表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/177

第86話:巨竜討伐・終

 

 傍若無人で暴れ回っていた魔竜ナーガアグニに対して、オレたちの反撃が始まる。


「みんな見ていたか」


 帝国の騎士たちは、たった一人で巨竜の竜爪を吹き飛ばしたオレに唖然としていた。そんな彼らに言葉を向ける。


「巨竜といえども斬れば、血を流し苦しむ。一介の村人であるオレにも、この通りにできた。帝国の誇るお前たちはどうだ?」


 オレは帝国の男たちに問いかける。

 

 この邪悪な巨竜を打ち倒すのは、いったい誰だと。

 帝都にいる大事な家族や仲間を救うのは、いったい誰だと。


 血のにじむような厳しい鍛錬を乗り越え、血反吐ちへどを吐きながら剣を振ってきたのは、いったい何のためだと。

 勇猛果敢と名高いヒザン帝国の武人の誇りを見せるのは、いった何時なのかと。


「命を惜しむな。武人としての名を惜しめ」


 いにしえの武士の言葉を用いて、オレは帝国の騎士たちに伝えた。

 今こそ持てるすべての武勇と蛮勇を吐き出す時だと。自分の大切な者たちを守るために剣を抜けと。


「うっ……」

「うおぉお!」

「うごぉおおお!」


 オレの言葉に反応して、騎士たちから地鳴りのような声があがる。その声は波紋のように全員に広がっていく。


「帝国騎士の力を今こそ!」

「帝都を守るために!」

「愛する家族を守るために!」


 圧倒的な巨竜を前にして固まっていた、ヒザン帝国の騎士兵士が叫ぶ。

 それは腹の底からの魂の叫び。自らの命がここで絶えようとも、死力を尽くして巨竜を打ち倒すと吠える。


「ロキ殿下!」

「殿下!」


 帝国の男たちは主に視線を向ける。

 偉大なる皇子であり、勇猛なる騎士ロキの次なる言葉を待つ。自分たちの頂点に達した武を解き放ってくれる命令を。


「ああ、皆の者、待たせたな。真紅クリムゾン騎士団、全突撃フル・チャージ!」

「「「うぉおおおお!!」」」


 皇子ロキの号令と共に、真紅の騎士たちは一斉に突撃を開始する。

 自分の命をかえりみず、すべてを投げ打っての全力の突撃。血のにじむ様な訓練と実戦で、これまで培ってきたすべての武を槍先に込める。

 真紅の鎧をまとった騎士たちが、自ら槍となり巨竜に全突撃フル・チャージしていく。

  

『ちっ!? アグニ、“飛べ”……強制命令ハイ・ギアス!』


 竜爪を切断された痛みで地に降りていたアグニに、竜上の少年は強い命令を出す。

 先ほどまでとは違い、その言葉には魔力マナを込めていた。おそらく霊獣管理者レイジュウ・マスターとしての絶対的な強制命令なのであろう。


『グルシュウ!!』


 強制命令に反応してアグニは飛翔の準備に入る。

 背中の竜羽のコア魔力マナを込めて、一気に体を浮かせ騎士たちの突撃を回避しようとする。

 

 今、飛ばれたらこちらの攻撃はまったく届かなくなる。

 だが、この瞬間こそが最大のチャンスでもあった。


「リーシャさん、今だ!」


 そのタイミングを狙っていたオレは、次なる命令を発する。

 アグニの後方から密かに接近していた、ウルド荷馬車隊に攻撃の指示をだす。森の狩りで培われてきた阿吽あうんの呼吸によるタイミングだ。


「撃て!」


 ウルドの少女リーシャの号令と共に、荷馬車隊から攻撃が放たれる。

 オレの設計したウルド式のクロスボウ隊による斉射。初速数百キロのクロスボウ矢が、次々と巨竜の羽に突き刺さる。

 金属板すら貫通するその矢は、烈火の雨の如く竜羽を襲う。


『グルシュウ!?』


 自らの竜羽に攻撃を受けたアグニは痛みで叫ぶ。だが強制命令ハイ・ギアスを受けており中断はできない。

 魔力マナを羽のコアに再度注入して、強制的に飛翔を試みようとする。

 

 だが先ほどのクロスボウ隊の攻撃で、わずかな時間差タイムラグが生まれていた。


「死を恐れるな! 全突撃フル・チャージ!」


 その隙を狙って真紅クリムゾン騎士団の騎士たちが、次々をアグニの身体に突撃していく。


「帝国、万歳!」

「ウオォオオオ!」

「くたばれ!」


 軍馬の重量と加速を加えた突撃。騎士の槍やランスは次々とアグニの身体を突き刺さっていく。

 オレが教えたとおりに鱗のすき間を狙った決死の突撃。

 運悪く突き刺せなかった騎士たちは、竜鱗に衝突して騎馬から吹き飛んでいる者たちもいた。突撃に失敗した者たちの命は無いであろう。


 だが決死の覚悟の騎士たちは、誰一人としてひるんではいない。愛する自分の家族と祖国を守るために、命と魂を込めた全突撃フル・チャージを続けていく。

 真紅の流星のような突撃が、地に落ちた巨竜に次々と襲いかかる。 


『グルシュウゥゥウウウ!』


 騎士たちの命がけの突撃の前に、巨竜は悲痛な叫びをあげる。

 竜羽に続き全身にも針を突き刺すような激痛が襲っていたのだ。それはアグニが受ける初めての痛みであり、耐え難い屈辱であった。


『ちっ。下等種どもめ! アグニ、“なぎ払え”! 強制命令ハイ・ギアス

 

