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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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35/115

035◾️王妃編◾️03.王妃の決意

 王子として育てることとなった娘フローリアンを、エルネスティーネは可愛がりながらも厳しく育てた。

 誰の手も借りずにすむよう、着替えと風呂とトイレは早いうちに習得させた。

 誰であろうとも、絶対に人前で肌を晒してはならないと言い聞かせ、そして女であることを誰にも悟られてはいけないと言い続けた。

 どうして、とフローリアンがエルネスティーネに尋ねることはなかった。それが当然のように受け入れてくれていた。もしかしたら、なんとなく理由を察していたのかもしれない。まだ五歳のフローリアンだったが、優しく聡い子に育っているとエルネスティーネは思っている。


「フロー。今日はお人形を持ってきてあげましたよ」


 フローリアンの部屋から人を追い出して二人っきりになると、エルネスティーネは女の子の人形を出して見せた。


「わぁ! おかあさま、ありがとうございます!」


 半ズボンにサスペンダーをつけたフローリアンは、昔のディートフリートそっくりだ。今はまだ、女だと気付かれないに違いない。

 フローリアンは人形のドレスをうっとりと見つめながら、一人で人形遊びを始めた。


「これはこれはかわいいおじょうさん、ぼくといっしょにあそびませんか? まぁうれしいわ! なにをしてあそびましょう」


 遊びの中ですら、フローリアンが男を演じていることに胸を痛める。

 このままではいけません、と言ったのは女医のバルバラだった。だから今日は、秘密の共有者を増やす予定だ。


 部屋にノックの音が転がった。バルバラとその孫娘のツェツィーリアが来たことを伝えられて、エルネスティーネは入室を促す。

 フローリアンが慌てて人形遊びをやめて隠そうとしたが、いいのよと微笑むと不思議そうな顔をしていた。


「フローリアン。今日から秘密の共有者が一人増えるのよ。あなたと同じ年のツェツィーリア。彼女の前では女の子として振る舞っても、構わないわ」


 そういうと、フローリアンは目をキラキラさせて、人形よりも可愛らしいツェツィーリアを見つめている。


「わあ、よろしく、ツェツィーリア!」

「はじめまして。ツェツィーとおよびくださいませ、フローリアンさま」

「ぼくもフローでいいよ! ともだちなんて、ぼく、はじめて!」


 子どもたちは早くもきゃっきゃと言いながら遊び始めた。

 正直、秘密の共有者を増やすことにはかなり迷いがあった。

 しかも相手はまだ五歳の子供なのだ。どこでうっかりと漏らしてしまうかわからない。

 それでも、と強く推したのは、ツェツィーリアの祖母であるバルバラだった。

 ツェツィーリアは年のわりにしっかりしていて、秘密と言われたことは絶対に言わない子だと、バルバラは言い切っていた。今までに色々と試してみたようだが、本当に人に言うことはなかったそうだ。

 不安はあったが、同性の友人を持たせてあげたい気持ちはエルネスティーネにもあり、結果的に折れる形となった。

 バルバラは女医としても優れているし、エルネスティーネは彼女のことを友人だとも思っている。

 楽しそうに遊ぶフローリアンを見て、ツェツィーリアを連れてきてくれたバルバラに感謝の念を抱いた。


「フローさま、わたくし、ドレスをもってきましたの!」

「え、ほんとう? みせてみせて!」


 バルバラが持ってきた鞄を開けて、子ども用のドレスを取り出している。胸元にレースと花があしらわれ、フリルのたくさんついた優しいピンク色のドレスを見たフローリアンは、目を輝かせた。


