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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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036●フロー編●31.護衛騎士たち

 エルネスティーネがフローリアンの部屋を出ていくと、入れ替わりにラルスが戻ってきた。


「王子、シャイン殿とルーゼン殿もいらっしゃってます」


 今日は来客が多い日のようだ。フローリアンが入室を許すと、シャインとルーゼンが部屋に入ってくる。

 二人はフローリアンの前に来ると目の前で跪いた。嫌な予感しかしないなと思いながら、声を掛ける。


「シャイン、ルーゼン、用件は?」

「僭越ながらお願い申し上げます。陛下の王族離脱を、認めていただきたく存じます」

「王子殿下、どうか王を自由にしてあげてください!」

「……自由?」


 シャインとルーゼンの訴えに、フローリアンは心は棘を持つ。

 自由とはなんなのか。そんなの、誰よりも欲しているのは自分だというのに。思わず嘲笑が漏れてしまう。


「兄さまは、王としての責務を放棄してまで、自由になりたいんだね」

「放棄しているわけではありません。そのために王はこれまで、ありとあらゆることに注力し準備をしてこられたのです」

「母さまに僕を産ませたり?」


 フローリアンがそう言うと、二人は沈黙を保った。それはつまり、イエスということだ。


「とりあえず、顔を上げて。そこに座って良いよ」


 フローリアンが先にソファーに座ってみせるも、シャインとルーゼンは立ち上がるだけで腰をかける様子はない。

 それもそうか、とフローリアンは納得する。思えば、職務中に王族の部屋で椅子に座る護衛騎士など、後にも先にもラルスしか見たことがない。


「それで? 兄さまは僕を犠牲にして、自分だけ好きな人と結ばれようっていうんだろう?」

「自分だけって……王子にもツェツィーリア様が」

「黙っていなさい、ルーゼン」


 ルーゼンの言葉をシャインが遮る。

 周りから見れば、フローリアンは好きな人と婚約できたように見えているだろう。それも王である、ディートフリートの采配のおかげで。

 しかし苛立ちを表に出す前に、シャインが口を開いた。


「フローリアン様。ディートフリート様は、本当にユリアーナ様を愛していらっしゃるのです。それこそ、お二人が婚約された十歳のころから三十年間、ずっと」

「……三十年」


 まだ二十二年しか生きていないフローリアンには、気の遠くなりそうなほどの長い年月だ。フローリアンもラルスに七年もの片想いをしているが、その四倍以上の時間を思い続けているということになる。


