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オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

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第85話:巨竜討伐・前



 帝都のから西に広がる平野。

 ヒザン帝国の皇子ロキは直属の騎士団を率いて出陣していた。目的は西の樹海遺跡に降臨した、霊獣の群れに対応するため。


『バレスには借りがある。だから助けに行くだけだ』


 これは数刻前にウルド村のヤマトの口から出た言葉である。バレスを隊長とした遺跡調査隊の救出に、彼は名乗り出てくれたのだ。

 

 ロキにとって自軍の救出を、他国の者に託すのは苦渋の選択。だが幻惑な呪いを持つ霊獣には、大軍での討伐は逆に仇になる。

 ゆえに霊獣を退治した経験のあるヤマトへ、バレスたちの救助を託したのだ。


じい……騎士団に招集をかけるのだ。我々も向かう」

「……かしこまりました、ロキ殿下」


 だがヤマトたちが出発した直後、皇子ロキも自らの騎士団に緊急招集をかける。

 なぜそう決断したのか原因はロキ本人にも不明。だがヤマトたちが帝都を立ち去った後に、何とも言えない胸騒ぎをロキは感じたのだ。もしかしたら神託に近い声を聞いたのかもしれない。


 こうして英断したロキは軍を率いて出陣していたのだった。


「ロキ殿下!? なぜこんな所に」

「イシス殿、驚かせてすまない」


 樹海の手前の平原に到達したロキは、そこで待機していたオルン太守の娘イシスと合流した。

 ウルド村のヤマトたちが樹海に入った情報は、ここで彼女から得る。


「全軍、陣を張れ」

「はっ! 殿下!」


 樹海から少し離れた平原に、真紅クリムゾン騎士団は陣を構える。

 相手はいつ来るか分かりもしない樹海からの脅威。霊獣の群れが樹海から飛び出してくるのを警戒して備える。


 このロキの予測は杞憂きゆうに終わる可能性の方が多かった。

 だが陣を張りしばらくしてから、それは起こる。

 

 大地が揺れ、樹海の奥地から耳をつくような咆哮ほうこうが鳴り響く。同時に森から鳥たちが鳴き騒ぎ、遠くへ逃げ去っていく。

 ロキたちの乗ってきた軍馬も騒ぎ始める。野生の本能が何かに怯えているのだ。


じい! 総員戦闘配置だ!」

「はっ、殿下!」


 樹海の異様な現象に皇子ロキは胸騒ぎを覚え、真紅クリムゾン騎士団に指示を出す。

 


 咆哮からしばらくして、ロキの胸騒ぎは当たる。それも最悪な状態で。

 正体不明の巨竜が空を舞い、樹海から平原に出現してきたのだ。更に竜の背中には人語を話す少年が乗っていた。


『下等種の兵士かな? ボクの邪魔をするなら帝都とやらの前に、このアグニ君でお前たちを滅するよ』


 ロキたち帝国の民に、謎の少年は宣戦布告をしてきた。帝都の住人を根こそぎ恐怖のどん底に落としいれるという計画と共に。


「勇敢な帝国の騎士よ! この巨竜を帝都に向かわせるな! 総員攻撃を開始しろ!」


 こうしてロキ率いる真紅クリムゾン騎士団と、魔竜ナーガアグニとの戦いが始まっていたのだった。



「殿下、ここは後退を!」

じい……くっ、前線を下げるのだ!」


 だが巨大な魔竜ナーガアグニの前に、帝国軍は劣勢であった。

 なぜなら巨竜は空を飛び剣槍は届かない。弓矢の遠距離攻撃も、強固な鱗で跳ね返されてしまうからだ。


 騎士最大の攻撃である突撃チャージや近接戦闘を封じられ、ロキたちは防戦一方。卓越した指揮で被害を最小限に抑えているが、このままで騎士団は全滅の危機に瀕していた。

 

 巨竜アグニと謎の少年は、暇つぶしなごとく上空を旋回している。明らかに遊ばれていた。帝国最強と名高い真紅クリムゾン騎士団が、稚児の扱いを受けていたのだ。

 そして、そんな窮地に転機が訪れた。

 

