第853話 影の使役術
853
「六辻剛浚、忘れているようですから、改めてご教授しましょう。
私がかつて所属した勇者パーティ〝K・A・N〟が初代勇者、獅子央焔より受け継いだ勇者の秘奥は、一体多数の戦闘を得意とする〝影の使役術〟。
影の武器は切った相手の血と生命力を奪い、己のエネルギーに変える。その強さを思い出してもらいましょう」
レジスタンスを率いる白髪の老執事、晴峰道楽は、足に履いた鬼神具、〝迦楼羅の足袋〟で加速しつつ、自らの足元の影から何十本という黒い剣を作り出して振るい……。
「わ、わしが操る人形を、エサにしているというのかあ!」
腐れ縁であるテロリスト団体〝完全正義帝国〟の指揮官、六辻剛浚が操る半人半蠅の人形、〝蠅兵士〟を切り伏せ、物量で押しつぶしながら前進した。
剛浚は理解する。どれだけ雑兵をぶつけても、道楽は止められない。倒すなら自分の手で直接やるしかないのだ。
「くそお、くそお。くそおおおっ。生きるのはわし、死ぬのはお前えええっ」
剛浚は使い魔たる蠅を束ねた触腕で迎撃しながら、みっともなく叫ぶのものの、道楽の戦い方は普通ならばありえないことだ。
〝鬼の力〟は振るうたびに相応の体力と精神力を消耗し、場合によっては使い手の生命や魂すらも奪い去る。
だが、負債を戦う相手に押し付け、自らの糧に変えるところが、七罪家とその関係者が極めた〝影の使役術〟の強みであった。
「ふふふ。命を賭した戦いだからこそ血がたぎる。この作戦に志願した意味があったというもの!」
一方の道楽もまた無傷ではない。
剛浚との交戦で傷つき汚れ、清潔だったスーツもベストも、今では血と泥で見る影もないが……、白髪の老執事はまるで子供時分に泥遊びをしているかのような、屈託のない笑みを浮かべている。
「ゲホゴホっ。あの業夢さんの執事で、勇者パーティ〝K・A・N〟の精鋭だったなら、そりゃあ〝影の使役術〟を使えるよな」
「BUOOO!」
その頃、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、剛浚がつくりあげた〝聖職者級人形〟になんども川へ叩き込まれたものの、交戦を続けていた。
そんな彼は、道楽が鎧袖一触とばかりに多数の敵を薙ぎ払う姿を見て、胸が高鳴るのを自覚した。
今は共闘しているといえ、悪人には違いなく、将来は敵に回るかも知れない相手。それでも極まった技量には憧れを抱いてしまう。
「ごほごほ。エネルギー吸収能力があるから、使い所を間違えなければ反則めいた強さサメエ」
桃太の隣で戦う、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、道楽が影の剣で剛浚が使い魔の蝿でつくりあげた触腕と切り結ぶ光景に目を丸くする。
道楽のかつての上司である七罪業夢の場合、他にも槍やら槌やらを展開して、隠した献血パックに頼っていたが……。
道楽の場合は使うのが影の剣だけだからか、屍体人形を動かす蛇の糸や、剛浚の触腕を構成する使い魔の蠅をつぶすだけで、消費エネルギーの補充が間に合うようだ。
「この最強の指揮官たるわしを相手に、消耗戦を強いるつもりかっ。いい度胸だ!」
とはいえ、剛浚も負けてはいない。
まだ無事な屍体人形や蠅兵士を遠方から呼び寄せ、あるいは潰された壊れた部品を捨てて無事な部品を再利用、ニコイチサンコイチで復活させて、影の剣と正面からつぶしあう。
何の小細工もないごり押しだが、それはそれで、ためらいの無さが凄まじい。
「剛浚、寝言をほざくのもいい加減になさい。貴方は戦士としてはともかく、指揮官としては落第もいいところです。それだけの力を得てやることが、力任せのの三文芝居だけとは笑うしかない」
道楽は流血で赤く染まったモーニングスーツを軽やかに翻し、影で作られた無数の刃を流星群のごとくに蝿兵士へ叩きつける。
道楽の破壊と剛浚の修復。天秤は一時釣り合ったものの、やはり剛浚は単独での戦い以外、向いていないのだろう。護衛の屍体人形は、やがて周囲から駆逐された。
まさに分水嶺。この時、剛浚が選んだ選択は、優秀な戦士としてのものか、それとも無能な将帥としてのものか?
「くそ、こうなったら、〝聖職者級人形〟を呼び寄せるまでだ」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)