 穴だらけになった竜翼の再生には、まだ時間がかかる。上空への退避を諦めた少年は、次なる強制命令ハイ・ギアスを巨竜くだす。

 

『虫けらども踏み潰し、噛み砕くのだ!』


 蟻のように群がる騎士団を、その巨体をもって吹き飛ばすように少年は声を荒げる。

 砦ほどの巨体の竜が大地を暴れ回るだけで、周囲の騎士たちは逃げることすらできないであろう。


 超重量による物理攻撃。単純だが防ぐことができない恐ろしい攻撃である。

 だが、この瞬間も最大のチャンスでもあった。


「リーンハルト、シルドリア、今だ!」


 そのタイミングを狙っていたオレは、次なる指示をだす。

 次なる指示を出す相手は二人の騎士。アグニの後方からハン馬によって接近していた、オルンの近衛騎士リーンハルトと帝国の剣皇姫シルドリアであった。


「シルドリア殿は左を!」

「了解じゃ!」


 二人の騎士は左右に分かれて騎馬で突撃していく。

 狙う先は地上戦を仕掛けるために、無防備となっていたアグニの左右の竜羽。その根元にある真紅に輝くコアであった。


「ヒザン帝国の一撃じゃ!」

「オルンの騎士の誇りを込めて!」


 気合の声を共に二人は、ハン馬から飛び出しアグニの竜羽に斬りかかる。

 身体能力が高く身の軽い二人にしか出来ない離れ業。閃光のように鋭い一撃が、両羽のコアを真っ二つに切断する。


『バ、バカな!? 下等種ごときが! アグニ、“最恐怖息ハイフィア・ブレス”だ。皆殺しにしろ!強制命令ハイ・ギアス! 強制命令ハイ・ギアス!』


 二つのコアを同時に破壊された少年は焦り、最終手段の攻撃をアグニに指示する。

 最恐怖息フィア・ブレスは本来なら、帝都の全住民を皆殺しにするための最終攻撃。だが出し惜しみをせずに、ここで騎士団を壊滅させるために使うのだ。


 最恐怖息ハイフィア・ブレスはスザクの民の“禁断ノ歌”でも防ぐことができない、魔竜ナーガアグニ最大の広範囲攻撃であった。


 アグニの巨大な竜顎りゅうあごが開き、口元に漆黒の瘴気が集約されていく。オレたちに最大のピンチが訪れる。

 だが、これは最大で最後のチャンスでもあった。


「バレス、いけるか」


 そんな最大の危機の中、オレは最後の指示を出す。

 相手は単騎でその危険な竜顎りゅうあごの前に進む猛者。ヒザン帝国の誇る大剣使い騎士団長バレスである。


「ウルドのヤマトよ、テメェは本当に気に食わねえ男だ。だが……今回だけは感謝してやるぜ!」


 バレスは吠える。巨大な霊獣を目の前にして猛獣のように。人外である巨竜を眼前にしながら、愛剣を天に掲げて叫ぶ。


「“暴風マッド・ストーム”よ……」


 バレスの魔力マナの籠った言葉と共に、目に見えない風の魔力マナがバレスの大剣へと収束していく。

 周囲の風のすべてが魔剣に集まり、嵐の前の静けさのように音が消える。


「すべてを断ち斬りやがれぇぇ!!」


 魔剣“暴風マッド・ストーム”の力が最大限で放出される。

 樹海遺跡ですべての魔力マナを使い切っていたバレスの、残る魂を削った最後で最大の一撃。

 オレが樹海で見せた明鏡止水めいきょうしすいを、無意識でバレスも真似した無心の剣撃。


 その巨大な真空斬撃の断頭台が、巨竜の頭部をコアごと吹き飛ばす。あまりの威力に平原の大地まで一文字に斬り裂かれる。


「けっ、トカゲ野郎が……ざまあみろってんだ……」


 その一撃を放ち、バレスはすべての魔力マナと体力を使い果たす。

 自分の攻撃が決まった光景を見つめながら、疲れ果てハン馬の背中に気絶する。命には別条はないが、戦闘継続は無理であろう。


『バカな、バカな!? 下等種ごときが、魔竜ナーガを……アグニを……』


 巨竜の上にいて操っていた少年は言葉を失っている。

 バレスの魔剣の爆風が晴れた先にある、切断されたアグニの頭部を見つめながら。


 魔竜ナーガ級の霊獣は、ただの巨大な霊獣ではない。

 その圧倒的な能力と強固な肉体で、多くの人族の国々を滅ぼしてきた存在なのだ。


 過去には数万の軍勢や、英雄と呼ばれた者たちも一蹴してきた。

