第837話 桃太の大根演技と、黒騎士と亜大の活躍
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「くっ、敵の数が多いな。ここは俺が食い止めるから、紗雨ちゃんはヒスイ河を使って横合いから殴ってくれ」
「桃太おにーさん、わかったサメエ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国〟が操る眼下の森を埋め尽くすほどの天使を模した屍体人形を引き付け――、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨に迂回して操り手を奇襲するよう頼み込んだ。
「ガガガ、バカめ。たったひとりで戦列から離れる馬鹿がいるか」
「サメエ、ど、ドクロ蛾も速くなってるサメエ!?」
「「BATATA! BATATA!!」」
紗雨は空飛ぶ銀色のサメに変身して川辺へ向かって尾っぽをふりふりしながら、すっ飛んでいったが、〝完全正義帝国〟の上級指揮官、征天将軍ジョウキョが緑色の鱗粉で強化した、子犬ほども蛾の群れによって横殴りを受けてしまう。
「ダンキンのジジイは、オウモから遠隔操作端末〝砂丘〟なんて新しいオモチャを貰ってイキがっていたが、わざわざそんなものに頼らなくとも、奴程度の小技は私にもできる。さあ、やってしまえ」
「びえええん、やられたサメエエ……」
紗雨は、いかにもなやられ台詞を叫びながら、背鰭と尾っぽをばたつかせながら、ぽちゃんと川面へ墜落した。
「ソンナ、紗雨チャン」
これには、桃太も衝撃のあまり、音程の外れた悲鳴をあげて顔をおとい、うずくまってしまう。
「さあ、次はお前だ。覚悟するんだな」
ジョウキョは内部で歯車がぎちぎちと音を立てる、ひとかかえほどもある円筒を力任せにぶん回しながら、桃太を追い詰めてゆく。
「ああ、なんてことだ。ヤラレテシマウ」
しかしながら、命の危機に瀕している割に――、桃太の反応はあまりにも棒読みであった。
桃太達が戦っている山中から少し離れた、破壊されたガッピ砦の残骸付近で戦っている彼の仲間、漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士と、キツネ顔の式鬼使い、離岸亜大は、思わず身振り手振りでツッコミを入れずにはいられなかった。
(……出雲も建速さんも、あのセリフはないだろう。まるでダイコン役者だよ)
(非日常の戦場だからギリギリ騙せてやすが、日常なら落第点でやんすね。折を見てお二人には演技のコツを指南しやしょうか)
されど、頭に血が上ったジョウキョが桃太の三文芝居に集中してくれたおかげで、三〇〇〇体の屍体人形を操る式鬼、人間サイズのドクロ蛾のコントロールが甘くなっていた。
式鬼にせよ屍体人形にせよ、判断能力のないロボットのような戦力に共通するリスクがこれだ。命令に従順であればこそ、指揮官の影響をもろにうける。
「トー、出雲がせっかく引きつけてくれたんだ。こちらも役目を果たすとしよう。また志津梅さんの真似をするのは少し申し訳ないが、無勝手流・銃技〝帝釈天〟」
「「BATATA!?」」
黒騎士が射出した梵字を刻んだ弾丸は、雷を拡散させて、青い毒鱗粉をばら撒く人間大のドクロ蛾の親玉を焼き尽くす。
「ちょいと前に出雲さんと編み出したタッグ技の我流・手裏剣〝羽嵐〟なんでやすがね。一人でも実現できないか、特訓しておいたんでやんすよ。本家本元、家元認定間違いなし! な〝式鬼使い〟の妙技をみるでやんす。尾黒狗、錐嘴鳥、やれ! 式鬼奥義〝羽雷竜巻〟」
「「BATATA!?」」
亜大の操る嘴の長い鳥がばら撒いた羽に、尾の黒い犬が雷を浴びせて、雷を帯びた竜巻を形勢し、黄色い鱗粉をばらまく巨大なドクロ蛾を粉々に粉砕した。
「家元って誰が認定――まあいい。屍体人形を操る赤青黄緑、四体のドクロ蛾の親玉のうち三体を倒した」
「そいつらが操っていた屍体人形も動けなくなる。これで形勢逆転だ。船団も呼び戻すでやんす!」
あとがき
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