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オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

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第83話:恐怖と絶望の根源


 霊獣管理者レイジュウ・マスターを名乗る少年の、不気味な言葉と共に大地が揺れる。


『コレは凄く疲れるから、使いたくなかったんだけど……でも目的のために手段は選んでいられないからね……』


 少年の周囲の空気が一瞬で変わる。

 それと同時にオレたちの足元に倒れていた、魔人バアルアグニの亡骸が反応する。漆黒の光を放ちながら大地を揺らす。


「なんじゃ、これは!?」

「倒したはずの魔人バアルが!?」

「これは……全員、ここから退避だ」


 唖然とする騎士たちに、オレは指示をだす。今すぐ魔人バアルの亡骸から離れろと。


「ちっ!?」


 大剣使いバレスを含む三人の騎士たちは、指示に反応してこの場から退避する。歴戦の騎士である彼らも、死骸から発せられる異様な霊気に反応したのだ。


「くっ!?」


 退避の直後、魔人バアルの死骸は大きく光り爆ぜる。これまで体感したことのない漆黒の爆風。


「くっ……なんじゃ!? 今の爆発は……」

「姫さんに優男、無事か!?」

「ああ、私も大丈夫だ……」


 爆風に巻き込まれた騎士たちは、互いの安否を確かめ合う。

 石造りの遺跡に退避できたため、全員無事であった。同じく退避していたオレも、難を逃れている。


「おい、見ろ……あれは何じゃ……」


 全員の安否を確認していた、その時であった

 

 爆風による粉塵が晴れた先に、シルドリアが何かを発見する。

 先ほどまで存在しなかったモノが、そこに出現していたのだ。かなりの大きさの物体である。


「巨大なトカゲ……いや……まさかドラゴン……」


 騎士リーンハルトが唖然としながら呟く。

 ゛ドラゴン

 この大陸に竜は存在しない。

 彼が目にしたことがあるのは、都市国家オルンの秘蔵の書物の中である。そこに記載されていた伝説の存在を目にして、驚愕する。


「馬鹿な、竜じゃと……」


 シルドリアは否定しながらも、実際に自分で目にして言葉を続けられない。

 彼女も帝国の秘伝書の中で竜の存在は知っていた。だが砦ほどの大きさはある生物、その圧倒的な存在をまだ信じられないのである。


「ちっ……これはヤベえな……」


 帝国の大剣使いバレスは舌打ちをしながら、顔をゆがめる。

 激戦を好む野獣なような男であるが、剣すら届かない竜の出現に恐怖を感じているのだ。

 それは先ほどまでの反射恐怖カウンター・フィアの影響ではなく、正真正銘の真なる恐怖であった。



『“魔竜ナーガ”覚醒だよ……』


 少年の声がどこからともなく響く。視線を移すと声の主は、出現した巨竜の背中にいた。

 霊獣管理者レイジュウ・マスターを名乗る少年が、あの爆発の中でいつのま移動していたのだ。


「“魔竜ナーガ”覚醒だと?」


 最大級に警戒しながらオレは訪ねる。少年の発する気配が、明らかに先ほどとは激変していた。


『そうだよ。これが魔人バアル級の本当の姿さ。ボク自身の魔力マナを大量に投入しないと、覚醒はできない奥の手さ』


 そう説明してくる少年は明らかに疲弊していた。おそらくは魔力マナと呼ばれる何かしらの精神力を、消費しすぎた反動であろう。

 だが、その口元には勝利を確信した笑みがうかんでいた。


『ボクと魔人バアル級の霊獣が一体いれば、この大陸の四分の一を焦土と化すことができる、ってさっき言ったよね。これがその答えさ。この魔竜ナーガアグニには、その力だがあるんだよ!』


