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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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026●フロー編●24.思い通りにならない理由

 部屋に戻ると、フローリアンは机の上に突っ伏した。

 振り払おうとしても議員たちの嘲笑が頭から離れてくれない。

 ベルガー地方の件は上手く承認させることができたが、女性の権利保護政策の方は話すらさせてもらえなかった。

 議員たちへの怒りと自分の不甲斐なさに、唇を噛み締める。

 準備していたのに使えなかった資料を掴むと、ぐしゃっと音がして紙が張りを失った。


「せっかく作った資料です。そんな風に扱っては、可哀想ですよ」


 横からラルスが資料を取っていく。綺麗に広げてくれている気配がしたが、フローリアンは机に額を押し当てたまま動くことはしなかった。


「お疲れ様でした。昨日帰ってきたばかりで休む暇もなかったですから、ちょっとゆっくりしましょう」

「……」

「お茶、淹れてきましょうか」

「……」

「散歩でもします?」

「……」


 返事をするのも億劫だった。フローリアンの口は接着されたかのように動かない。

 そうしていると、フローリアンの頭にポンと温かい手が乗せられた。


「ベルガーの創生案、良かったですよ。めちゃくちゃ頑張ってましたもんね!」

「兄さまの代わりなんだ……あれくらいできて当然だよ……」


 ぽそりと呟くと、頭の上の手が、何度も髪を撫でるように往復してくれる。


「さすがは俺の王子です! 賢王ディートフリート様にも負けてないってことですもんね!」

「もう、誰がラルスのものだよ。兄さまにも負けないって、大袈裟なんだって」


 その語り草に負けて顔を上げると、ラルスは目が無くなりそうなほどに笑っていた。

 悲しさも苛立たしさも無力感も、ラルスの言葉と表情によって掻き消される。


「大袈裟じゃないですよ。フローリアン様は歴代の王の誰より頑張ってますから!」

「ラルスは歴代の王を見てきてないじゃないか!」

「そういえばそうでしたね!」

「っぷ! もう!」


 一瞬で笑わせてくれるラルスに感謝した。鬱々としていてもなにも変わらない。前を見なければいけないのだと、気持ちを切り替えられるように心を整える。


「女性解放運動の件は、残念でしたね……」

「うん……でも、僕の考えが間違っているとは思えないんだ。ラルスはどう思う?」

「難しいことはあんまりよくわからないですけど、議会の連中の考えが気持ち悪いってことはわかりますよ。俺はあんな人たちのようにはなりたくないですね」


 世の中の男全員があんな考えだとしたらと思うとゾッとしたが、ラルスの考えを聞いて幾分ほっとした。


「そうだよね……僕の考えはおかしくないよね?」

「多分ですけど、年齢的なものもあるんじゃないかと思うんですよ。年齢が上がるほど、女性を下に見る人が増えますよね。まぁ俺より下の世代でも、そう育てられた人はやっぱり下に見てますけど」

「年齢的なもの、か……」


 確かに議会のメンバーは若くても四十代、他は五十から七十代と、若者がいない状態なのだ。


「これからの世を決めて行くなら、ご老体はさっさと引退してもらいたいですよねー」

「っぷ! そうかもね」


 彼らの知識と経験が有益であることはもちろんだ。

 けれど保身に走っていることもあるし、今後の若者の暮らしのために真剣に取り組んでいるように見えないこともしばしばあった。


(自分の利益にしか興味のない者が、一定数いるのは確かなんだよね)


 そんな議会の現状に、思わず息が漏れる。


「変えるならまずはそこからかな……議会の若年化と、今は二人しかいない一般の代表を枠を増やすこと。それも、女性の権利保護政策を後押ししてくれるような人物がいい」

「まずは辞めてもらわないといけないですね、あの議会のじいさん方」

「……辞めないだろうなぁ」

「机にしがみつきそうですもんね」


 引き剥がそうとしても必死に机にかじり付く議員たちを想像して、フローリアンとラルスはぷっと笑った。


「あ、じゃあ議員の上限年齢を決めればいいんじゃないですか? 議員は五十歳で引退しなきゃいけないとか」

「それ、可決すると思う?」

「思わないです!」

「もう、だったら言わないでよ! あは!」

「あははっ」


 ラルスと話すと、八方塞がりなことまで笑えてくる。気分は上向きになり、お茶を淹れてもらうことにした。


「フローリアン様は、どうしてそんなに女性の解放運動を推進したいんです?」


 お茶を一緒に飲みながら、ラルスは素朴な疑問をぶつけてきた。否定するわけではなく、ただ単純に気になったのだろう。彼はそういう男だ。


「この国の女性は自由が少なすぎる。兄さまの政策のおかげで、職業の自由が与えられたくらいだ。人によってはその職業さえも、結局は親に決められてたりするけどね」

「学校教育によって、今の子どもたちの価値観はかなり変わってきていると思いますけどね。やっぱり大人世代がなぁ」

「うん。どうにかして頭を柔らかくさせたいよ。僕はね、ラルス。女性にも王位継承権があっても良いと思ってるんだ」

「女性に王位継承権ですか……!」


 ラルスの目が大きく開かれた。その表情には驚きと興味と肯定が入り交じっていて、フローリアンは安心して頷いて見せる。


「うん。このハウアドル王国の歴史上、女性が王になったことは一度もない。それは、女性には継承権が与えられていないからだ。僕はこの部分を変えたい」

「でも、今この国にはハウアドル王の女性の血族はいないですよね」

「今はいなくとも、兄さまが結婚した時に女の子ができるかもしれないだろう?」

「陛下って、結婚する気あるんですか?」

「それはなさそうだけど」


 フローリアンが答えると、さすがのラルスも苦笑いしている。兄が結婚してくれていたら、万事解決だったのにとフローリアンは息を吐いた。


「今後どうなるかわからないからこそ、女性に継承権を持たせておきたいんだよ」

「なるほど。それを実現させるために、まずは女性の地位向上の政策をしたいんですね」

「そういうこと」


 フローリアンが答えながら、最後まで飲み切ったカップをソーサーに戻した。

 ちょうどその時、部屋の扉がノックされてラルスが即座に立ち上がる。

 相手が誰かを確かめると、ラルスはフローリアンに向かって声を上げた。


「王子、シャイン殿です。お話があると」

「シャイン? ああ、構わないよ、入ってもらって」


 フローリアンの言葉を受けたラルスが、シャインを中へと(いざな)ってくれる。


「王子殿下」


 扉から現れたシャインは、いつもより少し険しい顔をしていた。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
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ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

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気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
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キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
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異世界恋愛 日間4位作品
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第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
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急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

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それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

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そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
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誰より自由で、幸せにするために。

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キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
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なぜキスをするのですか!
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キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


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