第63話:外交情勢
太守代理の少女イシスから街の問題を打ち明けられた。
場所を裏路地から、店舗裏の人気のない倉庫へと移動する。
近衛騎士リーンハルト、遊び人ラック、オレと村長の孫娘リーシャの四人で、イシスから話を聞いていった。
イシスから一通り説明を聞き終え、再度確認していく。
「つまりロマヌス神聖王国から〝圧力”がきたのか?」
「はい、その通りでございます、ヤマト様」
ロマヌス神聖王国はオルンの西方にある大国。
これまでの歴史的には、どちらかといえば友好関係があった国だという。
だが今年の春先に、その王国から使者がオルンを送られてきた。
内容的には『東から迫り来るヒザン帝国に対抗するために、ロマヌス神聖王国の庇護下に入れ』という強硬的なもの。
“庇護下”とは聞こえはいいが実質的には〝属国”になれ、という酷い内容だった。
「それを断ったのか」
「はい、保留という形ですが。私の父が……現太守が断りました」
「賢明な判断だ」
オルンは大陸平原の中央にある都市国家だ。
ここは東西の街道が交わる交通の要所であり、大陸中の物資や富が集まる商人の街。
王国制度は敷かずに、太守を頂点とした太守府が街を管理して栄えている。
ちなみにイシスの父親である現太守は、昨年に謎の病床に臥せていた。
だが昨年の秋にオレの指示した現代治療の一つで、今では元気に回復している。
「太守府の解体が条件の一つか」
「はい……そうです……」
だが王国からの条件は、そのオルンの自立を否定していた。
恐らくはオルンの豊かな富に目を付けて、ここぞとばかりに支配を企んでいるのであろう。
「だが強硬で断るのもマズイな。東西から大国に挟まれる位置関係になる」
「はい……そこで今後について太守府で協議をしました」
神聖王国と反対の方角には、現在勢力を拡大中のヒザン帝国が迫っていた。
オルンは交易による潤沢な資金で、独自の騎士団や兵士団を有している。
だがこの二つの大国を同時に相手では分が悪い。
今後の情勢を見極めて、オルンは外交戦略を進める必要がある。
「なるほど。つまりヒザン帝国に使者を送るのか」
「は、はい!? その通りです……よくお分かりになりましたね、ヤマト様」
オレが導き出した推測に、イシスは目を丸くする。
これはつい先ほど太守府で決定された極秘の決議なのに、と驚いていた。
「これまでの情勢をまとめていけば簡単な推理だ」
「さすがです、ヤマト様」
現代日本から転移してきたオレは、この大陸の歴史や情勢は詳しくは知らない。
だが日本や世界の歴史を考えると、歴史は相似するもので難しくない推測であった。
「そこで、ヤマト様に相談がございます……」
太守代理の少女イシスは申し訳なさそうに口を開く。
「ああ。オレにできることであれば何でも言え。“三個の礼”の約束だからな」
昨年の秋にオルンで出会ったこの少女に、オレは約束していた。
“三顧の礼”ならぬ“三個の礼”を受けた身として、“北の賢者”としてオルンを助ける事を。
「ありがとうございます! 実は……オルンから内密に使節団を帝都に派遣することになりまして……」
「イシスが行くことにしたのか」
「はい、ご名答です」
都市国家の命運を賭けた外交ともなれば、要人が行くに方が成功の確率が大きい。
動けない太守の代わりとなれば、代理であるイシスが最も適しているとオレは推測したのだ。
「そこでヤマト様にぜひ……帝都まで同行をお願いしたいのです」
「帝都までだと……」
それはまさかの依頼であった。
今のオレは北方に辺境に住む一介の村人の商人だ。
そんな自分に、命運を賭けた外交の同行を依頼してくるとは。
つまりは何かの〝策”があるのであろう。
「なるほどな。交易商人に混じって帝都に行くつもりか、イシス」
「はい、ご名答です……助けていただけますでしょうか……」
王国を刺激しないように、帝国に向かうとなれば極秘任務となる。
ならばイシスが交易商人に紛れて、帝都まで行くのが一番目立たない。
「もちろんだ。オレは約束を破らない」
「ありがとうございます! ヤマト様!」
都市国家群を抜けて帝国まで向かうのは、誰もが避ける危険な任務である。
断られると思っていたイシスは驚き、そして喜ぶ。
「こちらも準備の必要がある。七日後に出発するぞ」
この日の内密の話は、ここで解散となる。
◇
準備の七日間のうちに、ウルド商店の指導や街での買い出しを済ませておく。
またハン族の騎馬をウルドの村へ早馬に出す。
村から新しい荷馬車と、完成したばかりの老鍛冶師ガトンの渾身作をもって来てもらう為である。
道中や帝都で何が起こるか想像もできない。念には念を入れて準備する。
「よし、帝都に向かうぞ」
こうして七日後には全ての準備が整う。
東方にあるヒザン帝国の首都“帝都”を目指して、オレたちウルド荷馬車隊は出発することになった。