 その言葉は記憶にある。

 先ほどのまでのヤギ頭状態のアグニも、確かに恐ろしい霊獣であった。

 だがこの巨竜の姿こそがアグニの真なる姿であり、最大の恐怖の力を有した存在であったのだ。


「ブフォオオン!」


 少年の言葉の反応して、魔竜ナーガアグニが咆哮をあげる。大気が津波のように震える。


「くっ……!?」

「これは何じゃ……!?」


 それは耳にするだけで全身に悪寒がはしり、足がすくむ恐怖の咆哮だった。


 咆哮と同時に樹海から鳥たちが鳴き騒ぎ、逃げ去っていく。大小様々な獣たちも一斉に暴れ狂い、大移動を始める。

 先ほどまでの反射恐怖カウンター・フィアよりも強力な恐怖が、周囲のすべての生物に襲いかかっていたのだ。野生の本能が逃げろと彼らに命令しているのだ。


『うん……わかったよ、アグニ君。さてボクたちはこれから、一番近くにある大きな街に行く』


 竜上の少年が、オレたちを見下しながら宣言してくる。

 話の流れからおそらくは先ほどの咆哮で竜と少年の間に、何か意思疎通があったのかもしれない。


「ここから一番近い大きな街じゃと……」

 

 その事実にハッと気がついたシルドリアは目を見開く。


『そう、キミたちが帝都って呼んでいる街。覚醒仕立てて空腹なアグニ君は、そこに行って“恐怖”を食らいたんだってさ……キミたち下等種の断末魔のね』


 少年は演技かかった困った顔で説明してくる。

 恐怖を司る魔竜ナーガアグニの最も好む物は、無力な人族が死に際に放つ“絶望と恐怖”の感情だと。それにより魔竜ナーガは完全な力を取り戻すのだと。


「帝都だと、テメェ……このクソ野郎……」


 大剣使いバレスは低い声で怒りの声をあげる。帝国の騎士であるバレスは、帝都にいる部下や仲間のことを思い出し激怒したのだ。

人の命をゴミとも思っていない霊獣管理者レイジュウ・マスターを、野獣のような両眼で睨みつける。


『そんな怖い顔をされても困るな。だってこれはボクの意思じゃなくて、アグニ君の本能による決定だからね』


 少年は肩をすくめながら、困ったような表情でふざけている。

 その言動からアグニの強制的に束縛する力は、いまだ及んでいないのが読み取れる。


 おそらくは魔竜ナーガ覚醒した霊獣は、霊獣管理者レイジュウ・マスターをもってしても強制支配下に置きづらいのであろう。それだけアグニの力が強大になっているのだ。


「ブフォオン」


 アグニは吠える。今度は静かに。

 少年に向かって自らの意思を伝えている。


『わかったよ、アグニ君。雑魚の相手は終わりだよね。じゃあ、そろそろ行こうとするか』


 少年のその言葉をともに、大きな地鳴りが再び響き渡る。

 嵐のような強風が周囲に吹き荒れる。人の身である自分たちは、立っているだけでもやっとな危険な状況。


「まさか……飛ぶのか……魔竜ナーガは……」


 信じられない光景に騎士リーンハルトは言葉を失う。なぜなら砦ほどの大きさがある巨竜が、スッと宙に舞い飛んだのだ。

 巨竜は不思議な力で支えられているようにゆっくりと空を飛び、東の方角へと進路を向けている。ヒザン帝国の首都である帝都のある方角へと。


『キミたちを滅するのは次の機会だ……アグニ君。さあ、いこう!帝都に恐怖を食らいにさ!』

「まっ、待つのじゃ!」


 帝国の少女シルドリアの悲痛な叫びは、虚しく樹海に響き渡る。

 それに構うことなく遺跡から飛び立った巨竜は、風を斬るごう音と共に帝都のある東へと消えてゆく。


 巨体であるがために、飛行速度はそれほど早くはない。だが徒歩である自分たちでは、決して追いつけない状況だった。


 騎士たちは恐怖に足がすくみ、成す術がなかった。魔竜ナーガアグニは飛び去っていってしまったのだ。


「何ということじゃ……」


 シルドリアは悔しさと絶望に押し潰され、言葉を失う。

 今から巨竜を追いかけたとしても間に合うことはない。追いつけるのは、巨竜によって帝都が蹂躙じゅうりんされた後であろう。


「姫さん、帝都にはロキと帝国軍がいる。大丈夫だ!」

「バレス……お主も分かっているであろう。アレは兵の数でどうにかなる相手ではないのじゃ……」


 シルドリアの推測は正しい。帝都にも大陸随一を誇る騎士戦士団が駐在している。

 

