第857話 過去を見て、現在を見ず
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「なっ、偽物にすり替わったっ!?」
「引っかかったなあ! わしの本領は直接戦闘だけにあらず、使い魔の使役よ。どれだけ駒を失っても構わない。最後に立っている者が勝利者なのだ」
レジスタンスの指揮官である白髪の老執事、晴峰道楽が古なじみ、六辻剛浚の異常に気づいた時には、なにもかもが遅かった。
『残念だったわね。きっと貴方だけは、私を止めることができたでしょうに。でも、チャンスはもう二度とない』
道楽が旧友が頭に被った鬼神具、〝輝く角を持つ冠〟に重ねて、蠅の触覚がごとき二本の角が生えた黒い髪と白い肌をもつ美しい女怪を見たのは、果たして真実か幻影か?
彼がその手で首をおとしたまさにその瞬間、テロリスト団体〝完全正義帝国〟の指揮官にまで落ちぶれた因縁深きライバルの肉体は、数千、数万の蝿の塊となって爆発したのだ。
「晴峰道楽、戦いを始めた時に貴様が言った通りだな。〝どんな手段を使ってでも、攻撃を当てればいい〟。まさか卑怯とは言うまいな。これがわしの切り札、〝蟲喰らい地獄刑〟よ」
道楽は完全に不意をつかれた。
彼の記憶にある過去の剛浚は、絡め手など使わない。
己が膂力とありあわせの武器を使い、いつも真正面から巨大なモンスターを打ち破ってきた。
だから、今もそうだと無意識のうちに期待した。
あるいは、身の丈にあわぬ野心と策謀に身を焦がして道を誤った旧友の作戦などたいしたことないと甘く見て、耳打ちをしている〝鬼神具〟がいることを見落とした。
「使い魔の使役を利用した入れ替えトリック。こ、こんな隠し技があったとはっ」
爆風で加速した蝿の群れは、もっとも近くにいた道楽の体をあたかも散弾銃の弾丸がごとくに、えぐりとる。
「剛浚、あいつ自分の体を身代わりにすり替えていたのか!」
この時、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、行く手を塞ぐ〝聖職者級人形〟と護衛の〝蝿兵士〟を撃破していたものの、決着の瞬間には間に合わなかった。
「それだけじゃない。あのひと、蝿に変身して逃げたサメエエ!?」
だからこそ剛浚の自爆めいた罠にひっかかることは免れて、鬼神具である〝輝く角を持つ冠〟をかぶって逃亡する人間大の蝿を見て、それが六辻剛浚であると確信した。
そして、その推測はすぐさま裏付けがとれることになる。
「フェフェ。わしの本領は直接戦闘だけではなく、使い魔の使役と言ったであろう。何十年かぶりにお前との決着もつけた以上、いつまでも不利な戦場にとどまる理由はない。貴様のような足元の石は蹴とばして、ただただ栄光へと昇るのみよ」
蝿となった剛浚がほんの少しだけ寂しそうに振り返った後、屍体人形が変貌したおつきの蝿兵士を連れて逃亡したからだ。
「ふざけるな馬鹿野郎!」
「俺たちを見捨てるのか、人間のクズ」
「この外道がああ」
当然ながら、取り残された部下のテロリスト達の反応は非難轟々だったが、カエルのツラに小便。イカれた独裁者は恥じる心など最初から持ち合わせていない。
「ま、待て。待つんだ剛浚。まだ私との戦いは終わっていないぞ」
「「GAAAAAA」」
道楽もまた出血で全身を赤く染めながら、屍体人形との抗戦を続けるものの――。
「たった今、格付けは済んだ。エセ執事、指揮官としては貴様が勝るが、戦士としてはわしの圧勝だ。あとは、強化した〝兵士級人形〟と、〝騎士級人形〟が処理してくれるじゃろう。お前はそこでミンチとなるがいい」
彼が必死で伸ばした手は、剛浚に届くはずもなかった。
「私は過去の剛浚ばかりをみて、現在の奴を見損ねた。策士策に溺れるとは私のことだ。まさか猪武者だった彼に足を掬われるとは、ね」
あとがき
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