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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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028●フロー編●26.現実

 フローリアンが二十歳を迎えたあたりから、周囲からツェツィーリアとの結婚はいつなのかと急かされるようになってきた。

 その度に『陛下を差し置いて結婚などできない』『ベルガー地方の創生が軌道に乗るまで』とさまざまな理由をつけ、延ばし続けて二年。現在は二十二歳になっている。


 有名な音楽家になると豪語していたイグナーツは、王都ではかなりその名を知られるようになっていた。

 一度、話をしなければならないとは思っているが、今は実績を積んで信用を得たいところなのだ。案件をいくつも抱えているので、イグナーツと会っている暇もなく日々が過ぎている。

 護衛騎士のラルスは、今も変わらずフローリアンのそばにいた。


「王子、陛下から重要な話があるということで、今すぐ先王陛下の部屋に来てほしいそうです」


 護衛になりたての二十歳の頃よりも、キビキビとして男らしくなったラルス。いつか彼のことを諦められるだろうと思いながら、気持ちは変わらず続いている。

 ラルスは現在二十七歳。なんの報告もないので、まだ結婚はしていないようだ。

 付き合っていた恋人とどうなっているのかは、怖くて聞くこともできていなかった。


 先王である父親の部屋への呼び出されたフローリアンは、言われた通りに移動する。

 先代の王ラウレンツは現在、体調がすぐれず、部屋で寝たきりである。王の間ではなく、父の部屋ということは、家族全員が聞かなければいけないということだ。

 結婚の催促ならわざわざ家族ですることもないはずで、なんだか嫌な予感がした。

 部屋に入ると、すでに父、母、兄が揃っている。


「兄さま、どうなさったのですか? 大事な話とは……」


 フローリアンが兄に目を向けると、ディートフリートはにっこり笑った後、両親の方に顔を向けた。


「私の元婚約者であるユリアーナが、国境沿いのエルベスという町で見つかりました」


 元婚約者、ユリアーナ。

 フローリアンも名前だけは知っている。彼女の父親ホルストが不正を働いたために婚約破棄となり、王都を追放された元侯爵令嬢だと。

 ディートフリートやシャインらはウッツ・コルベを投獄したものの、ホルストの不正がウッツによる画策だったとは証明できなかった。だからもう、ユリアーナのことは諦めたのだと思っていたが。


「ユリアーナが……? 元気にしていたの?!」


 エルネスティーネが歓喜の声をあげていて、フローリアンは呆然とした。

 とっくに縁が切れたはずの娘を、どうして気にしているのか、理解ができない。


「うん、元気だったよ」

「そう……良かったわ……」


 この二十年間、気丈に振る舞っていたエルネスティーネが鼻を鳴らした。涙こそ見せていないものの、フローリアンの胸にズンとなにかがのしかかる。


「ディート……まさか、ユリアーナを王妃に迎えたいと言うのではないだろうな……」


 ラウレンツの言葉にフローリアンは目を見開いた。

 先ほどから展開についていけないが、もしユリアーナという女性が王妃となるなら、フローリアンとツェツィーリアはお役御免になるはずだ。

 やった、と一瞬心で叫ぶも、彼女の父親の汚名は晴れていない。どうするつもりかと疑問を浮かばせた瞬間、ディートフリートは口を開いた。


「私は王位をフローに譲って王族を離脱し、一般人としてユリアを娶りたいと思っています」


 予想外の兄の言葉に、フローリアンは思わず大きな口を開ける。


「はぁあああ?! 兄さま?!」


 冗談じゃない、という言葉は、かろうじて飲み込んだ。

 婚姻の話ではなく、まさかの王位継承が言い渡されて、頭は一瞬にして掻き乱される。

 フローリアンの混乱をよそに、母エルネスティーネは『やっぱり』と言いたげな顔をし、父ラウレンツはベッドの上でクックと笑っていた。


「な、なにを笑っていらっしゃるのですか、父さま! 兄さまを止めてください!」


 フローリアンの言葉を聞いても、父の笑い声は止まらない。


「ははは、いつかそう言うのだろうとは思っていたがな。お前が弟を作れと言った時から、覚悟はしていたよ」

「ふふ、そうですね」


 ついていけない。どうしてこんなことになっているのか、まったく理解できない。

 そして、今すぐにでも王族を離脱を望むという兄に、父は言葉を放った。


「お前の気持ちはよくわかった。だが王族を離脱するのは、次の王になるものを説得してからにせよ。わしからはそれだけだ」


 実質の先王からの承諾。ディートフリートの視線はフローリアンに移される。


「フロー」

「待ってください、兄さま! 僕はまだ二十二歳ですよ?! まだまだ、王の器ではありません!」


 フローリアンは必死になってそう言い訳した。

 結婚はともかく、王になるのはまだ先だと思っていたのだ。急に言われて決心がつくわけもない。


「フロー、頼むよ……お前しか、王になる者はいないんだ」

「無理です! 僕は若輩者で、まだ力も人脈も勉強も足りない! 兄さまのような国家政策ができようはずもないではないですか!」

「大丈夫。フローなら、私以上に素晴らしい国を作ってくれる。最近の政策は目覚ましいものがあるよ」


 それは、いつか女性の権利保護政策を実現させるために頑張っていたものだ。

 ディートフリートが誰かと結婚し、女の子が生まれた時のためにと。

 その兄が王族を離脱するなんて考えてもしておらず、まさに青天の霹靂だった。


「無茶を言わないでください……っいきなり言われて、はいそうですかと気軽に受け入れられる案件ではありませんよ!」

「私は昔から、王になる自覚を持つよう伝えていたつもりだけどな」

「それがこんなに早くなるとは聞いていないです……っ」


 兄のディートフリートは、現在四十歳。もう何年も前から賢王と呼ばれるほどの手腕を持っている。まだまだこれから六十歳でも、なんなら七十歳まででも王に君臨できる器であるというのに。


(どうして僕が王になんか……! 僕は、女なのに……!)


 怒りと悲しみが入り混じり、目からじわりと涙が滲んだ。


「とにかく、僕はまだ王になんてなりませんから!!」

「あ、フロー!」


 今まで頑張っていたこと、すべてが無駄になったように感じて。

 フローリアンは兄の止める言葉も聞かず、その場を後にした。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

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ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
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行方知れず王子
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「イライジャ様ッ?!!」

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王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
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たとえ貴方が地に落ちようと
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そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

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誰より自由で、幸せにするために。

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▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

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[良い点] フローリアンの苦悩も知らずに、嬉しそうに和やかな会話をする先王とディートフリートがなんとも……。 誰も悪くはないですが、フローリアンの気持ちを考えると、とても辛いシーンですね。年数も経って…
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