 だが恐怖を操る魔竜ナーガアグニの前では、十万の戦力ですら無力であろう。むしろ恐怖で怯えて大混乱を起こした兵士が、市民を殺戮し合う可能性すらある。

 つまり巨竜が到達した時点で、帝都は壊滅してしまうのだ。


「ちっ……オレ様が遺跡調査でヘマをやらかさなかったら……」

「バレス。巨竜アレは災厄だった……貴君が悔やんでも仕方がない……」

「優男……」


 帝国の大剣使いバレスも、その事実には気がついていた。だが帝国の騎士団長の一人として、認めることを恐れていたのだ。

 騎士リーンハルトの言葉も受け入れられず、野獣のような男が下を向く。悔しさでかみしめるバレスの唇から、血が滴り落ちる。


わらわがいながら、なんということじゃ……」


 三人の騎士は誰もが言葉を失い、こぶしを握り締めていた。

 彼らはこの大陸でも最高峰の実力を有した武人である。

 対人戦では敵う者はなく、更には下位級の霊獣ですら討伐する実力も兼ね備えていた。


 だがそんな三人をもってしても、魔竜ナーガと化したアグニを恐れ恐怖していた。人の身では決して勝てない、その本当の人外の存在に対して絶望していた。



「このひづめの音は……よし、来たか」


 そんな誰もが絶望の淵にいた時である。

 樹海から遺跡に近づいてくるひづめの音に、オレは気がつく。


「ヤマトのダンナ! 案内してきたっす!」


 遊び人ラックの声が、その方向から聞こえてくる。


「ヤマトのあにさま、お待たせしました!」

「ああ、クランか」


 ラックと共にやって来たのは、ハン族の子ども達の騎馬隊であった。

 ウルドの村の住人である草原の一族。良馬であるハンを駆けて、森の中の獣道を駆けてきたのだ。

 オレに声をかけてきた、美しい少女クランは族長の直系。今は生き残ったハン族の子ども達を束ねる身分にある。


「クラン殿!?……ヤマト……これはどういうことだ?」


 樹海の入り口で待機していたはずの、クランたち騎馬隊の到着。

騎士リーンハルトは状況をつかめずにいた。いつの間にか姿を消していたラックが、クランたちと合流していたことも含めて。


「オレが先ほどこの馬笛で呼んだ」


 霊獣との戦いの前に嫌な予感がしたオレは、密かに馬笛で合図をしていた。

 笛は特殊な周波数を発するために、人の耳には聞こえない。だがその分だけ長距離で合図を送ることができる。それでハン馬に音を飛ばし、騎乗のクランに事前の合図をしていたのだ。

 

「馬だと……ウルドのヤマト、てめぇ、まさか……」

「ああ、ハン馬なら間に合う」


 大剣使いバレスの疑問に、お前の思っている通りだと答える。

 優秀な軍馬であるハン馬は、一日で数百キロを移動できる。樹海の獣道では機動力は落ちるが、確実に間に合う計算だと伝える。


「ヤマト……オヌシ……もしや、あの巨竜と……」


 信じられないオレの決断に、帝国の少女シルドリアは言葉を失っている。先ほどの恐怖と絶望を味わいながらも、まだ挑もうとするヤマトの決意に対して。


「ああ、勝負はこれからだ。今から魔竜ナーガアグニを追う。帝都を救うぞ、お前たち」


 帝都を滅ぼそうとする巨竜を追撃することを、オレたちは決意する。


 こうしてヒザン帝国での激戦は、最終局面を迎えようとしていた。




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