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オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

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第93話【閑話】:守る力を

 これは帝都から村に戻り、収穫祭が終わった後の話である。

 北方の山岳にあるウルド村には、厳しい冬の季節が訪れていた。野外で農作業や狩りができないこの季節は、室内での内職が主な仕事となる。


「ガトンのジイさん、頼んでおいた物の調子はどうだ?」

「ふん、小僧か。見ての通りだ」


 そんな内職の一つ、山穴やまあな族の老鍛冶師ガトンの工房を、オレは訪れる。いつものように頼んでいた仕事の途中経過を確認にきていた。


「巨竜の素材を村の道具に使うとは、随分と気前のいいことじゃのう」

「まあな。これで村の暮らしが良くなるからな」

「確かに、これは想像上の素材じゃ」


 オレが今回ガトンに依頼していたのは、巨竜アグニから得た素材を使った道具である。先日の決戦で討伐した巨竜かから、多くの素材を得ることができた。


 竜牙ドラゴン・トゥース竜鱗ドラゴン・スケイル竜爪ドラゴン・ファング・竜ヒゲ、そして巨大なメインコアの数々。本体から斬り裂いた部位は、素材として残っていたのだ。

 これらはヒザン帝国と貿易都市オルン、そしてウルド村で三分割していた。


「見ろ、小僧。火に入れようが、鉄鋏てつばさみで切ろうが、びくともせんぞ」

「なるほど。かなりの耐久性だな」


 ガトンの竜の素材を様々な方法で破壊を試みる。

 だが霊獣の中でも最上位にあたる、アグニの素材は凄まじい耐久力。帝国での戦いでオレも肌に感じていたが、アグニの全身はとにかく堅かった。


 生半可な攻撃は通じず、結局はうろこのつなぎ目や羽や頭部の弱い分を、集中的に狙った策をとったのだ。


「それなら、こっちの加工済みの物は、どうやった?」


 ガトンの工房の奥には、竜の素材を使った完成品が既に何個がある。これほどの強度をもつ素材を、一体どうやって加工したのであろう。


「ワシら山穴族には“竜壊ドラゴン・ブレイカー”の秘伝もあるのじゃよ」

「“竜壊ドラゴン・ブレイカー”だと?」

「ああ」


 ガトンの話によると、彼ら山穴族の先祖には霊獣の素材加工に挑んだ匠もいたという。そんな秘伝の中に魔竜ナーガ級の素材を加工する技もあった。


 おそらく歴史上の英雄の中には魔竜ナーガ級に挑み、生き残った者もいたのであろう。そして加工するために、昔の山穴族の職人に依頼したのである。


「“竜壊ドラゴン・ブレイカー”か。たいした技だな」

「伝承しているのはワシを含めて、三人しかおらん」


 ガトンは大陸でも三人しかいない“鍛冶師匠アンアン・マイスター”の一人。それほどまでに竜の素材を加工するのは、難しいのであろう。

 とにかく竜の素材のお蔭で、村の農機具などは一気に進化する。


「あと村の道具の他にも、“武具”の方も準備しておくぞ」

「そうか。そっちは急ぐ必要はない。雪解けまでに間に合えばいい」


 道具とは別の製造もガトンに依頼していた。

 それは戦うための武具。竜の素材を使った武器と防具であった。


「それにしても竜の素材を使った武具とはな……」

「だが脅威はいつ現れるか分からない」

「そうじゃのう……あの巨竜よりも更に大きな脅威が……」


 話をしながらガトンは言葉を失っている。

 帝国の平原での巨竜アグニの恐ろしさを、あの場にいたガトン自身も身に染みていた。


 何しろ普通の武器が全く通じない相手。ヤマトや大剣使いバレスなどの猛者たちが力を合わせ、帝国軍の騎士に犠牲を出してまで、ようやく討伐ができたのだ。

 まさに奇跡の積み重ねによる結果であった。


 次に同レベルの脅威が現れた時に、また精鋭が集結しているとは限らない。ゆえに竜の素材を使った新しい武具の開発を、オレはガトンに依頼していた。


「大事な人を守る武具だ」

「そうじゃのう。一世一代のワシの技を、オヌシに見せてやる」

「ああ。期待している」


 山穴族は人を殺す為の武器を、作らない種族である。作るのは大事な者を守る時だけ。ガトンは覚悟を決めて、オレの設計した武具の製造に気持ちを新たにする。

 彼にも村に戻ってきた同胞や、血の繋がった孫がいた。その者たちを守る為に、ガトンは自分の仕事に打ち込むのである。


「ところでジイサン。霊獣管理者レイジュウ・マスターについて、何か分かったか?」


 工房の周囲に他の気配がないことを、確認したオレは訪ねる。

 霊獣管理者レイジュウ・マスターと名乗る少年についての情報を。人族より長寿である山穴族ガトンは、大陸各地に同胞がいて、古い情報にも通じていた。


四方神しほうじんの塔”・“魂鍵マナ・キー”・“静寂サイレンサー”、それに“最愛魅了ユニ・チャーム”などの不思議な術。全てはあの少年の口から出てきた、謎の言葉ワードであった。


「残念ながらワシら山穴族の間でも、全く知らぬ言葉。じゃが、の聖都にいる“聖女”なら何か知っているかもしれん」

「聖女だと?」

「ああ……そうじゃ」


 聞き返すオレに、ガトンは語る。

 大陸の西の大国“ロマヌス神聖王国”の首都“聖都”に、“聖女”と呼ばれる巫女がいると。“全てを見抜く力”を神から授かった聖女なら、何か知っているかもしれないと。


「普段は大聖堂の奥にいて、目にすることも叶わないがな」

「そうか。雪が解けてから、検討してみるか」


 大陸の全てを見抜く力など、普通に考えたらあり得ない話である。だが、ここは異世界であり、現代日本とは比較はできない。

 異世界に来てから三年目となるオレも、そのことを最近になって認め始めていた。


「じゃあ、ジイさん。邪魔したな」

「ふん。まったくじゃ」


 用事が済んだオレは、工房を出ていくことにする。特に大した用事はなかったが、ガトンとこうして会話する時間は嫌いではなかった。


「小僧……あんまり無茶はするな。子どもたちが悲しむ」

「あんたにだけは言われたくはないが。ああ、肝に命じておく」


 別れ際に少しだけガトンが声をかけてくる。

 雪が解けて新しい季節になったら、また忙しくなるであろう。その時のことをガトンは心配していたのだ。


 こうしてオレは工房を出て、雪降る村の中を戻るのであった。


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