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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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034◾️王妃編◾️02.王妃のひみつ

 エルネスティーネとラウレンツは、毎日毎日薬を盛られ続けた。

 妊娠が分かるまでの三ヶ月間、毎日だ。

 子ができたことをディートフリートに告げると、ようやく媚薬入り料理は出なくなってホッとする。

 もう一生分の行為を果たした気分だ。若い時ならいざ知らず、もう四十を目の前にしている体である。

 兎にも角にも、早目に妊娠できて良かった。長く続けば、本当に体が持たなかっただろう。


 ラウレンツもディートフリートも、大きくなっていくエルネスティーネのお腹を見るたびに喜んでくれた。

 二人はプレッシャーを与えないように配慮してくれているので口には出さないが、男の子を望んでいることだろう。


 しかし、エルネスティーネだけは女の子を望んでいた。

 神様どうか、女の子をお与えくださいと。毎晩星に祈るほどに。



 月日は流れ、ぱんぱんに張ったお腹が徐々に痛みを増してきた。

 とうとう、分娩の日がやってきたのだ。


「母上、頑張ってください!」

「男はなにもできんのが悔しいな……頑張ってくれ、エルネス」

「はい……」


 息子と夫は、そう言って部屋を出ていった。

 分娩時の男性の入室は禁止されている。

 今部屋にいるのは、女医のバルバラと侍女ヨハンナの二人だけだ。長い付き合いで、気の知れた仲である。


 エルネスティーネの出産は、時間がかかった。

 痛みと眠気で頭がおかしくなりそうなのを耐えて、耐えて、耐えて、ようやく生まれたのは本陣痛から一日半経った夜中だった。


 生まれたばかりの「ほやあ」という可愛い声が部屋に広がる。


「王妃様、おめでとうございます。可愛い女の子でございます」


 汗と涙でぐしゃぐしゃになっているエルネスティーネに、生まれた子の顔を見せてくれた。

 女の子だった。

 こんなに嬉しいことはない。

 長年望んでいた女児が、ようやく自分の元にきてくれたと、エルネスティーネは喜んだ。


 と、同時に。


 とてつもない不安に襲われる。

 ディートフリートは、男の子が生まれるまで、また薬を仕込み続けるのだろうかと。

 夫に毎晩抱かれ続け、子ができればまたこんなに苦しんで産まなければいけないのだろうかと。


 そう、男児が生まれるまで……ずっと。


 無理だ、とエルネスティーネは思った。

 念願の女の子はもう生まれた。三ヶ月間、夫に抱かれ続け、もう心も体も満たされた。そして疲れた。

 これ以上の高齢出産は、リスクが伴う。子を産むことは、己の寿命も減らしてしまうような気さえした。


「王妃様、陛下にお知らせして参りますわ。とても可愛い女の子ですと……」

「待って、ヨハンナ!」


 エルネスティーネは侍女を必死で呼び止めた。

 女児を産んだと知られては……だめだ。


「二人とも……お願いがあるの」


 出産を終えた直後とは思えない、厳しい顔をしていたことだろう。

 二人は不思議そうな顔をしてエルネスティーネを見ている。


「生まれた子は……男の子ということにしておいて」

「な、なにをおっしゃっているんですか、王妃様?!」


 女医のバルバラが声を上げたのとは反対に、ヨハンナはさすがに冷静だ。


「いつまで、でございますか?」

「おそらく……一生よ」

「娘を男として生かす覚悟が、王妃様にはお有りなのですね?」


 女として生を受けた娘を、男として生かす。

 なんという残酷な仕打ちをしようとしているというのか。

 それでも、ディートフリートはユリアーナを思って、いつかは王族を離脱してしまうだろう。

 この国には男児が必要なのだ。ラウレンツが若い妾を持ち、そちらに男児を産ませたなら解決できる問題かもしれない。

 だがそれは、エルネスティーネの王妃としてのプライドが許せなかった。

 王位を継ぐのは、自分の子であってほしいというエゴ。

 そのために娘を犠牲にするつもりなのかと、エルネスティーネは葛藤する。


「王妃様……お事情は、私にもなんとなくわかっております」


 ヨハンナは、懊悩するエルネスティーネに優しい声を上げた。


「私は、王妃様のご意思に従います。王妃様のその罪悪感は、私が半分請け負いましょう」

「ヨハンナ……」

「この子に恨まれる時は、私も一緒ですわ、王妃様。そして私たちは、誰よりもこの子の幸せを願い、そのために尽力いたしましょう」

「ええ……ええ、そうね……」


 もう一人産む気力も体力もない……産めたとしてもまた女の子かもしれないと思うと、そうするしか道はなかった。

 ユリアーナには、ディートフリートと幸せになってもらいたい気持ちがある。そうすると、ディートフリートは王族を離脱しなければならない。

 王位継承権は、血縁の男児に限られるのだ。胸に罪悪感を抱えたまま、それでもエルネスティーネは覚悟を決めた。


「この子を、王子として育てます。陛下にも、ディートフリートにも、誰にも言ってはなりません。わかりましたね」

「はい、王妃様」

「わかりました。一生、この胸に仕舞っておきましょう」


 侍女と女医が、そう約束してくれた。


 女児だとバレないようにしっかりおくるみをし、それからラウレンツとディートフリートを呼びに行ってくれる。

 夫と息子は男児と聞いて、大喜びで部屋に入ってきた。


「母上、おめでとうございます!」

「エルネス、よくやってくれた。本当にありがとう」


 喜ぶ二人を見ると胸が痛くなる。しかし、二人にまで心労をかけさせるわけにはいかない。特にラウレンツは無理をし過ぎたせいか、最近めっきり体力が落ちているのだから。

 娘を王子として育てるというのは、自分で決めたこと。

 騙すと決めたなら、最後まで騙し切ってみせる。その上で、可愛い娘の幸せを確保する方法を、模索する。

 いい方法が思い浮かんでいるわけではなかったが。


「父上、名前は何にするのですか? 僕は、ハインツやイェレミアスというのが高貴な感じでいいと思うのですが」

「それよりも、バルトロメウスやギルベルトなんていうのはどうだ? 男らしくてかっこいいだろう!」

「ダメです!!」


 男二人の提案を、エルネスティーネはバッサリと切り捨てる。娘にそんな男らしい名前をつけるなんて、とんでもない。


「いい名前だと思ったんだがなぁ……」

「では母上は、どんな名前がよろしいんですか?」


 そう言われて、エルネスティーネは考え込んだ。

 女の子が生まれた時には、フローラティーネと名付けたかったが、これは明らかに女性名だ。王子である娘に、つけられるはずもない。


「名前は……フローリアン……そう、フローリアンが良いと思いますわ」

「フローリアン! 良い名ですね!」

「ちょっと弱々しくないか? バルトロメウスの方が……」

「フローリアンにしてくれなければ、この子は抱かせません」

「わ、わかったよ。半年間、ずっと考えていた名前だったんだがなぁ……」


 肩を落とすラウレンツが少し可哀想だったが、バルトロメウスなんて名前を娘につけさせるわけにはいかない。せめてもの、母心だ。


 フローリアンは、父親と兄に抱かれ、やはりホヤホヤと泣いている。

 その姿は、本当に愛あふれる親子の図で。


「生まれてきてくれてありがとう、フロー……」


 そしてごめんなさい、と心で謝ったのだった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
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行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
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たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
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なぜキスをするのですか!
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 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
 そのお腹に、ひとつの種を残したままで──。

 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
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 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
 けれどもアリシアは、ロクロウを待ちたい気持ちを捨てきれず、心は激しく揺れる。

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 それとも──

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キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


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