第847話 反転攻勢
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「「な、なんだこの化け物はあああ」」
西暦二〇X二年一二月一五日午後。
元地球日本の勇者パーティ〝SAINTS〟の幹部にして、今やテロリストに落ち果てた老人、六辻剛浚は、鬼神具たる角冠をかぶって己が役名を高らかに宣言――。
老いたる裏切者は、キンキラキンのきらびやかな衣装に身を包むや、象と蠅を混ぜ合わせたような新しい屍体人形を創造し、レジスタンスを蹂躙した。
「なるほど、自らの継続戦闘能力に不安があるから、消耗を避けるために別の駒を用意したと。姑息というか、細かいことばかり頭が回るようになりましたね」
剛浚の古馴染みであり、敵対するレジスタンスの指揮官となった白髪の老紳士……〝鬼執事〟の役名を担う、晴峰道楽はそう言って嘆息するも――。
「フェフェフエ、虚勢もほどほどにするがいい。我が運命の鬼神具、〝輝く角を持つ冠〟で変身し、新たな屍体人形という従者を得た今の姿、すなわち〝鬼君主〟こそ、わしの真なる役名なのよ!」
キンキラに飾り立てた剛浚は、使い魔たる蠅を束ねた触腕を上機嫌で振り回して打ち据える。
「ふむ、バアル・ゼブル。のちの世では悪魔として貶められたといえ、古代オリエント世界で最も重要な神格由来の品なんて、まったく貴方のような小物には過ぎた鬼神具ですね」
道楽は、上等なスーツとベストが返り血で汚れぬようテキパキと動きながら、軽やかに蝿の触腕を受け流し、その首を貫こうと低姿勢から挑みかかった。
全長三メートルの巨大な体と長い鼻でレジスタンスを蹴散らす新型の屍体人形は脅威だが、操っているのはあくまで剛浚に過ぎない。迅速に使役者を倒せば無力化できるという目論見だった。
「だまれ、晴峰道楽。エセ執事に過ぎない貴様には、高貴なる存在の価値はわかるまい。この鬼神具、〝輝く角を持つ冠〟をもつことが、我の偉大さを証明するんだよ!」
しかしながら、金ピカのローブを身につけた剛浚は、姿と共に強さまでが底上げされた……あるいは若き日の戦闘感覚を取り戻したようだ。
切り裂かれた触腕を囮に道楽を招き寄せ、別の触腕を川辺の水中を通すように側面から奇襲して跳ね飛ばす。
「むっ。技のキレが増している」
道楽はどうにか受け身をとったものの。
「処刑台に立つのは貴様だああっ。〝踵落とし断頭刑〟」
更にはプロレス技のダイビング・ギロチンドロップの要領で、コーナーポストよろしく空飛ぶ絨毯から飛び降りつつ、足に纏わせた蠅の刃を叩きつけた。
「ふふふ、少しはらしくなったではないですかっ」
道楽は軍刀でいなそうとするも失敗し、砂利や枯れ枝を巻き込んで跳ね飛ばされながら口元を緩める。
長年の贅沢な暮らしで見る影もなくなっているものの、若き日の剛浚は、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太や、その相棒である、五馬乂に似た近接戦を得意とするパワーファイターだったらしい。
剛浚にとっては、付け焼き刃どころか分厚いサビだった〝指導者、政治家としてのメッキ〟がぼろぼろと剥がれおちたことで、彼が本来持っていた戦士としての強さ、往年の輝きがわずかなりとも戻ってきたのかも知れない。
「それでこそ、私の知る六辻剛浚だっ。なまりきった貴方はなく、強い貴方であればこそ、戦う意味があるというものです」
道楽も、今度ばかりは無傷とはいかなかった。
スーツやベストが汚れるのも頓着せずにゴロゴロと転がって直撃を避けるも、手足にまとわりつかせた蠅に喰われたのか、頬や二の腕がぱっくりと裂けて赤い鮮血が滲んでいる。
「フェフェフェ。わしが強いのは天地の理も同然だっ。道楽、お前との戦いだけではないぞ。新たな指揮個体を生み出したことで、屍体人形の軍団も我が手駒、〝蠅兵士〟として再生される。貴様が頼みとしていたレジスタンスどももここまでだ」
あとがき
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