕は女だから、ツェツィーリアに子を産ませることはできない」


 これにもラルスはコクリと頷いてくれる。ここまで来たなら、もうなにを言われるかわかっているだろうか。


「最初は、ツェツィーリアとイグナーツの子を僕の子どもとして、王家の人間として育てようと思っていたんだ……だけど、母さまに反対された。王家の血を引かない者に継がせることはできない、と」


 ごくん、とフローリアンは乾いた喉を潤そうとする。しかしそれも、口を開いた瞬間に乾いてしまう。


「僕が……産むしかないんだ。王家を存続させるには、僕が産むしか……」

「王……」


 同情心の見えるラルスにこんなことを頼むのは忍びない。

 すきだと言ってはくれているが、それとこれとでは話が違う。


「僕を……抱いてほしいんだ」


 胸が、痛い。

 ラルスを種馬のように言わなくてはいけないことが、心苦しい。


「もしも子どもができても、ラルスは父親だとは名乗れない。子どもにも周りにも、隠して生きていかなきゃならない。多分それは、とても……つらいことだと思う。だから」


 ラルスが断っても罪悪感を持たないように、フローリアンは笑って。


「いいよ。断ってくれても」


 そう、伝えた。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
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政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
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