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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

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100/115

100◆ディー編◆ 09.不惑の年に

 さらに五年もの間、ユリアーナを捜し続けた。

 一体彼女はどこに行ってしまったのか、どこを探しても見つけられない。

 もしも国外に出ていたとしたら、絶望的だ。どこを捜していいものか、見当も付かなくなる。


 けれど、ディートフリートは諦めなかった。

 いくつになっても、たとえおじいさんになろうとも、彼女が他の誰かと結婚していたとしても……

 どうしても、どうしても一目だけでいいから会いたかった。


 そんな執念を抱きながら、いつものようにルーゼンとシャインだけをお供に、変装して国境沿いのエルベスという小さな町にやってきた。

 着いたときにはもう夜遅く、ユリアーナ捜しは後にして宿屋へと急ぐ。


「さすがに遠かったですね。ずっと馬に乗りっぱなしで、尻が痛い」

「鍛え方が足りないんじゃないですか、ルーゼン」

「そういうシャインも足にきてるだろ!」

「私はこの中で一番最年長の五十歳ですよ。当然じゃないですか」

「そう考えると、やっぱり王は……おっと、ダートは若いよな。これだけ走っても、ピンピンしてんだから」

「いや、私もちょっと腰にきてるよ」


 ディートフリートが苦笑いすると、「ダートもか」と偽名を使ってルーゼンが笑っている。

 そうして三人は仲の良い兄弟のフリして、〝山のコトリ亭〟という宿に入った。


「夜分に申し訳ありません。三人の宿泊は大丈夫でしょうか。できれば、軽い食事などもあれば嬉しいのですが」


 中に入ると、シャインが宿のおかみと話をつけてくれている。小さいが、掃除の行き届いた綺麗な宿だ。

 おかみに許可をもらうと、早速食事を作ってもらった。椅子に深く腰掛け、三人でそれをいただく。


「時に、こんなところへどんな御用でいらっしゃったんです?」


 宿のおかみが不思議そうに聞いてきたので、ディートフリートは捜し人がいることを正直に伝えた。もう二十三年も経っているのだから大丈夫だろうと、ユリアーナの名前も伝える。


「……そう、今は四十歳だ。髪は栗色で、細身。身長はそれほど高くなくて……」

「うーん、知りませんねぇ。四十歳の女の子ならうちにもいますが、白髪(はくはつ)ですし……あ、ユーリ!」


 おかみが向けた声の方向を見ると、そこには白髪の女性が立っていた。

 四十歳だと言っていたが、もっと若く見える優しそうな女性だ。

 ユーリと呼ばれた女性はおかみに手招きされて、ディートフリートたちのテーブルにまでやってきた。


「あんたと同い年の女の子を探しているらしいよ。栗色の髪で、名前はユリアーナというらしいんだが、知っているかい?」


 その言葉にユーリはディートフリートの顔を見た直後、慌てるように目を逸らしていた。

 そんなに怖い顔はしていなかったはずだが、とディートフリートは心で首を傾げる。


「もしそんな女性に心当たりがあれば教えてほしいのだが……」

「いえ……そのような女性は、存じ上げません……」

「お役に立てずにすみませんねぇ〜」


 この違和感はなんだろうかと、ディートフリートは彼女を見つめた。

 灯りは少なく、そっぽを向いてしまったためにちゃんと顔は確認できない。

 ユリアーナではないとは思う。髪の色が違いすぎだ。ディートフリートも白髪が混ざり始めたが、四十歳ではこんなに真っ白にはならないだろう。

 でもなぜか、気になる。


「すまないが……あなたの名前はなんと言ったかな?」

「私は……ユーリと申します」

「姓は」

「ありません。ただの、ユーリです」

「生まれはどこだね」

「王……いえ、この町の隣の村でございます。すみません、私……お風呂に木をくべないといけませんので、失礼いたします」


 そう言うと彼女は、スカートを摘み上げてカーテシーをした。その瞬間に、頭の中でカチリと何かが鳴る音がする。


 あの完璧すぎるほどのカーテシー。

 美しく気高い動作は、あの日のユリアーナそのままだった。


 ディートフリートは逃げるように去っていった彼女を、呆然と見つめる。


「どうしましたか、ダート」


 シャインの問いに、言葉が出てこない。

 彼女は、ユーリは、ユリアーナだ。

 わからない、確認したわけではないのに、確信があった。

 ディートフリートはそのまま言葉少なに食事を進めた。食べ終えるとおかみが食事を下げてくれ、その間にディートフリートは二人に伝えた。


「さっきのユーリという女性が、ユリアーナだと思う」

「え? でも髪が……」


 ルーゼンが怪訝そうに眉をひそませる。それをシャインは押し留めた。


「ユリアーナ様にとって、あの日の出来事はショックだったに違いありません。白く変わっていたとしても、不思議はない」

「私もそう思う。彼女は、ユリアーナだ」


 断定的に言葉にすると、驚くほど胸が高揚しているのが分かった。

 確信はある。が、早く断定したい。ユリアーナだと、彼女自身の口から聞きたい。


「しかしユリアーナ様だとしたら、変装しているとはいえ、王の顔は知っているはず……なぜ自分が本人だと言わなかったんでしょう」


 シャインの言葉に、ディートフリートは口を閉じた。

 目が合った瞬間に逸らされたのは、おそらく王だと気付かれたからだろう。わかっていたならどうして、自分がユリアーナだと名乗り出なかったというのか。

 悩むディートフリートを横目に、ルーゼンは声を上げた。


「お前、頭はいいくせに、女心は相変わらずわかんねーやつだな」

「じゃあルーゼンはわかるというんです?」

「おお、乙女心ってやつだよ、オトメゴコロ!」

「そんな曖昧な言葉で済まさず、もっと理論的に説明をしてもらいたいですが」


 乙女心……本当にそうだろうか。

 もしかして、彼女はすでに誰かと結婚をしていて、それでバツが悪くて目を逸らしたのではないだろうか。


「どちらにしろ、確認したい。彼女の前では主従に戻ってくれ。ユーリという女性の反応を見たい」

「了解」

「かしこまりました」


 そう言ったすぐ後に、ユーリがお風呂をどうぞと勧めてくれた。

 これ幸いとディートフリートは席を立つ。


「では、私は風呂に入ってくる。お前たちも気安くしていてくれ」

「は、ありがとうございます」


 ディートフリートの言葉に立ち上がって敬礼する騎士たち。

 その姿を見ても、ユーリに動じた様子は特になかった。王城の騎士たちを見慣れているか、よほど宿の教育が行き届いているか、どちらかだ。

 やはりこれは、彼女がユリアーナとしか思えない。

 はやる動悸を抑えて、ディートフリートは風呂場へと案内してもらった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
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政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
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しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
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