 恐怖フィアの力により烏合の衆と化した軍勢など、物の数ではなかったからだ。


『そうだ……恐怖フィアの力さえ……“古の民の呪歌”の歌い手を殺せ、アグニ!』


 ハッと気がついた少年は命令する。

 騎士団の後方でまわしき歌う、スザク子ども達を吹き飛ばせと。そうすれば全能なる恐怖フィアの力が戦場をおおい、この戦況は一変すると命令を下す。


『グルシュウゥウ……』


 強制命令ハイ・ギアスに従い巨竜から、漆黒の触手が無数に湧き出る。

 それは槍のように鋭く形成され、スザクの子ども達へと鋭い矛先を向けた。


「くっ、まだ生きているのか!? 不死身の化け物め!」

「なんだ、あの触手は!?」


 岩塩鉱山にいた霊獣と同じようにアグニも不死身であり、遠距離による触手攻撃を有していたのだ。しかも触手の槍の数は鉱山の比ではない多さだ。


「くっ、まずい!? 歌い手たちを守るのじゃ!」

「急げ! 騎士団、戻れ!」


 自軍の勝利に湧いていた戦場は、再び帝国の騎士たちの叫びが飛び交う。

 “古の民の呪歌”を失うことの恐ろしさを。そして頭部を完全破壊されならも生きている、魔竜ナーガの生命力に驚愕していた。


『無駄だよ! やはり下等種ごときがボクには勝てないんだよ!』


 逆転の道を見つけた少年は勝利の笑みをうかべる。

 四個のコアを有する魔竜ナーガアグニは、腹部にあるメインコアさえあれば不死身。時間はかかるが何度でも甦るのだと。

 そしてメインコアを破壊できる武具は、この世に存在しないと吠える。

 

「この世に永遠の物質など、存在しない」


 そんな少年の言葉を否定するように、オレはつぶやく。


『ば、バカな……いつの間に……』


 オレが立っていた場所は、少年と同じ巨竜の背中。全員の視線と意識がスザクの子ども達に向いた瞬間に、駆け上がっていたのだ。

 気配もなく接近したオレの姿に、少年は目を見開いている。


「そして、これで終了チェックメイトだ」


 オレは手に持つ槍を地に向かって構える。

 すべてを終わらせるために。狙いをつけてゆっくりと引き金を引く。


「くっ……流石の反動だな」


 それと同時に槍を構えるオレの手に、凄まじい衝撃がはしる。

 身体能力が強化されている自分ですら、全身がバラバラになるほどの反動。全身の力で発射の反動に耐える。炸裂音と共に地が吹き飛ぶ。


「ガトンのジイさん、次だ!」

「ふん! 受け取れ、小僧!」


 巨竜の足元で待機してウルド荷馬車から、予備の槍が投擲される。一撃で破壊できない時の予備の武器であった。


「さすがは魔竜ナーガ級、たいした硬度だ。だが、これならどうだ!」


 先ほどと同じように吹き飛んだ巨竜の背中の穴に、連続して攻追を繰り出す。そして遂に三度目の攻撃で、巨大な魔竜ナーガの胴体にぽっかりと大穴が開かれる。


「あれがアグニのメインコアか」

 

 オレの連続射撃により、超硬度の竜鱗と殻が破壊された。

 足元にある大穴の先には、真紅で巨大な結晶がむき出しになっている。

 これまでに見たこともないような大きさ。霊獣の生命維持装置であるメインコアがついに姿を現したのだ。


『バ、バカな……下等種ごときが……アグニの竜鱗と竜殻の二重装甲を……』


 魔竜ナーガ級のメインコアを守る防壁に、絶対の自信をもっていた少年は、目を見開き絶句する。

 例え魔剣の攻撃であっても貫通できない、竜鱗と竜殻の二重装甲を破壊され信じられないのだ。


 少年は言葉を失いながら、オレの持っていた奇妙な形状の槍に視線を向けてくる。


「“強弩槍バリスタ・ランサー”だ」

強弩槍バリスタ・ランサーだと……』


 自分の開発した新兵器の名を告げ終え、オレはアグニの胴体に開いた大穴に飛び込み抜剣する。


「そしてウルドのヤマトだ……オレの名は」


 最後に自ら名乗る。

 同時にガトンズ=ソードでアグニの最後の一個である、巨大なメインコアを切断する。


 こうして大陸の歴史上で最恐と伝わる、魔竜ナーガアグニは息絶えたのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