表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/115

045●フロー編●38.二人の問題

 ディートフリートの結婚式から戻ると、王妃教育を受けていたツェツィーリアが暇を見つけて会いにきてくれた。


「いかがでしたの、ディートフリート様の結婚式は」

「うん、すっごく素敵だったよ! ユリアーナも白髪(はくはつ)の美人で優しそうでね。兄さまが想い続けるのも、納得だったよ」

「まぁ」


 ツェツィーリアは上品に口元に手を当て、うふふと笑っている。


(ユリアーナも綺麗だけど、ツェツィーには敵わないよね)


 自慢の親友を目の前に、フローリアンも笑顔になった。


「ところでフロー様」


 扉前で見守るラルスに目をやったあと、ツェツィーリアはこそこそと話しかけてくる。


「ラルス様となにか進展はございましたの?」

「ちょ、あるわけないじゃないかっ」

「本当ですの?」


 ツェツィーリアにじぃっと見つめられて、フローリアンは嘆息すると白状した。


「実は……す、すきって言われちゃって……」

「あらっ」

「違うんだ、そういう好きじゃないんだけど……でも……」

「ふふっ、嬉しいですわよね」


 目を細めるツェツィーリアにこくりと頷いて見せる。顔が熱くて、にやけてしまいそうになるのをなんとか我慢した。


「それより最近、イグナーツはどう? 単独のホールコンサートを成功させたって話は聞いているけど」


 話をイグナーツのことに変えると、ツェツィーリアの顔はわかりやすいくらいに明るくなる。


「もう、本当に素晴らしいんですの! 音楽の微妙なニュアンスや表現力を最大限に引き出したアーティキュレーションとフレージング! 指は魔法のように動いて、耳だけでなく目まで魅了されますのよ! ペダリングも見事で、楽曲の深みと繊細さを際立たせているのですわ! 著名な音楽家もイグナーツ様のことを大絶賛していらっしゃるのです!」

「あは、そうなんだ! すごいね!」


 急に饒舌になったツェツィーリアに驚きながらも、うんうんと頷いて聞いてあげる。

 好きな人のすごいところを話すのは楽しいとわかっているし、そんな親友の姿を見られることも嬉しい。

 しかしツェツィーリアはハッとして煌めいていた顔を俯かせた。


「わ、私ったら……興奮しすぎましたわ……申し訳ありません、フロー様」

「謝る必要なんてない。ツェツィーの惚気が聞けるのは嬉しいよ」

「の、惚気だなんて……」


 赤く染まった顔を隠すように、自分の両頬に手を当てるツェツィーリア。

 きっともう、コンサートに行ってイグナーツの姿を見るだけでは、満足できないはずだ。


(イグナーツが有名になった時には僕から呼び出すという約束を、果たさなきゃいけないな)


 世界に名を轟かす、とまではいかないが、国内ならかなり有名になってきているイグナーツである。

 最近は、フローリアンとツェツィーリアとの結婚を望む声がかなり強まっていて、すぐにでも結婚をという状況だ。

 ディートフリートの時のこともあり、周りは不安になっているのだろう。

 現在はフローリアンだけで他に継承者がいないため、これ以上延ばし続けるのも難しい。

 だからうるさく言われるのも仕方なかった。なにせ、婚約してもう七年にもなるのだから。


(ツェツィーはイグナーツのことを、今も変わらずこんなにも想ってる)


 イグナーツのことを話すたびに幸せそうに顔をとろけさせるツェツィーリアだが、イグナーツの方はどうだろうか。

 有名になったら会うという約束をしてから六年。結婚したという話は聞かないが、会えないツェツィーリアをずっと想い続けているとも限らない。


(二人のために、僕ができること……)


 そう考えた結果、出せる答えはひとつしかなかった。


「ツェツィー。イグナーツを王城に呼び出すよ」

「え?」


 驚きを見せるガラスのような瞳に、フローリアン微笑んでみせる。


「もちろん、音楽を聴くという名目でだ。そこでイグナーツと二人、ゆっくり話すといい」

「フロー様……なぜそのようなことを?」


 眉を顰め、不安そうに声を上げるツェツィーリア。

 だいすきな親友には、幸せになってほしい。けれど王たる自分が、駆け落ちを促すわけにもいかない。

 フローリアンは真っ直ぐにツェツィーリアの瞳を見つめた。


「ツェツィーの人生は、ツェツィーのものだ。自分の願う通りに行動して構わない。僕にしてほしいことがあるなら、言ってくれればそうするよ」

「……フロー様」


 フローリアンは、二人の心に任せるしかなかった。無責任なようだが、自分がどうしろこうしろと言える立場にはない。

 駆け落ちするなら手伝うし、婚約を破棄しろと言われたならそうするつもりだ。昔と違い、今ならば自分の意思で婚約破棄も可能なのだから。簡単にとはいかないだろうが。

 今ならば駆け落ちしても、イグナーツは他の国で成功することができるだろう。二人の望むままに、手助けをするくらいしかできない。


「二人で話し合って決めるんだ。いいね」


 強く言うと、ツェツィーリアは首肯してくれた。


(ツェツィーは大事な親友だ。どんな答えを出しても受け入れる)


 フローリアンはそう心に決めた。

 声を顰めていたわけではないので、この会話はラルスも聞いているだろう。

 しかし彼はなにも言わずに自分の職務を全うしてくれていた。


 ツェツィーリアが部屋に戻ったあと、フローリアンは早速イグナーツを呼び出す手続きを行うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
あなたを忘れるべきかしら?
なぜキスをするのですか!
 愛した者を、未だ忘れられぬ者を、新しい恋をすることで上書きはできるのか。

 騎士アリシアは、トレジャーハンターのロクロウを愛していた。
 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
 そのお腹に、ひとつの種を残したままで──。

 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
 アリシアはある日、己に向けられた彼の熱い想いに気づく。
 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
 けれどもアリシアは、ロクロウを待ちたい気持ちを捨てきれず、心は激しく揺れる。

 継承争いや国家間の問題が頻発する中で、二人を待ち受けるのは、幸せなのか?
 それとも──

 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