第833話 六辻家に伝わる勇者の秘奥
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「なにが、なにが破壊工作だっ。晴峰道楽。〝三連蛇城〟で起きていた不審なトラブルは、お前の仕業だったのか。その年になってまで、現場働きしかできん下っ端が、支配者たる我の足を引っ張るんじゃない。こうなったら六辻家に伝わる勇者の秘奥、〝空中浮遊〟の力を見せてやる」
元勇者パーティ〝SAINTS〟の重鎮でありながら、いまや異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の一員にまで転落した、昆虫のように目ばかりが大きい老人、六辻剛浚は、そのように吠えたけりながら、ブンブンとうるさい使い魔の蝿を集めて空飛ぶ絨毯を作り上げ、空中へ飛び上がった。
「おや。だいぶアレンジされているとはいえ、その技、まだ使えたのですね」
剛浚の古なじみであり、彼と敵対するレジスタンスの指揮官となった白髪の老執事、晴峰道楽は喉元に向けて軍刀を突き出すも、この予想外の行動によって空振りしてしまう。
「フェフェフェ。お飾りの代表にすぎない小娘、六辻詠など知ったことかっ。我こそが六辻の要であり、勇者パーティ〝SAINTS〟そのものなのだ。道楽よ、いかな貴様といえ、空にいる相手には容易に攻撃できまい? そして、〝空中浮遊〟の力は、他の者にも使えるのだ。〝騎士級人形〟よ、来い」
さらに剛浚は戦車とキメラを組み合わせたような屍体人形を蝿に載せて空中輸送し、口から炎の砲弾を吐き出し、蛇の尾から氷弾を撃ち放ったではないか?
「そらそらそらあ。地べたをはいずり、手も足もでないまま、くたばれ老いぼれ!」
〝騎士級人形〟が放つ炎の砲弾は、戦場となったヒスイ河周辺の岩場を蒸発させ、氷弾は川面をパキパキと音を立てて凍てつかせる。
「やれやれ思った以上に、貴方の勝負勘は鈍っているようだ。離岸さんやジョウキョのような、専門の訓練と実戦経験を積んだ〝式鬼使い〟ならいざ知らず……。実戦から離れて久しいロートルが〝役名〟すら明かさずに遠隔操作を強行しても、そうそう当たるはずがないでしょう?」
されど、道楽は砲弾と氷弾の弾道を見抜いて、スーツをかすめるギリギリまでひきつけた上で、その下部をあっさりと潜り抜けた。
「「うおおおっ。さすが道楽さん、見事な回避だぜ」」
レジスタンスメンバーは、さすがに強さの次元が違いすぎて割って入れないものの、周囲で屍体人形と交戦しつつ、道楽の驚嘆すべき体捌きに歓声をあげる。
「ふふふ。執事ですからね。何事もエレガントに進めなければ」
実のところ、余波で燃えたり凍ったりしそうなものだが、道楽はきっちり回避しきっている。そのベテランらしい余裕しゃくしゃくな態度が、剛浚の怒りに火をつけた。
「だまれ、道楽ううう。昔から便所コオロギのように走り回って、忌々《いまいま》しい」
剛浚が愚かだったのは、せっかく空という優位点を得ながら、少しでも命中精度を上げようと〝騎士級人形〟を下降させたことだろう。
「おやおや、わざわざ近づいてくれるだなんて、ご苦労さま。どんなに強い人形でも一体で突出すれば、狩るのはわけもありません」
「GA! GAAAAA!?」
道楽は戦車キメラの獅子めいた首を有無を言わさず一閃して落とし、白足袋と草鞋を履いた足で山羊の胴を蹴りつけ、蛇の尾もろとも爆発四散させる。
「六辻剛浚。そもそも冒険者の癖に、自分で戦わず他人から借りた戦力頼みだなんて、それでも一時は世に知られた傑物ですか? 功績を競ってきた身としては、ここまで無能化するとは哀れですね。私より年上の我が元主人、七罪業夢はつい先日まで最前線で暴れていたというのに」
あとがき
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