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オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

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第89話:男たちの想い。そして帰還


 先行偵察をして戻ってきた、ハン族の少女クランから報告があった。

 帰路の街道の先に、完全武装の騎士団が待ち構えていると。


「あの軍旗の紋章は……このまま前進だ」

 

 遠目に見える騎士団の掲げる軍旗に、オレは見覚えがあった。

 このまま進んでも問題ないと、警戒していたウルド荷馬車隊のみんなに声をかける。


 そしてオレたち荷馬車隊は騎士団の近くに到達する。




「遅かったな、ウルドのヤマト」

「やはりお前か、バレス」


 待ち構えていたのは帝国の大剣使いバレス。そして真紅クリムゾン騎士団であった。

 騎士たちの顔にも見覚えがある。先日の平原の巨竜アグニ討伐の時に、一緒に戦った者ばかりだ。


「その様子だと演習中か、バレス卿」

「ああ、優男やさおとこ。先日の大トカゲ野郎の討伐での復習演習だ」


 バレスの姿を見つけ、荷馬車隊に同行しているオルンの騎士リーンハルトが話しかけていく。

 

 彼らは戦闘スタイルや性格は、まったくの真逆である。だがどこかで馬が合うのであろう。

 霊獣との激戦で背中を預け合い、騎士同士の友情が芽生えたのかもしれない。


「あの大怪我の後でよくやるな、バレス卿」

「はん! 帝国男子は頑丈だからな」


 リーンハルトの言葉の通り、先日の霊獣との激戦で、大剣使いバレスは全身に大けがを負った。

 だが今は包帯を巻いてはいるが、騎乗の姿には乱れはない。

 タフさだけでいえば、身体能力が強化されたオレ以上かもしれない。まさに不死身の大剣使いである。


「ウルドのヤマトよ……」


 リーンハルトとの話が終わったバレスは、オレに視線を向けてきた。

 野生の獣のような鋭い目つきである。


「オレはテメェのことが気に食わねえ……」


 その言葉とバレスから本気の殺気が放たれる。


 この場にいた全員に緊張がはしる。

 バレスは帝国が誇る勇敢な騎士。だが何よりも戦いを好み、危険な蛮勇を持ち合わせていることは、誰もが知っていた。


 過去には同盟相手の指揮官を、斬り殺した前科もある。相手が義に背いた無能者という理由で。

 真紅クリムゾン騎士団の騎士たちも、その過去を思い出し警戒していた。

 もしかしたら友好関係を結んだばかりの相手に、バレスが襲いかかるのではないかと、固唾かたずをのんで見守っている。


「気に食わねえ……だが、今回だけは見逃してやる。決着は次に会った時だ」


 舌打ちをしながらバレスは殺気を解く。今はやり合うつもりはないようだ。


「ああ。楽しみにしている」


 オレも答える。

 いつでもウルドの村で待っていると。気が向いたらいつで遊びに来いと伝える。


「では。帰路の先は長いので、この辺で失礼する」


 バレスとのやり取りも終わる。ウルド荷馬車隊はゆっくりと動き出す。

 今度こそ懐かしの我ら故郷に向けて出発するのだ。




真紅クリムゾン騎士団、全抜刀ぜんばっとう!」


 その時である。

 一人の騎士頭の掛け声と共に、騎士たちは一斉に剣を抜き、天にかかげる。


「オルンの騎士リーンハルト卿の武勇に。

太守代理イシス様の知性に。

ウルド村の村長代理リーシャ殿の優弓に。

ウルドの少年少女の勇気に。

ハン族の少年少女の優馬に。

スザクの少年少女の秘術に。

自由人ラック殿の機転隠密に。

そして北の賢者ヤマト殿に……礼剣れいけん!」


「「「礼剣!」」」


 数多の騎士の号令が街道に響きわたる。

 誇りあるヒザン帝国の騎士は公の場で、他国の者にこの感謝の礼剣を捧げることはできない。

 

 そこで軍事演習という大義名分で、今日は出陣していた。

 身をていして帝都を守ってくれた、勇敢な他国の者たちに感謝を捧げるために待機していたのだ。


「バレス卿……貴殿も……」

「コイツらが、どうしてもって言うからな。オレ様は後でロキに叱られる役だ」


 リーンハルトの問いかけに、大剣使いバレスは鼻で笑いながら答える。


「へへへ……僕たちの勇気だってさ!」

「騎士のオジさんたち、ありがとね!」

「大剣使いの怖いおじちゃんも、またね!」


 礼剣によって作られたトンネルをくぐりながら、荷馬車隊の子ども達は騎士たちへ別れの挨拶をする。

 彼ら真紅クリムゾン騎士団の騎士と、共に過ごした時間はわずかであった。

 