「……だからって……王族を離脱しなくても……」

「王には、そうするしか道が残されていないんです! 王は、今まで本当に頑張ってきて、幸せになる権利がある……だから、お願いします! 王子殿下!」


 二人の護衛騎士がディートフリートのために頭を下げている。

 だからこそ、ずるい、という気持ちが湧き上がってきた。

 兄は恵まれているのだ。心を通わせられる部下が二人もいて。

 周りの理解を得られて、すべてを押し付けられる()までもいるのだから。


「いやだ。僕は認めない」

「殿下……」

「王子殿下、どうかお願いします!」


 立ち上がったばかりの二人は、再び跪いて頭を下げた。

 けれど気持ちは変わらない。兄には幸せになってほしいという思いはあるのに、心がどうしても納得してくれない。

 フローリアンは怒りと共に立ち上がると、二人を見下ろす。


「兄さまの力が僕には必要なんだ。すべてを押し付けて自分だけ幸せになろうだなんて、許さな……っ」


 パン、という音が部屋に響いた。


 目に入ったのは、ルーゼンとシャインの驚いた顔。

 ヒリッと頬が痛んで、右に向けられた顔を元に戻す。


「……ラルス」

「わがままが過ぎます、王子」

「……っ」


 ラルスに初めて叱られたフローリアンは、恥ずかしくて消えてしまいたくなった。


「ついさっき、俺と話してたじゃないですか。フローリアン様はこれから立派な王になっていけばいいんだって」

「そう、だけど……」

「他に理由があるんですよね?」


 どうしてそういうところだけ、ラルスは聡いのだろうか。すでに彼にばれてしまっているのだとわかって、フローリアンはボソリと声に出した。


「そうだよ……僕はいやなんだ……ただ、兄さまと離れてしまうのが……」


 そんな子どものような理由。だけど、本心。


「ずっと僕だけの兄さまだったのに! 兄さまは僕を利用するだけして、捨てるんだ!」

「「それは違います、王子殿下!!」」


 シャインとルーゼンが同時に叫んだ。


「違わない! 兄さまは、僕より元婚約者を選ぶんだから……僕に優しかったのは、ただ身代わりが必要だっただけで……」


 喉の奥から涙が迫り上がってくるのを、どうにかこうにか飲み込んで防いだ。

 油断すると今にもしゃくり上げてしまいそうだ。

 妙に静まった空気を震わせたのは、シャインの柔らかい声だった。


「王は、殿下のことを一度だって身代わり扱いになどしておりません。確かに、王位継承者が他に必要だったことは否定致しません。しかし、王は本当にフローリアン様のことを大事に思っていらっしゃいます」

「フローリアン様がお生まれになったとき、どんなに喜んでいたことか! 殿下に見せてあげたかったですよ!」


 ディートフリートの大喜びする姿……もちろん覚えてなどいないが、脳裏で簡単に浮かべることができた。

 なにも言えずにいるフローリアンに、ラルスが優しく話しかけてくれる。


「王子は今まで感じていた陛下の愛情が、嘘だったと思ってるんですか? 王子が生まれてから二十二年間、この日のためだけにあんなに幸せそうに可愛がってくれていたと?」

「……」

「王子、まだわからないというなら、陛下に直接聞くべきです」

「……うん……そう、だね……」


 王位継承者が必要だからと、エルネスティーネに産ませたのは間違いないだろう。

 それがショック過ぎてこんな態度をとってしまっていたが、それと愛情は、また別の話だったのかもしれない。

 今はとにかく、ディートフリートに直接言葉を聞きたい。


「すみません、王子。頬、大丈夫でしたか?」


 ラルスは申し訳なさそうに、フローリアンの顔を覗いてくる。


「びっくりしたよ。叩かれたのなんて、生まれて初めてだ」

「え、初めて? そういえば王子は普段、怒られるようなことはしないですもんね」


 ラルスの言葉に、二人の騎士が笑みを浮かべながら立ち上がる。


「王や王子の間違いを正すことも、我々側近の役目です」

「まぁ、手ェ上げるのは不敬罪だけどな!」

「え、もしかして俺、クビです?」

「そこは殿下のお心ひとつですね」


 シャインの言葉を聞いて、捨てられた子犬のように不安そうに見つめてくるラルス。

 その顔がおかしくて可愛くて、フローリアンはふっと笑ってしまった。


「もう、クビになんかしないよ……ありがとう、ラルス」

「ほ、よかったです」


 心の底から安堵するように、胸を手に当てて息を吐き出していた。そんなラルスを見て、先輩護衛騎士たちはニッと歯を見せたり、目を細めていたりしている。


「いい護衛騎士じゃねぇの」

「あなたに少し似ていますよ」

「俺、さすがに王に手をあげたことはないぞ!?」

「それは当然でしょう」

「まいっか。こいつが俺に似たいい奴だってのはその通りだな!」

「自分で言いますか」

「まぁな」

「まったく、あなたときたら」


 こちらはこちらでそんな会話で笑っていて、二人の仲の良さにほっこりと心は温かくなった。


「じゃあ王子殿下、行きますか。王のところへ」

「今なら王は、一人でお部屋にいらっしゃいますよ」


 今から、兄のところへ。

 緊張する。面倒がられはしないだろうか。本当に見捨てるつもりで産ませたのではないのだろうかと。


「王子」


 不安になっていると、ラルスが大真面目な顔でフローリアンの手を握っていた。


「行ってきてください。俺、ここでお茶を入れて待ってますから。もし陛下が本当に王子を利用しているだけだったなら、やけ食いしながら陛下の悪口でも言ってスッキリしましょう!」


 真剣な言葉に、本当に本気でやる気だということが伝わってくる。


「……うん。じゃあ、行ってくるよ」

「それでこそ王子です!」


 次の瞬間にはラルスはにっこり笑っていて、少し勇気が湧いてきた。


「こいつ、本当に不敬罪を恐れないやつだなぁ」

「きっと、そこがいいんですよ」


 そんな風に話す兄の護衛たちと共に、フローリアンはディートフリートの部屋へと向かったのだった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
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