第835話 晴峰道楽という男
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「我が主人を倒した……出雲桃太様。貴方と共闘するのは正直なところ複雑ですが、私もまた貴方達の奮戦と、かつての主人、七罪業夢様の名を汚さぬよう微力を尽くしましょう。我が役名、〝鬼執事〟の真価をご覧あれ」
西暦二〇X二年一二月一五日の、太陽が南天を過ぎた昼。
レジスタンスの指揮官である白髪の老執事、晴峰道楽は石が積み重なった河原の上で半身になり、白足袋と草鞋を履いた両足を縦に開いた。
重心を腰に落とし、あたかも中国拳法に伝わる震脚のように、前、後ろと踏み鳴らす。
「鬼神具、〝迦楼羅の足袋〟よ、我に縮地と守護の加護を与えよ。舞台登場 役名宣言――〝鬼執事〟」
上等そうなモーニングコートを羽織ったレジスタンスの指揮官は、己が役名を高らかに宣言。
異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体〝完全正義帝国〟が擁する屍体人形の群れに向かって一足飛びに跳躍した。
「ふん、迦楼羅とは――古代インド神話に伝わる神々の乗り物のことだったかな。お前のような下っ端には相応しい鬼神具だよ」
道楽を迎え撃つのは、相対する昆虫めいた目ばかりが目立つローブ姿の老人、六辻剛浚だ。
今でこそテロリストの指揮官に堕落したといえ、彼も元は地球日本の勇者パーティ〝SAINTS〟の重鎮であり、総大将として担ぐには性格が最悪だったものの、指揮能力自体は侮れない。
「さっきからウダウダとつまらん思い上がりを抜かしているが、勝敗を決めるのは数だ。圧倒的な数の屍体人形を前にしては、速いだけの技を使う老兵一人など恐るるに足りんわ!」
剛浚は使い魔の蝿で作った空飛ぶ絨毯で森の上空に避難すると、燭台めいた光輝く角剣をあたかも指揮棒のように振るい、屍体人形を一糸乱れることなく整然と操ってみせる。
「さっきはケアレスミスで突出させたから、ダメだったのだ。守りの〝兵士級人形〟で逃げ場をふさぎ、攻めの〝騎士級人形〟で仕留める! これぞ必殺の陣形よおっ」
「「GAAAAAAA!」」
剛浚は宣言通りに、天使を模した量産型人形〝兵士級人形〟で道楽を包囲し、戦車とキメラを混ぜ合わせたような外見の砲撃型人形〝騎士級人形〟で空から攻撃させた。
「ふふふ。歴史上、数に頼って大敗したバカ殿ほど、そういった絵に描いた餅のような青絵図をありがたがるものです。だいたい、貴方と私は同年代でしょうに!」
しかし、道楽は鬼神具、〝迦楼羅の足袋〟の力を引き出すことで、まるで分身でもしたかのように驚異的なスピードで切り込み……。
自らを包囲する〝兵士級人形〟を盾代わりにして〝騎士級人形〟二体が口から吐き出す炎や、たてがみから放電する雷を防御。
「「「GA! GAA!?」」」
最後は利用した〝兵士級人形〟の残骸を足場にして飛び上がり、〝騎士級人形〟二体の首を油断なく落とした。
「くそおくそお、なぜあたらん。ならば、ジョウキョのやつと連携して、いや奴は信用ならんコマだ……」
「剛浚。デスクにふんぞりかえり、尻で椅子を磨くようになって衰えましたか? 我々は冒険者ギルド草創期から、互いを信用できずとも、協力してモンスターを狩ってきたではないですか。そういう人間をコマにしか見えないところがダメなんですよ、まるでダメ」
道楽の発言は矛盾していたが、奇妙な利害関係と忠節で結ばれた七罪家と勇者パーティ〝K・A・N〟らしい価値観を如実にあらわしていた。
「貴方ときたら、昔は私も肝を冷やすほどに強かったのに、かくも無惨におちぶれるとは残念なことです。良い機会だから、ここで介錯しましょうか?」
「おのれおのれ、どうして貴様はいつもおおおっ」
剛浚は包囲しようと空飛ぶ屍体人形を寄せ集めるものの、道楽は息もつかせぬ剣撃で追撃して、あたかもフライパンの上に乗せた砂糖のごとく溶かしてゆく。
「晴峰さんが〝鬼執事〟の役名を宣言したことで更に速度があがった!?」
「カムロジイチャンが、大昔は侍女や執事も強かったって言っていて、てっきりホラだと思ったけれど本当だったサメエ」
あとがき
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