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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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018●フロー編●16.城下町のウェイトレス

 イグナーツと約束をしてから一年。

 ツェツィーリアとの婚約からは二年が過ぎた。


 男は十八からしか結婚できないこの国では、もちろん王族もその対象となっている。

 フローリアンは現在十七歳でまだ結婚はできない年齢だが、十八になっても結婚をするつもりは当然なかった。どうにかしてツェツィーリアとの結婚を延ばしていくつもりである。

 イグナーツは音楽家を続けているが、やはりというべきか、貴族だった時と比べて活動は縮小していた。それでも頑張っている方だと言えたが。


 フローリアンは最近、今まで以上に勉強する時間が増えた。王になるための備えだとわかっていても……いや、わかっているからこそ、気が重くなるばかりである。

 しかし国をより良くしたい気持ちは、兄に負けないくらいにはあるのだ。だから文句を言うこともせず、勉学に励んでいる。

 家庭教師が帰ると、フローリアンは手を突き上げるようにして体を伸ばした。


「ふぁあ、疲れた……」

「長時間お疲れ様でした、王子! よく頑張りましたね!」


 ラルスは相変わらずの元気さで、嬉しそうに笑っている。ラルスがそばにいてくれると、安心して集中できるのだ。

 勉強が終わると、これでもかと褒めてくれることもやる気のひとつになっている。


「本当に毎日毎日勉強ばかり、すごいですよ。俺には無理です」

「これが僕の役目だからね。ラルスだって、朝は鍛錬してるだろ? 僕には無理だ」

「無理なことはないですよ。一緒にやりますか、鍛錬」

「遠慮しとく。僕が強くならなくっても、ラルスが護ってくれるしね」

「それはもちろんですよ! 俺の仕事ですから!」


 力いっぱいに肯定されると、なんだか照れる。

 護ると言われただけで、ただの仕事だとわかっていても心は浮き立ってしまう。

 しかしラルスはそんなフローリアン気づくこともなく、腕を組んで唇を突き出した。


「でも最近、王子は部屋で勉強ばかりだから護衛らしいことしてないんですよね。せめて歩きたいですよ」


 確かに、ずっと部屋で監視をしているだけというのは暇だろう。それが仕事とはいえ、逆の立場だったらげっそりしてしまいそうだ。


「王子もずっと勉強ばかりで大変でしょう。明日はお休みをもらって、町へ出かけませんか?」

「え? そりゃ、できるならそうしたいけど」

「じゃあ交渉しましょうよ! 言うだけならただです!」


 ラルスの言い草にフローリアンはぷっと笑いながらも頷いてみせる。


「うん、そうだね。お願いするだけしてみようか」


 毎日言われるがまま、組まれたスケジュール通りに過ごしていたフローリアンは、こんな簡単なことさえも気付かなかった。

 そうして訴えたフローリアンの初めてのわがままはあっさりと通り、翌日はラルスと二人で町に繰り出す。

 からりと晴れた空に白い鳥が舞っていて、その眩しさにフローリアンは目を細めた。


「まさか、こんなに簡単に休みが取れるなんて思わなかったよ」


 フローリアンの呟きに、赤髪に紺色の騎士服を着たラルスは、嬉しそうに笑っている。


「王子が毎日真面目にがんばってるからですよ。不真面目だったらこうはいきませんって」

「あはっ、そうだね。なんにしても、ありがとうラルス」

「どういたしまして!」


 予期せぬ休みが取れたことにわくわくする。しかも、ラルスと一緒にお出かけだ。

 名目上は城下の視察ということにして、フローリアンはあちこちのお店や広場を見て回って楽しんだ。


「少しお腹が空いてきたね。ラルスはいつもどういうお店で食べてるの?」

「俺ですか? 大したところは行ってないですよ。そこの店とか、あと色々適当に」

「ここ? じゃあ、入ってみよう!」

「……まぁ、いいですけど」


 珍しく歯切れの悪いラルスを少し不思議に思ったが、ラルスはすぐに笑顔を取り戻して店へと案内してくれた。

 天気がいいのでテラス席にしましょうと言われて、小さな二人用テーブルの椅子に腰掛ける。


「なにかおすすめはある?」

「そうですね、『ちょっと贅沢なパスタセット』なんかは、王子の好みだと思いますよ」

「じゃあそれにするよ。ラルスもお腹が空いただろう。好きに食べていいよ」

「わかりました」


 ラルスが呼ぶと、すぐさま近くにいたウェイトレスが気づいてやってきてくれる。


「ご注文はお決まりでしょうか」


 二十歳ほどだろうか。笑顔の素敵な女性は、茶色の長い髪を一つにまとめて清潔感を溢れさせていた。


「『ちょっと贅沢なパスタセット』をひとつ。あとは……うーん、俺は『チキンのランチ』にするかな」

「ふふ、いつものね」


 女性はそう微笑んだあと、フローリアンに目を向けた。


「本日は王子殿下にお越しいただけまして、大変光栄に存じます。どうぞ、ごゆっくりなさってくださいね!」

「ああ、ありがとう」


 ウェイトレスはそう言うと、もう一度ラルスに視線と笑みを送った。ラルスの方は視線こそ合わせてはいなかったものの、ほんの少し指を上げて合図のようなものを送っている。


(知り合い……だよね。でも、ただの顔見知りって風じゃなかった)


 客とウェイトレスというだけではない、もっと深い繋がりを持っているように見えたのだ。

 フローリアンの胸は、ドキンドキンと嫌な音を立てる。


「ラルス……今の人って、もしかして……恋人?」

「……どうしてそう思うんですか」


 質問を質問で返されてしまい、確信のようなものが心に生まれる。


『そんなに僕の気持ちが知りたいなら、付き合ってる恋人と別れておいでよ!』


 ツェツィーリアとの婚約が決まった時に、口を滑らせてしまったひどい言葉。

 あの時の言葉では別れていなかったことにほっとして、同時にまだ付き合っていたのだなと胸が苦しくなる。

 ラルスが気まずかったのはこのせいだろう。別れろと言われて、まだ別れていなかったのだから。


「……ごめんね、ラルス」

「なにがですか?」

「その、以前、別れろなんて言っちゃって……そんなこと、思ってないから」

「そんな前のこと、気にしてないですよ」


 柔らかな声で言ってくれたので、フローリアンは胸を撫で下ろした。

 ラルスも二十二歳だ。いつ結婚してもおかしくはない。


「結婚、するの?」


 聞かずにはいられなかった。なにを聞いても、気持ちが落ち着けるわけもないとわかっていながら。


「……決まった時には報告します」

「うん……その時には、お祝いするよ」


 そう言うと、ラルスは少し困ったような笑みを見せた。

 心臓がぎゅっと掴まれたような痛みが走る。心から喜んであげられないことがつらい。本当は結婚なんかするなと叫びたい。


(馬鹿だな……ラルスは僕のものじゃないっていうのに)


 胸の苦しみを抱きながらの食事は、あまり味を感じることはできなかった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
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当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
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なぜキスをするのですか!
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 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
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 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
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 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

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 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
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キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

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