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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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043★ラルス編★01.王の秘密

 ラルスはシャインと護衛を交代し、扉の前の椅子に座った。

 ベッドではフローリアンが少しもぞりと動いたが、寝ているのだろうとラルスは判断した。


 女の格好をしている時のフローリアンは、びっくりするほどきれいでかわいい。

 いや、元々かわいい顔をしているのだ。女の装いをすればさらにかわいくなるのは当然だろう。

 思えばフローリアンは、昔から妙な色気があった。それを言えばディートフリートにも色気はあったが、あちらは大人の男の色気。フローリアンとはなにかが違う気がする。


 先ほど、ラルスはシャインに少し嘘をついた。


 彼女とうまくいかなくなったから別れたというのは本当だが……そのうまくいかなくなった原因は、ラルス自身にあったのである。

 ラルスはいつの頃からか、フローリアンを強烈に意識し始めてしまった。

 弟のような存在だと思っていたのに、時折見せるかわいらしい仕草に、異様に胸が高鳴った。


 当時の恋人は、そんな時にラルスに言ったのだ。『私以外に好きな人ができたんでしょう』、と。

 ラルスが『そうかもしれない』と正直に答えると、頬を思いっきり叩かれて別れることになった。


 自分でもどうかしているとわかっていた。

 王族であり、王となることが決まっているフローリアンを気にして恋人と別れるなんて。身分違いの前に、性別でアウトだろうとラルスは自嘲したのを覚えている。

 自分にそのケはないはずだと言い聞かせ、なんとか自制を保ってきた。

 だが、あの姿はなんだとラルスは頭を抱える。

 ツェツィーリアに借りていたワンピースは、驚くほど似合っていた。足も細くて、化粧をすればその辺の女よりもさらに美しくかわいくなった。かわいいと言ったついでに、うっかり好きだと言いそうになるくらいに。


 正直、恋人と別れてから別の女性と付き合おうと思ったこともある。けど、できなかった。

 だからラルスは、フローリアンとツェツィーリアが心から想い合えるようになる時を待とうと思ったのだ。きっとその時には、ちゃんと祝福して、フローリアンへの気持ちに決着が着くはずだからと。


 ツェツィーリアとイグナーツの仲をラルスが取り持っている時点で、決心などあってないようなものだったが。


 ラルスは立ち上がると、そっとフローリアンの顔を覗き込んだ。

 きれいな寝顔。こんな無防備な姿を見られるのは、今だけだろう。

 フローリアンは誰に起こされることもなく起床し、着替えもすべて自分ですませている。寝顔だって、この旅で見る以外にはほとんどなかった。

 王族の寝顔をこんなに凝視していては、シャインに怒られてしまうだろうかと思いながら、ラルスは朝がくるまでその顔に魅入ってしまっていた。




 ***




 旅も終わりに近づいてきた。

 今日が最後の宿泊で、明日には王都に着く。


「陛下、この宿には温泉がついているそうです。お金を払えば貸切にできるようですので、入ってきてはいかがでしょう」


 シャインがそういうと、フローリアンの目がキラキラと輝きだした。女の格好をしているせいで、いつもの百倍はかわいい。


「温泉? いいね、僕、入ったことないよ!」

「じゃあ俺、お背中流しますよ!」


 そう提案した途端、頭にバシッと手が飛んでくる。


「いたっ! なにするんですか、シャイン殿!」

「王族の方と一緒に入浴など、言語道断です」

「ええ、そうなんですか? じゃあ、シャイン殿はディートフリート様とお風呂に入ったことはないんです?」

「ありますが」

「ずるくないですか!?」

「ずるくありません」


 まったく納得いかないが、フローリアンが困った顔をし始めたので、ラルスはググッと言葉を飲み込んだ。


「ラルス、今陛下は女の格好をしておられるので、覗こうとする輩がいるかもしれません。陛下の入浴中は、外を見回りしてください。私は入り口から誰も入ってこないよう見張りますから」

「わかりました」

「陛下、どうぞ我々のことは気にせず、ゆっくりお入りください」

「うん、ありがとうシャイン」


 るんるんとでも音が出そうな顔で、フローリアンは風呂支度をして行ってしまった。

 ラルスはシャインに言われた通り外に出て、覗き魔が出ないように温泉の周辺を見回る。

 山に近づく太陽がとても綺麗だなと思いながら見回るも、木の板で作られた垣根の前にはラルスしかいなかった。

 まだ夕刻だし、もし覗き魔が現れるならもっと暗くなってからだろう。覗かれる心配はなさそうだと安心していたら、その垣根の一部に穴が空いているのを見つけた。

 誰かが覗き見するために空けた穴だろうか。宿の主人に伝えておかないと、と思いながら、なんの気無しにその穴を覗いてみる。


「!!?」


 その瞬間、ラルスはバッとその場から飛び下がった。

 風呂場には女性が入っていたのだ。ふくよかな双丘に掛け湯していた姿を見てしまい、しまったと目を逸らせる。


(王以外の女性が入っていたのか!? 王と鉢合わせしたらまずい!)


 すぐに王を止めなくてはと急いで戻ろうとしたが、ふと思いとどまった。

 ふくよかな部分に目を取られすぎてしまっていたが、あの顔は王であるフローリアンだった。

 絶対に間違いない。ラルスは一度見ただけで、地図や風景、人の顔などは瞬時に覚えてしまう。

 フローリアンが、幸せそうな顔で体を流す姿が脳内で何回も繰り返されて、ラルスは混乱した。


(王が……女、だった……?)


 嘘のような事実に、額を拳で押さえつける。

 けれど、思い起こせば合点の行くことが多数あった。

 時折見せる可愛らしい仕草。

 似合いすぎる女物の服装。

 一人しかいない上に、次々に入れ替えられていた護衛騎士。

 あれだけツェツィーリアのことが好きでありながら、結婚を渋っていること。

 ツェツィーリアとイグナーツを取り持つようなことをしている理由も。

 すべて、〝女だったから〟の一言で説明がつく。


 垣根の向こうから、ふんふんとかわいいハミングが聞こえてきた。

 完全に女の声だ。どうして今までこの事実に気づかなかったというのか。


 裏切られた、とは思わなかった。

 ただ、今まで無神経なことを言ってしまった自分を悔いた。そして、女として生きられないフローリアンを憐れに思った。

 と同時に、身体中の血が燃え滾るように熱くなる。


(フローリアン様が女でよかった……もうこの気持ちを抑えきれない……っ!)


 今まで騙し騙し扱ってきた己の気持ちが、解放されてしまった。

 相手は王族だということに、変わりはないというのに。

 今すぐフローリアンをかき抱いて、告白したい衝動に襲われる。

 護衛騎士としてそれは駄目だと言い聞かせて、なんとか心を落ち着かせた。

 フローリアンが湯から出た音がして、その鼻歌が遠くに行くと、ラルスはようやく息を大きく吸い込んだのだった。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
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たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
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そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
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あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

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誰より自由で、幸せにするために。

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キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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なぜキスをするのですか!
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