「ロキ殿下! 何者かが、巨竜に突撃していきます!」

「なんだと! 何者だ!?」

「はっ! それが、たった四騎で突撃していきます……ですが、速すぎる……」


 突如として戦場に、巨竜アグニに立ち向かっていく者たちが現れる。それもたった四人で。無謀にも程がある愚行である。


「あれは……まさか……行くぞ!」


 だが騎士団を指揮していたロキは、その四人の顔に見覚えがあった。そして部下の静止を振りきり、彼らの近くまで単騎で駆けていくのである。



「貴君はウルドのヤマト! 何をしに来た!?」


 騎士団の先頭で指揮を執っていた皇子ロキは、単騎でオレに近づいてきた。

 ここは戦場であり危険な場所であると。荷馬車隊と共に今すぐ退避しろと、興奮してロキは命令をしてくる。


「ロキか。この巨竜はオレたちが倒す。協力しろ」


 だがオレはロキの命令を断る。逆にこちらの指示に従い、この魔竜ナーガ討伐に協力しろと指示をだす。


「なんだと、キサマ!? 商人風情がロキ殿下に向かって不敬な!」


 ロキに追いついてきた近衛騎士団の一人が、無礼であるぞと叫んでくる。

 栄光ある真紅クリムゾン騎士団が、どこの馬とも知らぬ男の指示など聞けるはずがないと。皇帝の実子ロキ殿下に対する不敬罪で、死罪に当たると吠えてくる。


 騎士の中にはこのような堅物も多い。


「兄上! お願いじゃ! ここはわらわを信じて、ヤマトの作戦を聞いてくれ!」

「シルドリア姫殿下!? なぜ、そのような者と共に!?」


 まさかの皇子ロキの実の妹。皇女の一人であるシルドリアの登場に、帝国の騎士たちはわざつく。

 おてんば姫として有名なシルドリアであるが、その剣は帝国でも指折りの実力。

 剣の才能だけでいえば、“覇王”現皇帝の血を一番濃く引いている剣皇姫である。そして騎士たちからの人気と信頼も高い。


 そして次なる騎士が声をあげる。


「ロキ。ここはウルドのヤマトの策にのってくれ、帝都のために!」

「バレス卿まで……貴殿ほどの騎士が、その男の肩を……」


 剣皇姫シルドリアに続き、帝国随一の武を誇る騎士団長バレスまで擁護にまわる。

 バレスは野獣のような騎士であるが、誰よりも部下のために身体を張って戦場に身を投じていた。そんな大剣使いバレスに憧れて、騎士を目指す若者も多い。

 

