第58話:強引な作戦
奴隷商人に捕まった他集落の子供たちを救い出すために、オレは出陣することになった。
「ヤマトの兄さま、あの一行です」
ハン族の少女クランの案内で、オレたちは街道を南西に進む奴隷商人の隊列に追いつく。
彼女の独断でハン族の少年を残して、奴隷商の一行を尾行させていた。
「なるほど、たしかに奴隷商人だな」
相手に気がつかれないように、遠方の丘に身を隠しながら自分の目でも確認する。
頑丈な鉄製の檻荷馬車を中央にして、武装した歩兵と騎兵の護衛が周りを固めて街道を進んでいた。
武装や雰囲気から噂に聞く商人お抱えの傭兵団なのであろう。
すれ違う他の行商人や巡礼者たちを、ガラ悪く威嚇ながら下品な笑い声をあげている。
「あれが“魔じり民”の子供たちか」
「はい。間違いありません、ヤマトさま」
遠目の効く少女リーシャが、オレの隣で情報の確認をする。
村長の孫娘として博識な彼女の情報は、別世界に来たオレにとって有り難い存在だ。
「パッと見は普通だな」
「はい。“魔じり民”の外見的な特徴は、我々と同じなはずです」
狭く汚れた檻の中にいる子供たちは、この世界の人々と同じ外見をしている。
ただ手足には鉄の枷がはめられており、自由が奪われていた。死んだ魚のように生気のない瞳で、揺れる檻の中でぐったりしている。
「思っていたよりも相手の数が多いですね……ヤマトさま」
「ああ。それに奴隷商人が乗っているだろう馬車の警護も厚い」
丘の影から相手の布陣を見て、リーシャは不安そうな声をだす。
相手は少数民族や集落を襲い、子供を商品にする残虐非道な奴隷商人とその部下たち。
逆の襲撃に対する護衛も万全で、かなりの戦力がいる。
一方でこちらは万全の戦力ではなかった。
時間を惜しんで、馬脚の速いハン族の軽弓騎兵だけで来ている。
その数は二十騎ほどしかいなく、今のところの戦力差は大きい。
予定では後発隊として、ウルドの子供たちを乗せた荷馬車の弩隊も到着する。
「この先は〝王国領”です、ヤマト様。国境警備兵団がいるはずです」
「時間との勝負ということか」
他国の領土内で大っぴらな戦闘行為は危険である。
異変を察知した大量の国境警備兵が駆け付けるかもしれない。
そうなったら襲撃者であるこちらが圧倒的に不利。
後続の弩隊が到着する前に、奴隷商一行から“魔じり民”の子供たちを救出する必要があった。
頭数の戦力差と時間との勝負である。
「機動力と遠距離攻撃はこちらが勝っていると思います。ですが接近戦は危険が多いですね……」
遠目に相手の戦力を計りリーシャは目を細めている。
優秀な狩人である彼女はこの距離でも、歩き方や雰囲気で相手の力量を計れるようになっていた。
リーシャの言葉にあるように、ハン族の軽弓騎馬をはじめとしたウルドの戦力は“接近戦”に強くはない。
なぜならばオレとリーシャを以外の全ての者が、非力な未成年の子供だからだ。
単純な腕力がものを言う接近戦では危険が多い。
これを補うための高性能なウルド式の弩であり、草原の民ハン族の騎馬隊と弓の機動性の組み合わせた戦い方であった。
「ああ。ハン族の子供たちを危険な目に合わせることはできない」
このまま正攻法で奇襲しても、奴隷商人と護衛の傭兵たちを倒すことはできるであろう。
だがその際、こちらにも負傷者や死者がでる可能性がある。
このような草原での乱戦ともなれば、予測できないことが起こるが〝戦場”なのだ。
別の世界から来たオレも、これまでの実戦から学んでいた。
「よし。今回は少し“強引な作戦”でいくぞ」
相手の戦力とこちらの軽弓騎馬の数。それに援軍の駆けつける時間と最終リミットを頭の中で整理しながら、オレは今回の救出作戦を編み出す。
「“強引な作戦”……ですか、ヤマトさま」
戦闘時はオレの副官でもある少女リーシャは首をかしげている。
優秀な指揮官となりつつある彼女にも、今回の状況に対する〝強引な作戦”は浮かんでいないのであろう。
「作戦は簡単だ。リーシャさんはここで狙撃を。クランと軽弓騎兵隊は訓練通りに移動包囲陣だ」
長距離狙撃が可能な機械長弓の使い手リーシャは、固定砲台としてこの場に設置。
ハン族の軽弓騎兵隊は相手との距離をとり、覇王短弓の馬上斉射で敵の殲滅を指示する。
「はい、ヤマトの兄さま!」
ハン族の少女クランは囚われた子供たちを救えるとあって、目を輝かせて返事をする。
彼女たちならきっと危険を回避しつつ、作戦を実行してくれるであろう。
「かしこまりました。それでヤマト様は……」
リーシャも返事をしながら、不思議そうな瞳でオレに訪ねてくる。
「オレは単騎で突撃して奴隷商人を倒す」
「えっ、ヤマトさま!? ……そんな危険なことは……」
「よし、みんな行くぞ!」
無謀とも思える作戦を止めるリーシャ、その言葉を遮りオレは突撃の号令をくだす。
そして愛馬である“王風”と共に、草原の丘を一直線に駆け下りていくのであった。