 だが魔竜ナーガアグニ討伐という死闘を共に成し遂げたことで、あの平原にいた者たちに深い意識が芽生えていたのだ。


「ヒザン帝国の騎士たち……熱いおとこ達だったな、ヤマト」

「ああ……そうだな」


 感極まっているリーンハルトに、オレは冷静に答える。


 ヒザン帝国と貿易都市オルン。

 今は友好関係を結ぶことになったが、戦乱の続く大陸の情勢は流動的である。

 もしかしたら次に会うのは、敵同士の戦場かもしれない。現実とは常に非情なのである。


(だが、暑苦しい騎士道とやらも、今は悪くないかもな……)


 そう心の中でつぶやきながら、オレは苦笑いをするのだった。



 バレスたちと別れてから、また西に向かう街道を進む。今度こそ本当の出発であった。

 ここからは荷馬車に揺られること十数日、貿易都市オルンに到着する。

 

 そこでオルン太守代理の少女イシスと騎士リーンハルト、そして遊び人ラックを降ろす。

 オルンから北に向かう街道に進路を変更。さらに数日かけて懐かしのウルドの村へ帰還となる。


 だがその前に、一つだけ問題があった。


「そろそろ出てこい」


 その問題を解決するために、荷馬車の上に隠れている者に声をかける。


「えっ、ヤマトさま……?」

「兄ちゃん、どうしたのさ?」


 荷馬車隊の誰もが首をかしげている。誰もその存在に気がついていなかったのだ。


「よっと。さすがはヤマトじゃ」


 掛け声と共に、オレのいる御者台に降りてきたのは一人の少女。赤髪をなびかせた美しい顔立ちの女剣士であった。


「シルドリア様!? なぜ、ここへ!?」


 荷馬車隊の隣で軍馬に乗っていた、騎士リーンハルトは驚きの声をあげる。

 なぜならシルドリアは普通の少女ではない。大国ヒザン帝国の皇女姫殿下なのだ。


わらわもウルド村へ行く。よろしく頼むのじゃ」


 シルドリアは口元に笑みを浮かべながら説明をする。

 ちゃんと兄皇子ロキ宛に、手紙は置いてきたから大丈夫だと。あと自分は身分の高い皇女であるが、世話は不要であると。


「凄いっす、シルドリアちゃん! 隠れているのに、気が付かなかったっす!」

「ふふふ……そうであろう。あれからラックの隠密術を真似して、わらわも鍛錬していたからのう」


 どうやら先ほどの真紅クリムゾン騎士団の中に、気配を消してシルドリアは隠れていたらしい。

 そして注意が抜剣に向けられて瞬間に、荷馬車の屋根上に登り上がり隠れていたのだ。オレたちに付いてくるために。


「ウルド村に来るのは構わない。だが『働かざる者、食うべからず』だ」

「おい、ヤマト!?」


 騎士リーンハルトの叫びを無視して、オレはシルドリアに最終確認する。

 通貨のない辺境の村ウルドでは、誰もが必ず村の仕事に従事してもらうと。それにより食料や生活物資を均等に分け合うのだ。


「ふむ。何でもわらわに任せておくのじゃ!」

「なら勝手にしろ」


 シルドリアの天真爛漫てんしんらんまんさは、この荷馬車隊の誰もが知っていた。

 堅物である騎士リーンハルトですら、もう諦めている。


(やれやれ……また、忙しくなりそうだな……)


 まさかの大国の皇女の居候問題の発生である。

 村に戻ったら、農繁期である秋の収穫と冬を迎える準備。オルンの街にあるウルド商店の状況も確認して、商品や物資の確保の必要もある。


 そして大陸の西の大国であるロマヌス神聖王国の脅威への対応も、今後は必要であろう。


(考えることだらけだな。本当に……)


 やることが盛り沢山に増えてきて、オレは頭が痛くなる。


「わーい! シルドリアちゃんも、村に来るんだね!」

「楽しくなるね!」

「シルドリアちゃん、この果物を食べる? 帝都の市場バザールのお土産だよ!」


「うむ、苦しゅうない」

「あっ、それは、オレっちのお土産っすよ!」


 彼女に懐いていた村の子ども達は大喜びであった。

 シルドリアが皇女という高い身分であることなど、子ども達には関係ないのであろう。

 天真爛漫てんしんらんまんと無邪気のハーモニーで、今後の村は本当に騒がしくなりそうだ。


(だが……悪くはないな)


 誰にも気がつかれないように、オレは微笑むのであった。

 未来ある者たちの笑顔を見つめながら。



「ヤマトのあにさま、村が見えてきました!」

「本当だ! 懐かしいね!」

「見てください、ヤマトさま。イナホンの実が、今年もあんなに黄金色に……」


 オルンの経由で街道をひたすら進み、オレたちは戻ってきた。

 峠を越えた先に、懐かしの集落が見えてきたのだ。


「ああ、懐かしいな」


 オレがウルドの村に来てから、もうすぐ三年目となる。

 こうして新しい季節がまた始まろうとしていた。












こちらで四章の本文は終了となります。

少しの閑話の後に五章がスタートします。


これまでの感想や評価などありましたら、お気軽によろしくお願いいたします。

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