第35話:新たなる季節と波乱の予感
広大な大草原の中央を、悠然な石畳の街道が南北にのびている。
この街道は古代の超帝国の時代に、大陸各地に敷かれた街道の一つ。
南の温暖な地域からは、海産物や珍しい果物・砂糖などの特産品が商隊に運ばれ北上する。
また北方からは穀物や革製品・鉱物などが南へと運ばれる。
この歴史ある街道は流通の要であり、異文化の交わる道として現在も重要な役割を担っていた。
そんな街道を南の方角に向かう不思議な集団があった。
集団は中央に薄汚れた荷馬車を配置し、周りには護衛の騎馬の姿も見える。
恐らく北方の農村部や山岳部から来た農民であろう。
荷馬車に大量の特産品を積み込んでいるところを見ると、南下した先にある大きな街に売りにいく道中かもしれない。
数騎の護衛は盗賊対策に雇った傭兵であろう。
なにしろこの街道沿いは、つい最近まで大盗賊団が出没していた。金がかかるが護衛もまだ必要だ。
だが、よく見ると……この一行は違和感があるのだ。
まずは周囲を護衛者の馬が、あまりにも立派すぎるのだ。
騎士や馬に詳しい者が見たら驚くであろう。
なんとその馬は幻の“ハン馬”だったのだ。将軍や上級騎士が喉から手が出るほど欲する、"あの”幻の名馬が何頭もいた。
そして更に驚くべきことがある。
この一行が“幼い子ども”だらけなのだ。成人を迎えている者は二人だけで、他の全員はまだ幼い子ども達。
そんな幼子たちが荷馬車を操り、幻の名馬“ハン馬”を見事に乗りこなしているのだ。
治安が回復したばかりのこの街道は、人通りもまだ少ない。
だが、すれ違う行商人や巡礼者たちの誰もが、目を見開き驚いてこの不思議な一行を見ていた。
◇
「ヤマト兄さま、もう少し南下すると街があります。前方には怪しい人影もありません」
「偵察ご苦労様だ、クラン」
「はい、心づかいの言葉をありがとうございます、兄さま!」
ハン族の子供たちの駆ける騎馬先行隊が、オレの乗る荷馬車のところまで戻ってきた。
前方や周囲には怪しい影はないと報告を受ける。
美しい草原の少女クランは覇王短弓を携えて、引き続き荷馬車の前後に展開して護衛にあたる。
「いよいよ……“オルンの街”ですね、ヤマトさま」
「ああ、そうだな。だが油断はせずに、リーシャさん」
「はい!」
荷馬車の御者台でオレの隣に座る少女リーシャは、思わず浮かれてしまった表情を引き締める。
手に持つ機械長弓を確かめながら、遠目の効くその両目で周囲を警戒する。
「リーシャ姉ちゃんが浮かれるもの仕方がないよ、ヤマト兄ちゃん!」
「だって街はすごく大きくて楽しいんだよ、兄ちゃん!」
「そうそう!」
一緒に荷馬車に乗っているウルドの民の子供たちは、浮かれ気分を隠そうともせずに満面の笑みでおしゃべりをしている。
それでも手に持った弩と監視の目は、しっかりと周囲に向けられている。
「そんなに街は大きいのか? リーシャさん」
「はい、それはもちろんです! 商館や市場が建ち並んで、見たこともないような素敵な生地や宝飾品、それに屋台の料理が売っているのですよ!ヤマトさま」
「なるほど。リーシャさんがそこまで興奮するのなら、本当に楽しみだな」
「す、すみません……久しぶりの街なので、つい興奮してしまいました」
「大丈夫だ。持ってきた商品が無事に売れたら、みんなで土産も買っていこう」
「はい、ありがとうございます! ヤマトさま」
そんな他愛のない雑談をしながら、オレも周囲を警戒する。
だが見晴らしのいい街道沿いには、もはや危険の香りは感じない。
事前の情報通り、この街道沿いを荒らしていた"大盗賊団”は本当に壊滅したようである。
(今のところは交易の道中も順調だな……)
街道の治安が回復したのを受けて、オレたちは“交易”をすることにしたのだ。
◇
岩塩鉱山の霊獣を退治してから数か月が経っていた。
今は穀物イナホンの収穫の少し前、農作業もひと段落した季節だ。塩や食料の供給のめどもつき、村の生活は平和で安定してきた頃である。
「よし、交易を再開する」
オレのそんな提案で、今回の荷馬車による交易の再開をすることになった。
目的は村の特産品や余剰品を街で売ることによって、街の外貨を得ること。その貨幣でそのまま買い物をして、村では作り出せない商品を持って帰る。
辺境の山岳地帯にあるウルドの村は、基本的に自給自足の生活をしている。
だが香辛料や医療品・他民族の工芸品などは、大きな街に行かないと手に入らない。
そこで二台の荷馬車にウルドの“特産品”を満載して、交易をすることにしたのだ。
「持っていく商品は厳選していく」
今回の品物はお試し品が多い。
街の商人たちの反応を見てから、今後の流通の計画を立てていくつもりだ。
「オレと一緒に行くのは、次の名の者たちだ……」
連れてきたメンバーは少数精鋭にした。
村長の孫娘であるリーシャとオレが引率者になり、荷馬車にはウルドの子供たちを数人だけ乗せてきた。
護衛騎馬隊のハン族の子供たちのも、族長の血筋の少女クランと他の数人だけに抑えている。
残りの者は村の仕事や巡回・防衛の任務を言いつけてきた。
最近はウルドの村の周囲には危険な存在はない。オレたちがしばらく村を離れても大丈夫であろう。
こうして全ての段取りを済ませてから、村を出発ししてきた。
これで村を留守しても、街での交易の交渉にしばらくは集中できる。
◇
街道を更に南下していく。
「ヤマト兄さま! オルンの街が見えました」
「ああ。わかった、クラン」
騎馬偵察してきたハン族少女クランから報告がある。目的地である都市オルンが見えてきたと。
予定通り街に無事に到着できそうだ。
(これでウルドの村と街への街道は繋がった。さて……この交易の再開が、吉とでるか凶とでるか……)
遠目に“オルンの街”の城壁を見つめながら、オレは心の中でつぶやくのだった。




