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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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010●フロー編●08.婚約者

 フローリアンはラルスへの思いを秘めたまま、なるべく恋を自覚する前と同じように過ごしていた。


 そんなある日のこと、フローリアンは王である兄ディートフリートに呼び出された。父ラウレンツは床に臥していて王の間にはいないが、王座の隣には母のエルネスティーネがいる。


「どうなさったのですか、兄さま。唐突に」

「うん。フローにもそろそろ婚約者を選ばなきゃいけないと思ってね」


 婚約者という言葉に、額から嫌な汗が流れる。

 ディートフリートはフローリアンを男だと信じて、疑ってすらいないのだ。つまりあてがわれるのは、女に違いないということ。


「ま、待ってください兄さま。若輩者の僕などより、兄さまの方が先なのでは?」

「私にはまだ結婚できない理由があるんだよ。それよりもフローには早く結婚してもらいたいと思ってる。良い人がいるなら、なおさらだ」

「良い、人……?」


 フローリアンは首を捻らせた。良い人と言われても思い浮かぶ者がいない。ラルスには気持ちを伝えるどころか恋人がいるし、恋愛どうこうなりそうな人などいないはずだ。


「ノイベルトの方もとても乗り気でね」


 しかし兄から放たれた一言に、フローリアンは凍りついた。

 ノイベルト伯爵。それは、ツェツィーリアの父親のこと。


「ちょ、待ってください兄さま! 相手は伯爵ですよ!? 我が王家に迎え入れるには、いささか身分が低いと存じますが……」

「そんなことにこだわる必要はないよ。ノイベルト家は我が王家に貢献してくれているし、フローとツェツィーリアの仲も良好だ。聞いたよ、この前の舞踏会では彼女としか踊らなかったって?」

「そ、それは……っ」

「あはは、恥ずかしがらなくてもいいさ。あの舞踏会で、フローの気持ちは周りに伝わってる。早く婚約者として迎え入れて公表する方が、余計ないさかいや波風を立てずにすむ」


 にこにこと嬉しそうに笑っている兄。弟が喜ぶと思って、これっぽっちも疑っていない顔だ。それもそうだろう、フローリアンがツェツィーリアを大切に思っているのを、ディートフリートはよく知っているのだから。

 これは兄に言っても無駄だと思ったフローリアンは、エルネスティーネの方に目を向けた。この状況を助けてくれるのは、事情を知っている母しかいない。


「母さま……あの、僕は……」

「わかっています、フロー。ディート、この話はもう少し先に伸ばせられるのでしょう?」

「そうだね、少しくらいなら。でも早く決めてしまった方が私は良いと思う。世の中、なにが起こるかわからないからね」

「……そうね」


 どうなるのだろうと不安が胸を打ち鳴らし、エルネスティーネにお願いと心で語りかけ続けた。


「とにかく一度、私とフローとツェツィーリアで話をさせてもらえないかしら。王妃教育は大変なのよ。ツェツィーリアにその資質があるかどうかを確かめたいの」

「わかりました母上、そのようにしましょう。けれどあまり、フローの恋路を邪魔しないようにしてあげてくださいね」

「そうね……わかっているわ」


 話がすむと、侍女や護衛の入室が許可された。

 兄の護衛騎士のルーゼンとシャイン、母のお付きの侍女のヨハンナ、そしてフローリアンの護衛騎士であるラルスだ。


「陛下、先程ノイベルト伯爵が到着し、客間の方にお通ししております」


 ヨハンナがそう言い、ディートフリートは頷く。


「そうか。ツェツィーリアも一緒か?」

「はい。陛下と伯爵が会談する間、いつものようにフローリアン様とお茶をなさりたいご様子でしたわ」

「そうか、ちょうど良かった。ノイベルトをここへ呼んでくれ。母上とフローリアンは客間でツェツィーリアと話してくると良い」

「兄さま、まだ婚約は……っ」

「わかっているよ、フロー。ちゃんとツェツィーリアの気持ちを確かめておいで」


 王の言葉に幾分ホッとする。

 この国では、女子供の発言権はほとんどない。

 親が婚約者を決めたと言えば、たとえそれが嫌な相手でも婚姻を結ばなければならないものなのだ。

 特に貴族や王族の結婚は、利権が絡んでくるので政略は必至である。


 王の間を出ると、エルネスティーネが女医のバルバラをヨハンナに呼びに行かせていた。


「フロー、先にツェツィーリアのところへ行って事情を説明しておきなさい。私はヨハンナとバルバラと共に、後から参ります」

「はい、母さま……」


 そう言ったものの、気が重い。のらりくらりと歩いていると、意気揚々とした足取りのノイベルト伯爵が前からやってきた。


「王弟殿下! 例の件のこと、陛下からお聞きになりましたか?」

「さっき聞いたばかりだよ。寝耳に水だ」

「そうですか、良い返事を期待しておりますゆえ、なにとぞよろしくお願い申し上げます」

「このこと、ツェツィーには?」

「いえ、まだ娘には。正式に決まってから伝えるつもりでございます」

「……そう」


 フローリアンはノイベルトにフイっと背を向けて歩き始めた。

 つまり、ツェツィーリアはまだ、フローリアンとの婚約話が上がっていることを知らない。婚約が決まってから話すというのもよくあることだ。

 そこに女の意思は、必要なしとされているのだから。


 後ろを付いて歩いていたラルスが、静かに声を上げた。


「王子、例の件とはもしかして……」

「言うな、ラルス。まだ決定ではないよ」

「はっ、申し訳ありません。でも良かったですね。陛下も色々考えてくださってたんでしょう」


 ニコニコと嬉しそうなラルス。逆にフローリアンはイライラが募ってくる。

 さすがにその様子を見てラルスもおかしいことに感づいたようだ。眉を寄せて歩くフローリアンの顔を覗き込んでくる。


「……嬉しく、ないんですか?」

「……」


 返事はしなかった。するとどうやらイエスという意味にとらえられたようである。


「殿下は、ツェツィーリア様のことが大好きですよね?」

「そうだね、大好きだよ」

「だったらどうして……」

「わからない? これは政略(・・)だよ? 僕たちの気持ちとは関係なく結ばれる、ただの契約に過ぎないんだ。これはただの、政策なんだよ!」


 イライラとしたものが棘となって、口から飛び出した。

 急に棘を浴びせられたラルスは、驚いたようにフローリアンを見ている。


「……違いますよ王子。陛下はフローリアン様のことを中心に考えてくださってます。政略というならば、他に利のある家柄もあるはず。なのに陛下はわざわざノイベルト伯爵の……」

「うるさい」


 低く一蹴すると、ラルスはぴたりと言葉を止めた。

 そんなことはわかっているのだ。兄の優しさは、弟である自分がなにより。


 客間の前まで来ると、フローリアンはスッと息を吸い込んだ。


「ラルスは中には入らないで、ここで誰もこないように見張っていてくれ」

「しかし」

「ツェツィーと大事な話がある。母さまとヨハンナとバルバラだけは入れても構わないけど、それ以外の者は部屋に近寄らせるな。いいね」


 言葉尻を強く断定し、ラルスが何かを言う前にフローリアンは客間へと足を踏み入れた。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
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なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
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たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
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当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

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キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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なぜキスをするのですか!
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 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

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キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


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