第834話 七罪業夢の思い出
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「六辻剛浚。そもそも冒険者の癖に、自分で戦わず他人から借りた戦力頼みだなんて、それでも一時は世に知られた傑物ですか? 功績を競ってきた身としては、ここまで無能化するとは哀れですね。私より年上の我が元主人、七罪業夢はつい先日まで最前線で暴れていたというのに」
レジスタンスの部隊を率いる白髪の老執事、晴峰道楽は、かつては共に冒険者として青春を過ごしながら、今やテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の走狗にまで落ちぶれた旧友を煽りに煽った。
「うるさいぞ、エセ執事。クマ国侵攻を目論んだはいいが、未熟なガキどもに負けた七罪業夢がなんだというのか。あのような無様な小物に仕えた貴様が言うことか!」
道楽にバカにされた剛浚は怒りのあまりに、昆虫のように大きな目を真っ赤に血走らせ、燭台めいた光かがやく剣をぶんぶんと振り回し、軍刀と火花を散らしながら吠えたける。
しかしながら、臆病な犬の如くカン高い声の主張は、意外な人物によって否定された。
「「いや、業夢さんは強かったし」」
七罪業夢の強さを肯定したのは、他の誰でもない彼を倒した二人……。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨だ。
「「BATATA!」」
二人は睡眠毒のある赤い鱗粉をばら撒く式鬼・ドクロ蛾、その親玉である人間大サイズの指揮個体と、その配下たる子犬サイズの軍団と交戦しつつ……。
大量の蝿によって上空に映し出された剛浚の言葉を耳にして、業夢の吸血鬼めいた顔を思い出していた。
「血を使ったインチキ補給あってこそといえ、俺と紗雨ちゃんだけじゃなくて、乂に、凛音さんに、詠さん、千隼さん、そして冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達、全員を相手にしても互角以上だったからなあ」
「生き血をすすり影の武器を操って、どうにか倒した後は八岐大蛇、第七の首、ドラゴンヴァンプに変身……。あの三連戦はもう二度とごめんサメエ」
とはいえ、二人も胸の内をすべて明かしたわけではない。
((業夢さんが外道だったのは事実だけど、そんなこと、執事さんの前で言っても仕方ないし(サメエ)))
実のところ七罪業夢も手段を選ばないという意味では、今敵対している六辻剛浚と同じだ。
それどころか、同胞である冒険者の死体を研究に利用し、遺族を騙して金を奪い、三縞家、四鳴家などの他勇者パーティを扇動するなど、あらゆる外道なやり口を駆使して自ら野望を叶えようとした。
身内には優しく、成果を分け合う懐の深さはあったものの――。はっきり言って、業夢は剛浚よりさらに性質が悪い。
だが、その内心を、今共闘している味方には言わない理性が二人にはあった。
「よし、これで赤の親玉は終わりだ。我流・鎧徹し!」
「サメエエ、解毒も万全なんだサメエ!」
「「BATA! BATATA!」」
桃太が紗雨の援護を受けて、赤い麻痺毒を撒き散らしていた人間大のドクロ蛾に接近、ありったけの衝撃波を両手で掴んで流し込み、ガッピ砦包囲網の一角を崩した。
「ふふふ。〝完全正義帝国〟の長老衆でも一、二を争う猛将、征天将軍ジョウキョの切り札たる式鬼をかくも早く討ち果たすとは、さすが! といったところでしょうか」
道楽は剛浚と切り結びながら遠方の光景を遠見の術で把握し、パチパチと手を叩いた。
「配慮してくださったのはわかっていますよ。我が元主人は悪党だった。
ですが、リスクを恐れるがゆえに無用な籠城策をとり、敗色濃厚と見るや仲間を見捨てて逃亡したそこの小悪党、剛浚とは異なり……。
業夢様は自ら戦場に立ち、地球日本と異世界クマ国、二つの世界を奪おうとした大悪党です。
そんな我が敬愛する最高の冒険者を倒した若者が、どういった人物か気にはなっていたのですが、予想以上でした」
「は、はあ」
「ふ、ふくざつなんだサメエ」
道楽は、反応に困る桃太や紗雨にウインクすると、まるで祭りを前にした子供のように朗らかに笑い、彼が保有する鬼神具である白足袋に力をこめた。
「我が主人を倒した……出雲桃太様。貴方と共闘するのは正直なところ複雑ですが、私もまた貴方達の奮戦と、かつての主人、七罪業夢様の名を汚さぬよう微力を尽くしましょう。我が役名、〝鬼執事〟の真価をご覧あれ」
あとがき
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