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第851話 七罪家に伝わる勇者の秘奥、解禁

851


「そらそら、武器を奪ったぞ。絶望しろ寒門かんもんのエセ執事、晴峰道楽はるみねどうらくうう」


 異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の指揮官、六辻剛浚ろくつじごうしゅんは、レジスタンスを率いる白髪の老執事、晴峰道楽はるみねどうらくの腕をえぐり、軍刀を叩き折ったことで勝ったとばかりに胸をそらした。


「ええ、ええ。口は下品極まりないですが、向いてもいない指導者のフリをするよりも、そうやって一人で戦っている方がお似合いですよ。エリート気取りの狼藉者ろうぜきもの、六辻剛浚!」


 道楽は風の如き軽やかな戦闘を見せるスピードファイターだが、さすがに手負の徒手空拳としゅくうけんでは戦いようがない。

 しかし、不思議なことだが、老いたる執事は追い詰められれば追い詰められるほどに、ニコニコと愉快そうに微笑んでいた。

 年を経て無様なテロリストに落ち果てたといえ、旧友の戦う姿を見て、元勇者パーティ〝SAINTS(セインツ)〟で一番の剛腕戦士だった頃の姿を重ねているのかも知れない。


「ふむ。こちらも消耗が激しくなるため、できれば温存したかったのですが――。我が元主人、七罪業夢ななつみぎょうむ様より授かった勇者パーティ〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟〟の秘奥、〝影の使役術(シャドーサーバント)〟をここに解禁します。」


 道楽は南中を過ぎた太陽が照らす足元の影から、一振りの黒い刀を抜き出した。


「〝傲慢ごうまんの剣〟よ、その名に相応ふさわしい敵をうちなさい」


 そして、機関砲のように目にも止まらなぬ速度で打ち込まれる蠅の触腕を、あたかも良く研いだ包丁で切るかのようになます切りにしたではないか?


「フェフェフェ、踊れ踊れ。わしはお前より強く、お前より偉い。刑罰はここからだ。……な、なんじゃこりゃああっ?」


 剛浚はオーケストラの指揮者きどりで、触腕をぶんぶんと振っていたものの、ちぎれ飛んだ触腕に驚いて目を丸くする。だが、危機回避能力は並ではないのか、空飛ぶ蠅の絨毯に乗ったまま後方宙返りして、鼻元ぎりぎりをかすめた影の剣を辛くも避けた。


「くっ、蝿兵士フライ・ソルジャーよ、トドメをさせ」

「「GAAAAA!?」」」


 剛浚は命の危機に瀕したことで動転。先程までの余裕はどこへやら、慌てて周囲の屍体人形を呼び集めて、道楽を押し潰そうとした。


「ちがう、剛浚。そうではないでしょう。迫るピンチは自らの手で切り開いてこそ、冒険者というもの!」


 だが、剛浚自身が戦うのでなければ、道楽は止められない。

 白髪の老執事は、自身を包囲する屍体人形を、彼の履く鬼神具〝迦楼羅かるら足袋たび〟で蹴り飛ばし、空中を川に見立てた飛び石の要領で跳ね回りながら、脅威の三次元移動で四面楚歌しめんそかの窮地から脱出し、剛浚の肩を掴んで、彼の乗った空飛ぶ絨毯ごと森の木々の中へ投げ飛ばした。


「うわっ、な、なにをする。いたいいたい、げはっ」

「強いからこそ油断して痛い目を見る。昔からお調子ものなところは変わりませんね。少しは慎重という概念を覚えてはいかが? できないなら、そんな頭は捨ててしまいなさい」


 道楽は悶え苦しむ剛浚の喉首をめがけて影の剣を投げつけ、蠅の絨毯を盾に使われて直撃こそ叶わなかったものの、かつてのライバルの頬と耳たぶをざくりと切り裂いた。


「六辻剛浚、調子に乗っているところを何ですが――。

 百歩譲って、〝過去の貴方が私よりも強かったこと〟は認めるとして、今ではその力も全部、鬼神具である〝輝く角を持つ冠シャイニング・ホーンドクラウン〟のおかげでしょう? 空っぽなのに傲慢が過ぎて痛々しい。

 我が敬愛すべきかつての主人がそらんじた旧約聖書に曰く、〝高ぶりは滅びに先立ち、誇りは倒れに先立つ〟そうです。まさにお前のことではないですか?」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
凛音「乂の頭にも慎重さとか計画性とかをインストールしてほしいわ」
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