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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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029●フロー編●27.作られた理由

 王位継承権の第一位が自分だということはわかっていた。

 それでも、こんなに早く継承されるとは思ってもいなかったことだ。

 優秀な兄でさえも、王位を継いだのは二十八歳の時である。

 ディートフリートは健康で大きな病気などしたことがないし、命尽きるまで王座に就くものだと思っていた。それが王座を退くだけでなく、まさかの王族離脱だ。

 フローリアンなりに努力を重ねてはいるが、まだまだ議会の信用を得られているとは言えない状態である。こんな状態でディートフリートに抜けられては、議員の一部はここぞとばかりにフローリアン叩きを始めるだろう。

 今まではディートフリートという存在がいるだけで、言葉はなくとも盾になって守ってくれていたのだ。それが今後はすべて、自分で解決しなくてはならなくなる。


「……兄さまの、ばかっ」


 自室で広がるフローリアンの独り言は、いつものように扉の前に立っているラルスにしか聞こえていないだろう。


(こんな年齢で王になるなんて、聞いてない……っ)


 痛いくらいに唇を噛み締める。

 先王である父は体の具合が悪く、助けてはくれないだろう。

 ラルスはいるが、彼は護衛騎士であって政務を手伝ってくれるわけではない。

 女であることを隠し続け、人と距離をとってきた弊害か、フローリアンには信用できる専属の重臣がいないのだ。


(これからは僕がこの国の手綱を握っていくの……? 怖い……っ)


 フローリアンに好意的な者ばかりではない。不祥事でも起こそうものなら、九百年以上続くこのハウアドル王国が亡くなる事態にもなりかねない。


(ますます僕が女だってバレるわけにはいかなくなった……ツェツィーとの婚約破棄も絶対に不可能だ……!)


 がばっと頭を抱えてフローリアンは机に突っ伏した。

 逃げ出せるものなら逃げ出したい。

 このまま王となっても、光り輝くような栄光を手に入れられるとは思えない。むしろ未来は、さらなる絶望が待ち受けている想像しかできなかった。


(でも……逃げられない。僕はきっと、このために作られた(・・・・・・・・・)から……)


 兄弟戦争を嫌忌していたはずの両親が、兄と十八歳もの差を開けてフローリアンを産んだのも。

 ディートフリートが独身を貫いていたことも。


(僕が生まれた時、兄さまが誰より喜んだって言ってのは、シャインだっけ……そりゃ喜ぶよね、王族の離脱を目論んでいたんだから。王を継ぐ者が、どうしても必要だった)


 そのためだけに作られたのだとわかり、フローリアンの心臓は悲鳴をあげそうなほど収縮した。


(僕はただの、身代わりだったんだ!!)


 望まれて生まれたには違いないだろう。身代わりとして。

 道具のように必要だから生み出されたのだと知り、悔しくて悲しくて、ぽろぽろと涙が溢れ出た。


「王子……なにがあったんですか」


 いつの間にかラルスがそばにまで来ていて、優しく背中をさすってくれる。


「よかったら俺に教えてください。フローリアン様の力になりたいんです」


 優しくされると、ますます涙が湧いてしまう。

 ひっくとしゃくり上げながら、ラルスの顔を横目で見る。

 心から心配してくれているのがわかって、地の底まで落ちていた自分の存在意義に、少しだけ価値を見出せた気がした。


(きっと、ラルスは僕を利用したりしない……)


 それは全幅の信頼だった。

 そんな人がそばにいてくれるというだけで、絶望感から心が救われる。


「王子──」


 ラルスがまたなにか言いかけたところで、部屋にノックの音が響く。

 すぐにラルスが反応して、扉を開けて対応してくれた。


「王子、陛下がお見えになりました」

「……」

「入っていただきますよ?」


 フローリアンが仕方なく頷くと、現国王のディートフリートが中へと入ってくる。


「フロー」


 声を掛けられても、尖ったままの心では、返事もできない。


「急な話で申し訳ないと思っているよ。でも私はこのチャンスを逃すつもりはないんだ。わかってほしい」


 わかりたくない、勝手すぎると、口を開けば叫んでしまいそうだった。

 だからフローリアンは口を噤んだまま、兄を睨むように見る。


「王子、陛下がここまで言ってるんですから」

「いや、いいんだラルス。また来るよ。フローもまだ気持ちの整理がつかないだろう」


 帰ろうと踵を返すディートフリートに、ラルスが送りながら声を掛けている。


「あの、陛下。一体なにがあったのか教えてもらっても?」

「ああ、実はね。私は愛する人と一緒になるため、王族を離脱するつもりでいるのだよ」

「離脱……!?」


 さすがのラルスも驚いたように目を広げた。


「それは……おめでとうございますと言って良いんです……よね?」

「はは、ありがとう。祝ってもらえるのは嬉しいよ。フローに王位継承の承諾をもらわなければいけないけれどね」

「王子が、次の王……」


 ラルスの頭の中では、すでにフローリアンが王となった姿が想像されているに違いない。そう思うと、ため息が出そうだった。


「じゃあ、また来るよ。フローを頼む」

「はい、お任せください」


 そう言って、ディートフリートは部屋を出て行く。

 扉を閉めたラルスが、またすぐにフローリアンの前までやってきた。


「王子は王になるのが不安で、泣いてたんですか?」

「……」


 ラルスには情けない奴だと思われたくない。フローリアンは、俯いたままじっと動かなかった。


「新しいことを始める時って不安ですよね。でも俺、わかってますよ。フローリアン様は努力の人ですから、きっと良い王になれるって」

「……適当言うなよ」

「適当じゃないですよ」


 ラルスがしゃがむと、座っているフローリアンと同じ目の高さとなった。

 膝の上で作っていた拳を、そっとラルスに握られる。


「全部自分でやる必要ないんですから。周りに助けてもらいながらやっていけば良いんです。俺もできることはなんでもやりますよ!」


 真っ直ぐに飛び込んでくる瞳。

 気持ちは嬉しい。信じてくれることが心地いい。

 だけど、女ということを明かせない苦悩を知らずに、自分だけ幸せになろうとする兄が、どうしても許せないのだ。

 大好きで大好きで大好きな兄だからこそ、ただ利用されていたことが苦しい。


「兄さまがずっと王でいればいいんだ。僕は王にはならない……」

「……王子」


 フローリアンの言葉に、なぜかラルスは傷ついた顔をしていた。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
あなたを忘れるべきかしら?
なぜキスをするのですか!
 愛した者を、未だ忘れられぬ者を、新しい恋をすることで上書きはできるのか。

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 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
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 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
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 継承争いや国家間の問題が頻発する中で、二人を待ち受けるのは、幸せなのか?
 それとも──

 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
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