「わぁ、すてきだね!」

「フローさま、きてみてくださいませ」

「え、ぼ、ぼくが?」


 フローリアンの打ち鳴らす鼓動がここまで聞こえてくるのではないかというほど、ドキドキしている様子が伝わってくる。

 そのドレスに手を伸ばしたフローリアンは、自分の体に当てがって頬を赤くした。


「すてきですわ! ぜったいぜったい、フローさまにおにあいです!」

「そ、そうかな? じゃあ……」


 そこまで言って、フローリアンは手を止めていた。どうしたのだろうと見ていると、娘は子どもらしからぬ悲しい笑みを浮かべている。


「みせてくれてありがとう」


 そう言って、フローリアンは手の中のドレスをツェツィーリアに返した。


「……きませんの?」

「うん。ぼくはいいんだ」


 そのやりとりを見た瞬間、エルネスティーネの心は罪悪感で締め付けられる。

 我が娘に、どれだけの我慢を強いてしまっていたのかと。

 ツェツィーリアの前でだけは、女の子でいても構わないと告げたのに、それでも素直になれないのだろう。


 そういう運命を強いてしまったのは……紛れもない、エルネスティーネ自身。


「王妃様?」


 バルバラが目を見広げていた。いつの間にかエルネスティーネの目から、涙がこぼれ落ちていた。


「おかあさま、どうしたの!?」


 心配そうに駆け寄ってくれるフローリアン。

 本当に、本当に良い子に育ってくれている。

 男として育てられていることに文句ひとつ言わず、王子として求められることをすべてやってのけているのだ。


「……ごめんね……フロー」

「おかあさま? なかないで! ぼく、がんばるから……だいじょうぶだから! おかあさま、ないちゃやだぁ!」


 抱きついてくれる愛娘をぎゅっと抱きしめ返す。


「ありがとう、フロー。もう、大丈夫よ」

「ほんとうに……?」

「ええ、フローに力をもらえたもの」


 パッと顔を上げたフローリアンは、えへへと照れるように笑っている。


「よかった! ねぇツェツィー、つぎはなにしてあそぶー!?」


 フローリアンの興味はすぐにツェツィーリアの方へと戻っていき、エルネスティーネはほっと息を吐いた。

 しかし、とエルネスティーネは気を引き締める。


(私が被害者ぶっていてはいけないのだわ。被害者は、フローなのだから)


 己に泣く権利などないことに気がついたエルネスティーネは、バルバラをそばに呼び寄せた。


「どうされました、王妃様」

「バルバラ。あなたを私は信用しているわ」

「ありがとうございます」


 エルネスティーネは、心の底からバルバラとヨハンナを信用している。許可なくフローリアンを女だとばらすようなことは、しないとわかっているのだ。


「私のこの信用を裏切ったときにはどうなるか、わかっているわよね?」


 じろりと初めてバルバラを睨んだ。

 その視線を受けた彼女は青ざめ、そして少し悲しげに首を垂らしていて心が痛む。


「わかっております。私も孫娘のツェツィーリアも、絶対になにがあっても他に漏らしたりはいたしません。この首に掛けて、お約束いたします」


 大事な友を脅し、それでもなお彼女は受け入れてくれる。

 胸が熱くなって泣きそうになったが、それをぐっとこらえた。


 すでに男であると公表したことは覆せない。

 もしも暴露されれば、エルネスティーネはもちろん、フローリアンもどうなるかわからないのだ。

 国民の不信を買うことは必至で、ラウレンツやディートフリートも失脚、王制を取り潰されることにもなりかねない。


 今までは、バルバラやヨハンナとは信用で成り立っていた。が、もうそれだけで守れるなんて驕っていてはいけないところにきている。

 愛するフローリアン、そして家族を守るためには、非情にならなければいけないのだ。


 (家族とフローリアンを守るためになら、私は悪魔になりましょう。悪魔に涙なんて、必要ない。私はもう二度と……泣かないわ)


 二人の天使の振り撒く笑顔を見て、王妃は一人、決意したのだった。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
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「もう、時間を巻き戻さないでください」
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気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
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第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

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どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

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そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

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神盾列伝
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なぜキスをするのですか!
 愛した者を、未だ忘れられぬ者を、新しい恋をすることで上書きはできるのか。

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 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
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 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
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 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

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― 新着の感想 ―
[良い点] 並々ならぬ王妃さまの決意が伝わって来ました。 子どもの頃からフローリアンやツェツィーが健気でほろりとさせられました。
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