第822話 亜大の錯乱と顛末
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「征天将軍ジョウキョの役名は〝式鬼使い〟だって!? うっそだろ役名がかぶったあ。目立たなくなるーっ」
レジスタンスの指揮官であるキツネ顔の式鬼使い、離岸亜大は、テロリスト団体〝完全正義帝国〟の前線指揮官である征天将軍ジョウキョが自分と同じ〝式鬼使い〟と知り、ショックのあまり森の中でしゃがみ込み、頭をかかえてしまった。
(離岸さん、攻めは強いが守りは弱い。臨機応変さには欠けるのか)
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、亜大のヒステリックな言動を目にしたものの、それほど驚きはなかった。
彼自身が東京の楽陽区で交戦した際には、式鬼越しといえ、それはもう小物めいたセリフをああだこうだ喚いていたことを憶えていたからだ。
(実際に会った離岸さんはけっこう頼りになったし、普段は気遣いのできる大人だけど、いざ劣勢となれば……。
乂や凛音ちゃんのように死中に活を見出す精神力も、どんな劣勢であろうと冷静に立て直す柳さんや祖平さんほどの柔軟さも、なさそうだったものね)
桃太は改めて状況を分析し、これからの方策を検討する。
ジョウキョが〝完全正義帝国〟の大軍勢を掌握した以上、少数の利を生かす奇襲作戦は、ひとまず不可能と見ていいだろう。
「紗雨ちゃん、黒騎士。敵が持ち直した以上、このまま俺たちだけで戦闘を続けるのは不利だ。包囲網の内側にいるガッピ砦の戦力か、外で待機しているレジスタンスの船団。どちらかと合流しようと思う」
桃太が作戦変更を提案するも、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が首を横にふった。
「桃太おにーさん、今から包囲網の外へ戻るには……、あのミノムシみたいな変な鎧を着て、三つの歯車が入った大きな円筒を振り回している男、征天将軍ジョウキョが邪魔なんだサメエ。あいつが操っているドクロ蛾の鱗粉は、赤、青、黄、の色に合わせて、麻痺、幻惑、眠りの毒があるんだサメエ」
紗雨の言う通り、桃太達がやってきた道のりは、カラフルな三色の鱗粉によって、先も見通せないほどに埋め尽くされていた。
「かといって船団の方から私達の方に近づいてもらおうにも、毒鱗粉と矢雨の中を進むのは、容易ではない。川を包む木々が多少は盾になってくれだろうが、いざ交戦となれば沈められてしまうぞ」
黒騎士が言及したように、想定していた挟撃作戦を実行するには、状況があまりに悪すぎた。
「やってられねえ。もう船へ帰る。って帰れないじゃん。どうしろってんだ」
亜大も友軍から孤立した窮地に気づいたのか、地団駄を踏み始める始末だ。
「まあまあ離岸さん、落ち着いて」
「暴れても状況は好転しないサメエ」
桃太と紗雨は必死であやすものの、「どうして僕ばかり」「いつだってこうだ」と泣き喚くダメな大人と化していた。
なるほど結婚詐欺師という前歴で失敗し、冒険者になってなおも落ちぶれたのは、このヒステリックな性格ゆえだろうか。
「仕方ない。レジスタンス代表の一葉朱蘭さんに状況を報告し、減給するよう申請するか」
しかし、黒騎士が冷めた視線で独り言を発するや、途端に亜大はすっと真顔になった。
「……恥ずかしいところをお見せしやした。つきましては、減給されると困るのでなかったことにしてください」
「「「わあ、急に落ち着いた(サメエ)!?」」」
あとがき
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