 更には皇子ロキの唯一無二の友であるバレスは、滅多なことは他人を認めない。その武人が信じろというのだ。ウルドのヤマトという男の策を。

 その事実にロキの周囲の騎士たちはざわつく。


「ロキ殿下……」

「殿下……」


 近衛騎士たちは主である皇子ロキに、視線を向ける。

 彼らとて勇猛を誇る帝国軍の中でも、さらに精鋭ぞろいの真紅クリムゾン騎士団の一員。ロキの命令があれば、どんな策でも絶対に従い戦うのだ。


「シルドリア、それにバレス……」


 帝国の皇子ロキは一瞬だけ目を細めて思慮する。皇子としての究極の決断をしようとしているのだ。その言葉に帝都に住む万を超える民の運命が託される。


「分かった、貴君らを信じる。策にのろう、ウルドのヤマトよ!」


 そしてロキは英断する。オレの立てる策に真紅クリムゾン騎士団も、全面的に協力すると誓ってくる。


「兄上! 感謝するのじゃ!」

「これで飯の借りが一つだな、ロキ」


 その決断に実妹シルドリアと、友バレスは顔を微かに緩める。彼らの熱い言葉がロキに届いていたのだ。


「お前たち気を引き締めろ。くるぞ」


 だがオレは気を引き締めさせる。

 草原の上空を旋回飛行していた巨竜が、地上スレスレにこちらに向かってきたのだ。明らかにこちらを舐めきった行動である。


『あれ? 誰かと思ったら、そこの四人。キミたちも、この“遊び”に混じりにきたのかい?』


 ゆっくりと近づく巨竜の上部に、霊獣管理者レイジュウ・マスターを名乗る少年がいた。

 オレたちを見下しながら、余裕の言葉を投げ捨ててくる。その言動からロキたち騎士団と戦っているのも、少年にとっては暇つぶしの遊びなのであろう。


「テメェ!」

「キサマ、帝国を愚弄するそのもの、そこまでじゃ!」


 自国を侮辱されたバレスとシルドリアが叫ぶ。先ほどの樹海の遺跡では引けを取ったが、今度は容赦しないと。


滑稽こっけいだね。容赦しないだって? さっき樹海遺跡で魔竜ナーガ覚醒したこのアグニ君に、怯えて何もできなかったキミたちが?』


 通常の弓矢が通らないアグニの上から少年は、下等種のあがく姿と恐怖フィアを楽しんでいた。先ほどの樹海と同じように、怯えて何もできないなら見ておけと、侮蔑の言葉を発してくる。


 それは圧倒的な強者だけが発せられる、余裕の言葉であった。

 

