第826話 沈黙するガッピ砦
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「砦にいるレジスタンスは俺たちに気づいていないのかな……」
西暦二〇X二年一二月一五日正午前。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太とその仲間達は、異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の魔手からレジスタンスを救援すべく、征天将軍ジョウキョが指揮する包囲網の一角へ痛撃を与えた。
しかし、肝心要の救出対象がどうにも不穏なのだ。桃太達がこんなに騒いでいるのに、レジスタンスが籠っているはずのガッピ砦は驚くほどに静かだった。
「出雲さん。まずいでやんすね。籠城しているはずの連中は、これまでボコボコにされたのか、どうにも消極的だ」
キツネ顔の式鬼使い、離岸亜大は偵察に鳥型の式鬼を飛行させながら眉間にシワをよせ……。
「命がかかっているのに、やる気があんまり感じられないサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が水柱で追撃を防ぎ、火が回るのを避けるために消火しながら首を傾げ。
「以前オウモさんが作った失敗作、性能イマイチな自動迎撃装置並みに狙いがメチャメチャだぞ。もうまともな装備が残ってないんじゃないか?」
漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士が、銃で迎撃しながら天を仰ぐ。
彼らの推測を裏付けるように、籠城中の友軍は既に物資が尽きたのか、あるいは絶望的な光景に心を折られたのか、たまに包囲網に向かってわずかな矢を撃つだけだ。
「なるほど、これが離岸さんが言っていた水攻めの代償ってわけか」
桃太達が森の中から様子をうかがうと、砦の城壁は一部が崩れ落ち、残った部分も亀裂だらけだった。
使い魔の蝿や、式鬼のドクロ蛾の侵入を阻むためか、障壁めいた結界こそ張り巡らされているものの、砦の各所から黒煙が立ち上り、鼻を突き刺すような異臭が漂ってくる。
「ガガガガ、兵力と物資の違いを思い知れ」
おまけに先ほど爆撃部隊を焼き尽くしたにもかかわらず、敵指揮官の征天将軍ジョウキョはもう別の屍体人形を用意したのか、投げ槍装備の飛行部隊が新たに編成して送り込んできた。
天使を模した〝兵士級人形〟は、赤青黄の毒鱗粉の中を気にもせずに空を回旋しながら、槍を投げつけてくるではないか。
「退路がないんだから、前に進むしかないよね!」
「レッツゴー、なんだサメエエ!」
桃太達四人は、腹をくくって前進を再開。
森の影を利用して不意打ちし、行手を阻む屍体人形や、手柄に焦ったのか突出するサイボーグ兵士などを退けながら、じわじわと距離を詰めていった。
「「くそ、脅しのつもりか知らないが、ジョウキョ将軍がばらまいた鱗粉が邪魔で戦い辛い」」
「「さっきも不覚をとるし」」
「「やっぱりダンキン将軍のもとで戦う方が楽だよな」」
幸い、テロリスト達の大半は先ほどの火攻めを跳ね返したことで腰が引けてしまい……。
「私があの口だけ宝石男に劣ると言うのかっ。いずれリノーとゼンビンを引きずりおろし、天を掴むこの私が!」
「「「ひいいい、お許しください」」」
それに激怒したジョウキョが部下を粛清したことで、攻撃の勢いはますます緩んでいた。
「ダンキンさんに続き、あのジョウキョって指揮官まで下剋上ねらいなのか」
「リノーとゼンビンの器が知れるな」
「助かるけど、いっそ可哀想になるサメエ」
「よし、あと少しでやんす」
かくして桃太達は森の影に隠れつつ、屍体人形をこっそり始末ひながら、ガッピ砦の間際まで到着したのだが……、とうとう索敵にひっかかったらしく、ぶんぶんと蝿が寄せ集まった。
使い魔らしき蝿は目からまばゆい光を発して、まるで会議用の大型プロジェクターのように曇り空に影を投げかけ、燭台がごとき剣をもち、ゆったりとしたローブを着る人影を映し出した。
「フェフェフエ、ようやく再発見したぞ。出雲桃太とレジスタンスの諸君。我が名は六辻剛浚。いずれ地球日本と異世界クマ国の覇者となる男よ」
あとがき
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