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第842話 無能な大将が喜ばれる理由

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六辻剛浚ろくつじごうしゅん。ただひとり取り残された貴方は負けに負けて、地球と異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界に喧嘩を売るテロリスト団体、〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の一員にまで落ちぶれたじゃないですか? まったく、情けないったらありゃしない」


 レジスタンス部隊を率いる、〝鬼執事バトラー〟の役名を担う白髪の老紳士、晴峰道楽はるむねどうらくは、かつて青春時代を共に過ごした腐れ縁の敵指揮官、六辻剛浚ろくつじごうしゅんを鋭い剣技と舌鋒ぜっぽうで容赦なく追い詰めた。

 今では髪が白くなった二人だが、地球日本で冒険者組合が発足した頃からのベテラン冒険者だ。異界迷宮カクリヨで泥と血にまみれて探索した昔馴染みであるがゆえに、その指摘はよほどに痛かったのだろう。

 

「黙れっ。お前の主人、七罪業夢ななつみぎょうむも、冒険者組合を長きにわたり牛耳ぎゅうじっていた獅子央賈南ししおうかなんも言ったのだ。我こそ六辻家と勇者パーティ〝SAINTS(セインツ)〟を担うべき逸材だとっ。貴様のような凡夫に、津波がごとき我が連撃をさばけるか。〝多頭竜鞭打ち刑ドラゴン・フロッギング〟!」


 剛浚は、空飛ぶ蝿の絨毯にのったまま、燭台に似た光輝く角剣を振り回して、使い魔たる蠅を使役する。偵察のために散らしていたぶんぶんと唸る群れをかき集め、さながら多頭竜のごとき触手を無数に作り上げて、道楽に向けて一斉に放った。

 上からの叩きつけ、右からの袈裟斬り、左からの薙ぎ払い、下からの突き、と無数の触腕が連なる連続攻撃は、なるほど自信をもつに十分な破壊力を有していた。

 樹齢一〇〇年を超える森の木々が、もろい割り箸のようにバキバキと粉砕され、川の流れすらも陥没した大穴で変わってしまう。


「おやおや、剛浚。往年のパワーファイターらしい気概が、戻ってきたじゃないですか。……確かに我が主人である業夢様をはじめ、貴方の敵となった者達は、誰もが、戦士ではなく〝政治家としての〟貴方を評価し、過大に持ち上げていました。我が古き友よ、その理由がわかりますか?」


 しかしながら、道楽は背を低くした重心移動と、足に履いた鬼神具、〝迦楼羅かるら足袋たび〟を用いた、空飛ぶ鳥を連想させる軽やかなステップで触腕の直撃を避け、軍刀を振るって火花を散らしながらいなし続ける。


「フェフェフエ。言うまでもない。それは、我が地球で最も偉大な指導者だから、だ!」

「いいえ。ろくな実績もなく、それどころか……〝味方に疎まれる将帥が、敵にだけ評価される理由〟は、たった一つですよ。だって敵の総大将は、――無能な方がずうっとやりやすい!」


 白髪の老執事はあたかも分身するかのような体捌きで何本もの触腕を叩き切り、構成する蝿を斬り散らした後、白足袋を履いた草鞋で空中の剛浚に向かって飛び蹴りを見舞い、愚かな指導者気取りのすがるような強がりを文字通りに一蹴した。


「ごはっ」

「剛浚、力任せに暴れるだけだなんて、過去の貴方自身に笑われますよ。くだらない能書きを垂れる前に、まずは当てなさい」


 剛浚は絨毯にのったまま、まるで蹴られたボールのように森の大木に激突し、若き日に冒険者として活躍していた頃のように土や枯れ葉にまみれながらも、悪態をつくのを止められなかった。


「は、晴峰道楽はるみねどうらくめ。執事なんぞとぬかし、大将に成れなかった寒門かんもんの貴様とは違う。わしは八大勇者パーティのひとつ、六辻家に連なる偉大な将官だ。現に出雲桃太いずもとうたというイレギュラーがたまたま援軍に間に合わなければ、わしは貴様からガッピ砦を奪い取り、その首をさらしていたのだから!」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
>敵の総大将は、――無能な方がずうっとやりやすい! 時々、無能すぎて想定とはかけ離れた行動して計画潰すのとかもいますけどねぇ
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