第859話 晴峰道楽の選ぶ未来
859
「ふふふ。若き日より、悔いのない充実した時間を過ごしましたが、腐れ縁である六辻剛浚や、我が元主人である七罪業夢様と同様に、老いたのは私も同じでしたか」
レジスタンスを率いる白髪の老執事、晴峰道楽は自らの血で赤く濡れた白い髪を整えながら深呼吸し、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨の治療を受けながら……初めて弱音らしき言葉を口にした。
「剛浚のいう通り、格付けは終わり、決着はつきました。どうやら〝鬼神具・迦楼羅の足袋〟の加護を得てさえも、私はかつてより衰えてしまったようだ。戦いだけが人生と思っていましたが、生涯現役とはいかないようです」
桃太と紗雨は道楽の手を取って励ます。
「気を強く持ってください」
「レジスタンスの仲間や、黒騎士と離岸さんもじきに到着するサメエ」
二人は手当てをしながら、剛浚の天晴れとした顔を見て思った。
(晴峰さんは、離岸亜大さんと違って、戦うことにとり憑かれてたみたいだったけれど、この雰囲気なら大丈夫かな?)
(もう踊って鬼気を祓う必要もないみたいサメエ)
道楽は好敵手だった六辻剛浚のように、あるいは上司であった七罪業夢のように、鬼に堕ちることにはならないだろう、と。
「出雲さん、建速の姫君。剛浚との決着、お頼みします」
「お任せなんだサメエ。その前に、二体の〝騎士級人形〟だけは桃太おにーさんと退治しちゃうサメエ」
「ああ、紗雨ちゃん。やろう!」
桃太は紗雨と共に、距離を詰めてくる怪物に向かって突っ込んでいった。
「ふふふ。他人をうらやむことなどないと思っていましたが、貴方達のような弟子と娘に恵まれた……クマ国代表カムロに嫉妬してしまいますね。聞くところによると、私や業夢様より昔から戦っているというのに、今なお若々しいというじゃありませんか?」
「たはは。師匠は仮面をかぶっているから、顔はわからないけど、言動は明瞭だし、体捌きも俊敏だよね。我流・〝鎧徹し〟!」
桃太は雑談混じりに、剛浚に取り残された〝騎士級人形〟のうち一体をうち。
「桃太おにーさんは、ジイチャンをかいかぶりすぎサメエ。農作業をやってるから頭も体も頑丈なだけサメエ。サメ投げを受けるんだサメー!」
紗雨もまた水柱と共にぶん投げ、叩き落として一体を仕留める。
「ここはお願い、俺と紗雨ちゃんは敗走する六辻剛浚を追撃する!」
「「うおおおおっ」」「任されました」
そうして二人は、レジスタンスに託して走り出した。
「ふふ、農作業か。戦いばかりの人生でした。剛浚のバカに指摘されたのはムカつきますが、業夢様とて自由に生きろと仰ったのだから、鉄火場からは一度離れて、気楽な晴耕雨読のスローライフというのも悪くありませんね」
道楽は彼と彼女の背中を見送りながらつぶやいた。
「テロリストども……、〝完全正義帝国〟との戦が終わったあとは、私もひとつ鍬をふってみますか!」
だが、道楽はひとつ大きな勘違いをしていた。
なるほどカムロは頑健だ。よるとしなみには勝てず、〝完全正義帝国〟との戦いで何度も腰を痛め、治療を受けているものの、すぐさま戦場に復帰している。
……言い換えるならば、並の若者に負けぬほどに頑健な肉体を鍛えあげた要因のひとつ、彼が日々従事する農作業こそ、下手なトレーニングより肉体に負荷がかかっている証左に他ならない。
なにせクマ国では地球と違い、大型の機械が使えないのだから。
「晴耕雨読? スローライフ? これじゃあぜんぜん休めない!」
後日、老執事は想定外の事態に直面して、そう叫ぶことになる。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)
先日から続く寒波により体調を崩しまして、ちょっとお休みをいただきます。
二月六日金曜日より更新を再開します。お楽しみに。





