第45話:急がされたシナリオ
猛獣のような大剣使い、帝国の騎士バレスが立ち去ってから半日が過ぎる。
初秋の午後の日差しが降り注ぎ、オルンの市場は買い物をする市民でにぎわう。
早朝に思いもよらぬ帝国の騎士の来店があったが、ウルド露店の売り上げは本日も好調。
客足も落ち着き、ずっと品出しをしていたオレもひと段落する。
「リーシャさん、この後の店番を頼む」
「はい。"イシス様”とお出かけされるのですね……ヤマトさま」
「ああ、今日で最後だ」
オルンの街の太守代理の少女イシスが、そろそろオレを迎えに来る約束の時間だ。
“三個の礼”による『オルンの街の素晴らしいモノを知ってください!』も、今日の三個目で最後である。
最終日である今日は『一緒に行って見せたいものがある』という昨日の約束だった。
何でも『手では持ってこられないおおきなモノ』だとイシスは言っていた。
「イシス様と会うのは"今日で最後”……なのですよね?……ヤマト様」
「ああ、そういう約束だ」
太守代理の少女イシスは、何の打算もなく“オルンの街の素晴らしい物を三個”オレに見せてくれると言っていた。
その約束も今日の午後で最後になる。今となっては、さっぱりしたような、少し寂しい感もある。
「なら……いいです……」
「どうした、リーシャさん? 気分でも悪いのか」
「いえ、何でもありません!」
オレの気のせいかもしれないが、リーシャはイシスの話をする時、少し不機嫌になる。
もしかしたら生理的に彼女のことを苦手なのかもしれない。
女同士の相性と言うのは、男である自分の理解できない領域だ。
あまりその件に関しては触れないでおく。
「ウルドのヤマト!」
そんな時であった。
市場にオレの名を叫ぶ者が現れる。その声には聞き覚えがあり、少なくとも危険人物ではない。
「オレはここだ、リーンハルト」
「そんな所にいたのか!」
自分を大声で探していたのはオルン近衛騎士リーンハルトであった。
彼の視界に出てい、自分の存在を知らしめる。
(何かあったのか……?)
リーンハルトは市場の全ての店を叫び回り、オレを見つけようとしていた勢いだった。それほどまでに血相を変えている。
「どうした?」
「くっ……やはり、いないのか!?」
リーンハルトは質問に答えずに、オレの周囲とウルド露店を見回し、落胆した表情となる。明らかに"誰か”を探している様子だ。
(まさか……)
その悲痛な顔つきから、オレの脳裏に一つに仮定に浮かび上がる。
「まさか、いなくなったのか……?」
「ああ……ここに……“お前に会い”に来る為に、馬車を降りて、目をはなした一瞬だった……」
オレはあえて〝誰が”いなくなった、とは聞かない。
近衛騎士リーンハルトも周囲の市民に悟られないように、冷静さを取り戻しながら言葉を選んで発する。
だが、その返事の内容だけで、オレは全てを察する。
近衛騎士であるこの男が仕えている主は、太守代理の少女イシス。
そしてオレがこれから会う約束をしていたのもイシスだった。
(誘拐か、それとも拉致か……)
これらの事から、オレがたどり着いた事実はただ一つ。
太守代理の少女イシスが、何者かによって誘拐されてしまったのだ。