「さっきは軽く驚いていただけだ」

『なんだと!?』


 だが竜上の少年に対して、オレは答える。


 空想上の生物であるドラゴンの出現に対して、樹海遺跡でのオレは少しだけ驚いていたのだ。

 なにしろ異世界とはいえ巨竜が実際に降臨するとは、流石のオレも想定はしていなかった。

 ゆえに驚きつつ、初見の巨竜を観察していたに過ぎないと。だから恐怖の関しては、とくに感じていなかった説明してやる。


『へえー。面白い冗談を言うんだね、下等種の分際で』

「図体ばかりが大きいだけで木偶の坊だ。これなら先ほどの魔人バアル級の方がまだましだ。それにオレは冗談が嫌いだ」


 これは本当だった。

 確かに魔竜ナーガ覚醒したアグニは、信じられないほどの巨体と強固な竜鱗を有する恐ろしい存在だ。

 だが、それだけだった。

 オレから言わせれば魔人バアル級の方がマシであり、少年の愚策だと教えてやる。


『なっ……霊獣管理者レイジュウ・マスターであるボクの……自慢の魔竜ナーガ級をデク人形だって……』

「気に障ったのなら謝る。だが事実だ」

『この下等種がぁ……!』


 少年は表情を一変させた。

 先ほどまでの余裕な雰囲気から、明らかに怒りを爆発させている。


『よし、気が変わったよ、ボクは。帝都なんてどうでもいい。ここにいるお前たちを跡形もなく滅するからね! アグニ!』

「ブフォオオン!」


 少年の言葉に反応して、魔竜ナーガアグニが咆哮をあげる。平原中の大気が大津波のように震える。


「くっ、これは……」

「先ほどの咆哮じゃ……」


 それは耳にするだけで全身に悪寒がはしり、足がすくむ恐怖の咆哮だった。

 樹海に降臨した直後のように、騎士たちの全身に耐え難い恐怖フィアがのしかかる。

 先ほどまでは遊びで騎士団を相手していたアグニが、いよいよ本気を出してしまったのだ。


 このままで自らの恐怖に押し潰され、自軍は自滅してしまうであろう。


「“禁断ノ歌”を」

「はい、ヤマトの兄上あにうえさま。みんな、いくよ。」

「「はい、巫女さま!」」


 オレの合図に後方の荷馬車から返事がある。

 それは不思議な能力を持つスザクの民の子ども達と、その代表である巫女の少女の声。

 彼女たち声はやがて不思議な旋律を奏でる歌となり、平原に響き渡る。


 それは不思議な歌であった。

 耳から聞こえてくるのではなく、直線的に自分の心に響くメロディー。

 憂いを含んでいるが、聞いている者たちに勇気を与えてくれる歌。これこそがスザクの民の秘伝の“禁断ノ歌”であった。


「おお! 体中に力がみなぎるぞ!」

「見ろ。恐怖の身体の震えが止まったぞ!」


 歌を聞いていた帝国の騎士から歓喜があがる。

 先ほどまで巨竜の恐ろしい咆哮に蝕まれていた、自らの心と身体が元に戻った。スザクの子ども達の歌が、恐怖から彼らを守ってくれたのだ。

 混乱していた騎士団は統率を取り戻す。


『これは“古の民の呪歌”!? まさか、生き残りがいたのか!?』


 竜上の少年は明らかに狼狽していた。

 広範囲に渡り絶対的な効果があった、魔竜ナーガアグニの咆哮が無効化されたことに。

 そして数百年前に滅んだはずの“禁断ノ歌”の歌い手が、今も生き残っていたことに動揺していた。


 それだけスザクの民の“禁断ノ歌”の精神防壁は希少なのだ。


『だが、恐怖咆哮フィア・ブレスがなくても、魔竜ナーガ級の霊獣に、下等種は勝てるはずがないんだよ!』


 少年は吠える。

 強固な竜鱗を有し、天空を舞う魔竜ナーガは、これまれ人は勝てたことがなかったと。

 人族が英雄と誇る者たちも、アグニはことごとく葬ってきたと誇らしげに語る。


「そうか。なら、それも今日で終わりだ」


 おしゃべりの時間は終わりだ。

 自軍の陣形が整ったことを確認したオレは、単騎で巨竜に駆けていく。バレスや他の仲間たちも予想していない、独断による単身の突撃であった。


「ヤマト、待つのじゃ! 危険じゃ!」

「ヤマト!」


 シルドリアたちから声があがる。だがそれに構わずオレは突撃していく。


『まずはキミからだ! やれ、アグニ』


 少年の命令にアグニは反応する。

 全体重をもってオレを押し潰そうと、竜爪を振り降ろしてくる。

 まるで巨大な大木が天から投擲される、そんな恐ろしい恐怖感が空から襲ってくる。鋭く重い巨竜爪は、どんな頑丈な盾や鎧でも防げない攻撃であった。


「だが、なんの技も知恵もない攻撃だ」


 その言葉と共に騎乗のオレは、腰から抜刀する。

 老鍛冶師ガトンの魂が込められた傑作。その名もガトンズ=ソード。オレはアグニの攻撃を回避して、逆に竜爪の一本を剣で切断する。

  巨木ほどの太さの竜指が吹き飛んでいく。


「ブフォオン!?」


 自慢の爪を指ごと切断されて、巨竜アグニは激しく叫ぶ。この世に誕生して、これまで一度の味わったことのない痛みに混乱していた。


『バカな!? アグニの竜鱗ドラゴン・スケイルは、すべての刃を跳ね返す強度だぞ!?』


 痛みで暴れるアグニから振り落とされないように、竜上の少年はしがみつきながら叫ぶ。

 魔剣と呼ばれる武具ですら防いできた、竜鱗ドラゴン・スケイルの絶対的な防御力。これまで数百年の間にわたり経験したことのない驚愕であった。


「簡単なことだ。うろこのすき間を狙って斬っただけだ」


 確かにアグニの鱗の強度は本物であった。

 帝国騎士団の長弓の攻撃をことごとく跳ね返していたことから、その防御力の高さがうかがえる。

 

 だが、どんな強固な物体にも必ず欠点は存在する。今回は鱗のわずかなすき間を狙って刃先を入れた。

 これは慣れるまで少々難しいが、流水のごとく意識を集中力すれば何とかなる芸当だ。


『バカな……狙ってもできる芸当では……』


 竜上の少年は茫然としている。だが今はそれに構っている暇はない。

 

「さあ、ここからオレたちの反撃の時間だ」


 オレは後方にいる仲間や帝国騎士団に、反撃の合図を送るのであった。


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