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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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044★ラルス編★02.ラルスの決意

 ラルスが宿に戻ってしばらくすると、風呂上がりのフローリアンがやってきた。

 ほかほかと顔を熱らせ、まだ濡れている髪が色っぽい。

 さっきとは違うワンピース姿に目がいき、つい視線が双丘に移動してしまった。あの胸にはなにかを詰めているのかと思っていたが、入っているのは本物なのだ。

 忘れなければいけないと思っていても、自分でどうになる記憶力をラルスは持っていない。


(じろじろ見るな、俺!)


 自制しようと思いつつもつい目がいってしまい、結局は視線があちこちとウロウロしてしまった。


「どうしたんだよ、ラルス」


 ラルスの挙動不審ぶりに、フローリアンがくすくすと笑っている。

 今までと変わらず接するべきだと自分を言い聞かせていると、隣にいたシャインがちらりと横目でラルスを見ていた。


「なんですか、シャイン殿」

「いいえ。あとは任せてよろしいですか? 夕飯までに、私も少しゆっくりしたいので」

「もちろんです。王のことは任せてください」


 そう言うと、シャインは先に部屋へと戻っていった。

 二人っきりとなり、ラルスは失礼にならないようにと思いながら、フローリアンに目を向ける。


「食事まで時間があるようですし、部屋に戻られますか?」

「んー、ちょっと風に当たって涼みたいかな」

「わかりました。じゃあ、その辺を歩きますか」

「うん」


 にこっと微笑まれるだけで、ラルスの心臓が暴れ出す。(おさま)れと思えば思うほどに、言うことを聞いてくれない。

 宿を出てると、夕風が心地よく吹き抜けていく。

 空が赤く染まった綺麗な景色だというのに、視線は常にフローリアンの方へと勝手に向いてしまっていた。


「なんだよ、ラルス。僕の女装姿にも、もう慣れただろ?」

「いえ、何度見ても飽きないですよ。すごく、きれいなんで」

「……バカにしてる?」

「し、してないですよ!! 本当の本当に、きれいだからつい見ちゃうんです!」


 一瞬だけ顔をカッと赤らめたフローリアンは、すぐに夕焼けに目を向けていた。


「そっか……そんなにきれいなら、僕はきっと生まれてくる性別を間違えたんだね……」


 今にも沈みそうな夕日を見ながら、フローリアンは涙を滲ませている。

 彼女は、男として生まれるべきだった……と、そう言っているのだろうか。

 女として生を受けたにも関わらず、男して育てられ、全国民を騙しているという罪悪感にさいなまれ……それでも、女としては生きられない。

 男として、生を真っ当しなければならない立場なのだ。


「間違えてませんよ」

「え?」


 夜風に変わろうとしている空気が、ラルスとフローリアンの間を駆け抜けていく。

 フローリアンはそのライトブラウンの髪を耳にかけながら、驚いたようにラルスを見上げた。


「フローリアン様は、生まれてくる性別を間違えたりはしてません。保証、します」


 その驚いた顔が悲しく揺れ動き、困ったように微笑んでいる。

 おそらく、伝わっていないのだろう。ラルスはフローリアンの本当の性別を知らないと思っているのだから。


「俺のこの言葉を、よく覚えておいてください」

「わかった、覚えておくよ……」


 力のない声。自分の気持ちはフローリアンへと届いていない。響いていない。

 本当は女だとわかっていると言いたかったが、その言葉を飲み込んだ。

 今、側近の護衛騎士がそんなことを言っても困らせるだけだろう。

 重要機密を知ってしまったことをバラしてしまうのは、危険が伴う。最悪、口封じされる可能性もゼロじゃない。


(女だと気づいていることを、俺から言うのは駄目だ)


 伝えたい気持ちをぐっと(こら)えて、ラルスは決意する。


(フローリアン様の信用を勝ち取って……フローリアン様の口から打ち明けてもらうまで、俺からは言わない。そして……この若き王の力になる。必ず。)


 女であることで、この先不都合が出てくるのは必至だろう。

 だから、全力で守り、助け、力になる。

 今までフローリアンはどれだけ孤独で、どれだけ苦しんできたことか。

 それを思うと、胸が痛んだ。そして少しでも心が軽くなればと、ラルスは叫ぶ。


「俺、王がだいすきですよ!」

「……えっ?!」


 消そうな太陽に向かってそう宣言すると、フローリアンはボッと音が出そうなほどに耳まで真っ赤になっている。


 愛おしい、と心の底から感情が湧き上がってくる。

 かわいい顔を独り占めしていることに、愉悦さえ感じる。

 そんなフローリアンの顔を眺めてながら、ラルスは笑った。


「だから、王のためならこの身を捧げる覚悟で頑張れますから! いつでも! 俺を頼ってくださいね!」


 ラルスは口が上手い方ではない。

 だからこそ、心から自分の気持ちを偽りなく伝えたい。

 フローリアンの瞳は、ほんの少し潤んでいるように見えた。


「ラルス……うん、頼りにしてるよ……」

「本当ですか?!」

「やっぱりうそ」

「王ーー!!」

「あははは!」


 フローリアンは笑ってスカートを翻すと、宿の中へと入っていく。

 その姿は、年相応の素敵な女性で。


「本気ですからね、俺」


 ラルスは一人呟くと、自分の力でその笑顔を守るのだと、決意を重ね。

 急いでフローリアンのあとを追いかけたのだった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


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キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


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▼ざまぁされた王子は反省します!▼

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
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