第862話 一葉朱蘭 対 六辻剛浚
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「あ、あのひとは一葉朱蘭か!」
「レジスタンス代表のドランケン・フレンジー。お酒狂いのひとサメエエ!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は初めて目にしたものの、キソの里へ続く山道に仁王立ちとなった、薄灰色の髪をショートボブにまとめて身の丈よりも大きな金棒を担いだ女性の正体をすぐさま把握した。
匂いから察するに、彼女が肩からひもでかけた三日月型の水筒には、おそらく純度の高い酒が入っているのだろう。戦場に酒器を持ち込む者など、そう多くはないはずだからだ。
「おやおやヤンチャな子達だねえ。お酒狂い呼ばわりはないだろう。この古酒はアタシにとって最高の相棒なのさ」
「は、はあ。変わった水筒に入れているけど、古酒って日本の琉球諸島で造られる蒸留酒、泡盛の一種だっけ?」
「桃太おにーさん、あの水筒は抱瓶。地球日本との交流で、実はクマ国でも似たお酒や器を作っていたりするんだ。ここコウナン地方の特産だったりするんだサメエ」
桃太と紗雨が朱蘭と楽しげに会話を交わすものの、両者に追われるターゲットは、よほどに機嫌が悪いらしい。
「うるさい。うざったいゴリラめが、わしの行く道を邪魔するな。エセ執事を仕留めた技で掃除してくれるわ。我が使い魔に食われて死ねっ。〝蟲喰らい地獄刑〟!」
『あらあらまあまあ。仕方ないひとねえ』
異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体〝完全正義帝国〟の指揮官、六辻剛浚は、背後に幽霊のごとくとりついた誰にも見えない二本角の女怪が愚痴るのも知らず、鬼神具〝輝く角を持つ冠〟をピカピカと光らせて蠅の群れを生み出し、草や石を津波のごとくに食らわせながら朱蘭に迫る。
「ったく、仮にも勇者パーティ〝SAINTS〟にその人ありと謳われた猛将のやることかい? そういう大技は罠に使うか、フェイントを交えて使いなよ。ほんと、指揮官としては下の下だねえ」
しかし、朱蘭は泡盛で酔っ払いながらも冷静だ。
「酒に縁の深い、八仙人より名を借りて……〝一の技、ロドウヒン〟っ」
彼女は一見、千鳥足にも見える緩急のついた体のうごきで金棒を振り回して、あたかも竜巻でも発生させたかのように周辺を飛ぶ蝿の群れを消滅させ、峠の木々を粉砕しながら剛浚の胸部を殴打した。
「ごはっ。な、なんだあっ」
「人をゴリラ呼ばわりとは許せないね。一角の将を名乗るなら、コンプライアンスに気をつけな!」
「職場で酒を飲む女が言うセリフかあっ」
剛浚は四肢に使い魔の蠅をまとわせて短い触腕を作り、手刀や足刀で反撃するものの、朱蘭にペースを握られていた。酔っぱらったように揺れるリズムが独特過ぎて、揺れる柳のようにひらひらとかわされてしまうのだ。
「あ、あれは栄彦さんの酔拳!?」
「あんな肝臓に悪そうな武術、他に使うひとがいたんだサメ!?」
あとがき
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