第861話 逃亡を阻むもの?
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「まあ、予定外の事態に苦しむのは、晴峰さんだけではないだろうがな。離岸さんの言った通り、作戦は終了だ。あとは我が友、出雲桃太と、小生意気なサメ娘、建速紗雨が幕を引いてくれるだろう」
漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士が元勇者パーティ〝SAINTS〟の重鎮でありながら、テロリスト達の幹部に鞍替えした六辻剛浚の末路を断言すると、キツネ顔の式鬼使い、離岸亜大と、負傷した白髪の老執事、晴峰道楽も同意して頷いた。
「ええ、ええ。我が親愛なる腐れ縁には、もう先がない」
「残念。クソ野郎といえど、手柄首だ。欲しかったなあ」
三人が率いたレジスタンスは、異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体〝完全正義帝国〟に完勝。
「さて、今は冬。畑を作るなら、玉ねぎにするかホウレンソウにするか悩ましいですね……」
「前者は育ちきるまで半年近い時間がかかるし、後者は葉が傷まないよう強い霜をさけるための工夫がいる。久蔵爺さん曰く、ここから春にかけてはカブがオススメだそうだ」
「〝三連蛇城〟の空き地に畑を作ったと聞きやす。あのひとも多芸多才でやんすね」
男三人は、額を突き合わせて農業談義に花を咲かせ始めた。
剛浚がいまだ逃亡中であるものの、彼らは必ずや捕縛できると確信していた。
「待てえ」
「逃げるな卑怯者、なんだサメーッ!」
なぜなら、レジスタンス一同が戦闘において最も信頼できる二人のエース。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が追撃していたからだ。
「わ、わしは逃げているのではない。この世でもっとも大切な宝物、わしの生命を守ろうとしているだけだ」
剛浚は、指揮官としては落第もいいところな妄言を垂れ流しながら、使い魔の蠅を集めた空飛ぶ絨毯にしがみついてみっともなく逃走。自らの手で改造した屍体人形、〝蝿兵士〟を時間稼ぎのためにぶつけるものの――。
「そんな戯言がいまさら通じるものか。地球日本でのクーデターと、異世界クマ国での殺戮。裁判がお前を待っているぞ!」
「「GA!?」」
桃太は衝撃を巻きつけた右手で、ばっさばっさと切り捨てて追撃する。
「仮にも王将を名乗ったんなら、負けた責任を果たすサメエエ」
「「GAGA!?」」
また彼の隣では紗雨が、剛浚の背中めがけて水弾やら水柱やらを放っている。今は残った〝蝿兵士〟が盾になっているものの、全滅するのはそう長くはないだろう。
「いいや、わしは負けてなどはおらぬ。キソの里へ戻り、兵を集める。そして、もっと強い力を得て、もっとたくさんの金を奪い、もっともっと大きな喝采をあびるのだ。英雄たるわしが罪に問われる理由などあるものかああっ!」
剛浚が下衆・悪漢として満点の回答をわめきながら、己を鼓舞すると……。
『そう、それでいいの。貴方にはその資格がある』
彼の背中に取り憑く、蠅の触覚に似た二本の角が生えた半透明の女怪がささやく。
「わしは選ばれしもの。生きている限り、おわらんぞおお」
老いたる外道は、自らが被った鬼神具〝輝く角を持つ冠〟から伝わってくる、聞こえているのか聞こえていないのかわからない声に背を押され、山道をかけ、峠をのぼった。
「見えた、キソの里だ」
『構えて。怖いひとがくるわ』
剛浚が安心して息を吐いたところに、いずこからか飛来した金棒が激突。。
幸いにも〝輝く角を持つ冠〟から伝わってきた忠告のおかけで、急所への直撃こそ避けたもののふっとばされ、薮の中へと突っ込んだ。
「ば、ばかな。ここは〝完全正義帝国〟の勢力圏だぞ。なぜわしが攻撃を受けるのだ!?」
「そりゃあ、とうに安全圏じゃなくなったからだろうねえ。ぶはあ」
濃密な酒の匂いを醸しながら、西陽に照らされて剛浚の前に立ちはだかったのは、思いもよらない人物だった。
薄灰色の髪を短めのボブカットに整え、空手や柔道などで使われる胴着の上に胸当てや足鎧で武装した恰幅の良い女で、戦場だというのにアルコール度数の高い蒸留酒が入った瓶をあおり、浴びるように飲んでいた。
「あ、あのひとは一葉朱蘭か!」
「レジスタンス代表のドランケン・フレンジー。お酒狂いのひとサメエエ!?」
あとがき
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