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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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054●フロー編●47.星空の中で

「王、ちょっと外に出ませんか?」

「外に? もう暗いだろう?」


 食事を終えてのんびりしていると、ラルスがそんな提案をしてきた。

 かまどには火が焚かれ続けているので明るいが、外は真っ暗なはずだ。


「いいものが見られますよ。寒くなってきたんで、俺のコートを羽織ってください」


 目の前に用意されたコートに、フローリアンは袖を通す。


(ラルスのにおいだ……)


 ふわりとラルスに抱きしめられたような感覚に陥って、一人悶えそうになるのを必死に堪えた。


「ラルスは、寒くないかい?」

「平気ですよ。俺、護衛騎士になってから、一回も風邪引いたことないんで」

「ああ、なんとかは風邪ひかないってやつだね」

「ちょっとそれ、ひどくないですかー!?」

「あはは!」


 フローリアンが笑うと、ラルスも気にした様子もなくけらけらと笑っている。

 ラルスとこういう関係でいられることが、とてつもなく嬉しくて幸せだ。

 もしも自分の気持ちを伝えてしまったら、こんな関係を壊してしまうことになりかねない。それだけは、絶対にいやだ。


 ラルスに促されて出ると、やはり外は真っ暗で、木々が不気味にざわめいている。なにかがいそうでぞくりとしてしまい、そっとラルスに寄り添った。

 そんなフローリアンの様子に気づいたのか、ラルスは安心できる笑顔を向けてくれる。


「王、上ですよ」


 ラルスが指さしたのは、森でも大地でもなく、空。

 その指につられるように見上げると、満天の星が降り注ぐように煌めいている。


「うわぁ……!」

「ここは王都と違って暗いし、空も近いからよく見えるでしょう」

「うん……っ」


 王都の自室から見る星とはわけが違う。

 力強く輝く星々。たった今怖いと思っていた木々でさえ、生命力に溢れているように感じる。

 きっとこれは、感動という感情だ。

 肌がピリピリと痺れるような、それでいて胸の奥から言葉にならぬ思いが溢れる感覚。


「来て良かった……」


 フローリアンの口から、素直な声が漏れた。


 登頂の景色を見た時の感動も。

 いつものように余暇を過ごしていたら、知り得なかった感情だった。

 それも、今隣にいて一緒に過ごしているのは大好きな人なのだから、感動は二倍にも三倍にも膨れ上がる。


「連れて来てくれてありがとう、ラルス」

「王に喜んでいただけるなら、これくらいお安い御用です」


 その時、目の端にヒュッと線を引いて流れ落ちるものを見つけた。再度見上げると、もうひとつ、柔らかな曲線が描かれてすぐに消える。


「ラルス、流れ星だ!! また!!」


 フローリアンは興奮のままにラルスの腕をぐいぐい掴んで引っ張り、空を指さした。


「見た!? ラルス!!」

「俺も久々に見ました。運がよかったですね」

「僕、流れ星なんて初めて見たよ!!」


 高揚したフローリアンは、いつのまにかラルスの腕にしがみついていた。

 ハッとしてラルスを見上げると、ラルスは愛しいものを慈しむような瞳で、フローリアンのことを見ている。

 視線を外さなきゃ、と思ったが、なぜかその瞳に吸い込まれて動けない。

 そんな風に固まっているフローリアンに、ラルスは言った。


「俺、王が……フローリアン様がすきです」

「っな!」


 唐突のラルスの告白にフローリアンの頭は混乱し、急いで言葉を紡ぐ。


「なにを言ってるんだよ……! 僕は、男だよ!?」


 そう言ってから、しまったと思った。ラルスのすきは、親愛の情からなる『すき』で、他意はなかったのではないかと。

 しかし一度放ってしまった言葉はもう戻らず、心臓だけがドキドキと(せわ)しなく動く。

 そんなフローリアンの心を知ってか知らずか、ラルスはゆっくりと穏やかな声で続けた。


「男でも女でも、俺が王を愛していることに変わりないですよ」

「あ……い……?」


 愛だと気づいて、顔が燃え上がりそうになる。

 それは家族や友人としての『すき』ではないのだと、フローリアンには聞こえた。

 多くは異性に向けられる、特別な感情の『愛』であり『すき』なのだと。

 そこまでは理解できたものの、夢の中にいるようにふわふわとして、信じられない。ラルスは相変わらず優しい瞳のまま笑った。


「王はツェツィーリア様と結婚してらっしゃるのはわかってますし、ただ伝えたかっただけです。不敬だ、不道徳だって、首を切らないでくださいね」

「そんな、こと、しない、けど……」


 上手く息ができない。この感情を、自分で制御も支配もできない。


「い、いつから」

「うーん、よく覚えてないんですよね。でも五年前には、この感情はあったと思います」

「そんなに前から……? よく隠せたね、全然気がつかなかったよ」


 ラルスはもっと感情が表に出る男だと思っていた。だからもし、ラルスにそんな感情があったなら、すぐ気づけると思っていたのだ。


「そりゃ、隠しますって。相手は同性で、しかも王子ですよ。身分差もあるし、婚約者もいるし、色々アウトだと思ってましたから」

「なのに、どうして今になって告白なんて……」


 先ほどの告白を思い返すと、耳が熱くなる。


「本当は、まだ言うつもりはなかったんです。護衛騎士を辞めさせられる可能性だってあったし、王が変に俺のことを気にして、今の関係がなくなるんじゃないかって思うと怖かった」


 その言葉を聞いて、フローリアンはラルスを見上げる。


(ラルスも、同じだったの……?)


 告白することで、今の関係が終わってしまうかもしれない、その恐怖。それはフローリアンとまったく同じだった。


「じゃあ、どうして……」

「フローリアン様が、かわいすぎて……もう、この気持ちを隠してはおけませんでした」

「ラルス……」


 心の底からじわりと温かいものが溢れてきて、喜びに支配される。

 そんなにまで思ってくれていたことが、本当に嬉しい。


「愛しています。フローリアン様」

「ありがとう、ラルス……」


 お礼を言うのはおかしいかもしれない。けれど、もし本当にフローリアンが男だったとしても、そんな風に大切に思ってくれていることにお礼を言っただろう。

 そして、ラルスから告白を受けたことで、フローリアンも未来を考えることができた。フローリアンはまっすぐにラルスと向き合うと、視線を重ね合わせる。


「ラルスのその気持ちに、僕は真剣に答えを出そうと思う。だから、少しだけ時間をくれないか」

「どれくらいですか?」

「明日の夜。僕とツェツィーリアの寝所に来てくれ。その時には、僕の気持ちをちゃんと話すよ」

「わかりました」


 ラルスが、真剣な瞳でフローリアンを見つめてくれる。

 そのラルスの後ろを、また、星が流れていった。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
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政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
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王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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[良い点]  感動的なシーンでした。  自然な気持ちの伝え方で、ラルスの思いやりのある優しさがとても素敵でした(*^_^*)
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