第841話 エセ執事、稀代の嘘つきを追い詰める
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「ここでは、わしの鬼神具も本気を出せん。かくなる上は撤退だ。撤退! 人公将軍リョウグンに任せた戦力のあるキソの里まで逃げるぞ」
元は地球日本の勇者パーティ〝SAINTS〟の重鎮でありながら、異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の幹部へと鞍替えした恥多き冒険者、六辻剛浚は……、自軍が不利と見るや、使い魔の蝿を重ねた空飛ぶ絨毯に飛び乗り、これまでと同様に逃亡を試みた。
「ジョウキョめ、なにが征天将軍だ。屍体人形を操っていた式鬼のドクロ蛾が倒れて、三〇〇〇体あった屍体人形の半数が動かなくなった。目の前の状況も見えぬガキどもにいいようにやられおって!」
「逃がすと思っているのですか? 剛浚、何もわかっていないのは他ならぬ貴方だ。どうやら自分を偉大な戦略家だとでも思い込んでいるようだが、とんでもない。その大きな目はまるで節穴だ」
しかし、冒険者時代の同期であり、レジスタンスを率いる立場にある白髪の老執事、晴峰道楽が、腐れ縁である剛浚の逃亡を許すはずもない。
彼はスーツを風になびかせて疾走。足に履いた鬼神具、〝迦楼羅の足袋〟から〝鬼の力〟を引き出して森の木々を蹴り、ゴムまりのように撥ねながら三次元移動を繰り返して、退路に回り込んだ。
「フェフェフエ。わしの目が節穴だと、たまたま援軍が間に合って助かった貴様が、知ったような口をきくな!?」
剛浚は障害を打破すべく、蝿を束ねた触腕を斧のように横殴りに振るいつつ、天使を模した屍体人形の四肢を槍に変化させて突撃させる。
「ええ、幸運だったのは認めましょう。出雲桃太様とその一行が、打ち合わせもなく、囮の役をこなしてくれるかは、正直なところ賭けでした」
一方の道楽は、屍体人形を鬼神具たる白足袋でドカンと蹴り砕き、触腕を軍刀で斬り払いながら、穏やかに微笑んだ。
「けれど、我が元主人である七罪業夢様を倒した傑物だけあって、見事にこなしてくれました」
道楽は実のところ内心、桃太達に感謝していた。
彼ら四人がテロリストたちの主戦力を惹きつけてくれたおかげで、道楽達は、背後が隙だらけになった〝完全正義帝国〟に奇襲をしかけることができたのだ。
「それに引き換え、貴方はどうです? 私があっさりと挟撃にもちこめたこともそうですが……。冒険者組合を巡る政争ではろくに票も読めずに六辻家の株を落とし、日本政府を相手にクーデターを起こせば連戦連敗。まるでいいところなしじゃないですか?」
「いいがかりはよせっ。それは無能な上司や部下達が我の足をひっぱったからだ」
剛浚は、この期に及んで他者へ責任を転嫁する。
「違います。貴方が無能と呼ぶ上司の六辻詠や、部下の炉谷道子、六辻久蔵といった面々こそが、六辻家と〝SAINTS〟を支える要だった。それは、その後の活躍を見れば明らかでしょう」
しかし、道楽は、かつては強大だった政敵に情け容赦なく事実を突きつける。
「貴方が屋敷に閉じ込めて何もさせなかった六辻詠様は、出雲桃太様と共に勇者として成長し、我が主人、七罪業夢様を倒した」
剛浚は反論しようと口をパクパク動かすものの……。
「そして、貴方が冷遇した炉谷道子と六辻久蔵は、冒険者パーティは〝G・C・H・O〟を育て上げ、クーデター軍の本拠地であった〝三連蛇城〟を奪いとった」
……動かしようのない根拠を前に、何ひとつ反論することが叶わなかった。
「六辻剛浚。ただひとり取り残された貴方は負けに負けて、地球と異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界に喧嘩を売るテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の一員にまで落ちぶれたじゃないですか? まったく、情けないったらありゃしない」





