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第823話 仕切り直し

823


 西暦二〇X二年一二月一五日午前。

 漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士は、異世界クマ国で百万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟に抗うレジスタンスの一員であるキツネ顔の式鬼使い、離岸亜大りがんあだいが錯乱状態に陥ったものの、「減給」の一言で失われていた理性を取り戻すことに成功した。


「「「わあ、急に落ち着いた(サメエ)!?」」」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやはあめは、あまりといえばあんまりな亜大の変貌ぶりに衝撃を受けたか、森の紅葉が舞い落ちる中、ひっしと抱き合い……。


「なんだ、もう正気に戻ったのか」


 黒騎士に至っては、亜大へあげた拳のおろしどころがないのか、反射的に義腕から取り出した銃の引き金に指をかける始末だ。


「よしよし紗雨ちゃん、落ち着こう。あれ、黒騎士、どこに銃を向けているの?」

「サメエエ、役得役得。……あ、あぶないんだサメ?」

「おっと間違った」


 ただし、黒騎士は焦るあまり方向を間違えたのか、それともさらっと背中から撃とうとしたのか、なぜか亜大ではなく、桃太と熱い抱擁をかわす紗雨の方へ冷たい銃口を突きつけていた。


「はいはい、茶番はここまで。黒騎士さんは、鉄砲をしまってください」


 黒騎士のミスが功を奏したか、あるいは減給への恐怖が役名かぶりの懸念に勝ったか、亜大は窮地にもかかわらず冷静に戦場を俯瞰ふかんしていた。


「皆さん、作戦を変更しやしょう」


 亜大はおよそ大物とはいえないし、その性根も極めて俗物的だ。

 されど窮地においてなお、立ち止まらずに頭を巡らせるのは、確かな美点と言えるだろう。


「前提として、ここまで乗ってきた船団に戻るのは論外でやんす。僕達が通ってきた道は、あの〝式鬼使い〟、……ミノムシのような鎧で着飾った征天将軍ジョウキョの使役する、ドクロ蛾がばら撒く毒の鱗粉で満たされている」

「俺と離岸さんのタッグ技なら、退路を切り開けるんじゃない?」


 桃太は自信があったのだが、亜大は首を横に振った。


「確かに出雲さんと力を合わせて、手裏剣〝羽嵐はねあらし〟のような広範囲技を使えば、鱗粉を吹き飛ばせることでしょう。ですが、あまりに目立ちすぎるでやんす。包囲軍を率いる六辻剛浚ろくつじごうしゅんがパトロールさせている使い魔の蝿に、確実に補足されちまう」

「ああ、敵の指揮官はジョウキョだけじゃないものね」


 地球日本の勇者パーティ〝SAINTS(セインツ)〟の元重鎮にもかかわらず、異世界クマ国でテロリストに堕落した老人もまた、ガッピ砦を取り巻く戦場のどこかに潜んでいるのだろう。


「なにより、ド派手な衝撃技は毒を拡散させる恐れがありやす。やりすぎてこっちまで毒が飛んできたらたまったものじゃない。建速さんは、鱗粉の効果ってわかるでやんす?」

「赤色が麻痺、青色が幻惑、黄色が眠りなんだサメエエ」


 亜大の問いに、クマ国民である紗雨が答えた。

 どれもこれも、不用意に吸い込んだり、触れるのは避けたいところだ。


「みなさん、申し訳ない。まんまと分断されてしまいやした。

 僕が使役する式鬼・錐嘴鳥すいしちょうは、野生種の頃から眠り毒に耐性があるので、黄色鱗粉の中を突っ切らせて伝令にします。

 僕達が乗ってきたレジスタンスの船は一度安全圏まで後退させて、ここにいる全員でガッピ砦にいる旦那、晴峰はるみね道楽どうらくの部隊と合流。なんとか切れ目を作って〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟を挟撃しやしょう」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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黒騎士「泥棒ザメが」
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