第816話 厳重な包囲網
816
「晴峰道楽……。あの旦那のやり口を、見事な手腕と言っていいんですかねえ。あのエセ執事め、長雨の日に堤防を破って、砦中を水浸しにしやがったんですよ。防衛設備である堀も土塁もぶっ壊したから、ガッピ砦そのものはぶんどれたんですが、今度は守るのが困難になっちまったでやんす」
地球日本出身の式鬼使い、離岸亜大は、異世界クマ国の南天にかかる冬の太陽の下で、どこかキツネを連想させる賢しげな顔を歪めてそう告げた。
彼はクマ国の住民一〇〇万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国〟に抗うレジスタンスの同僚に、どうやら思うところがあるらしい。
これまでの戦いでも、亜大は嘴の長い鳥型の式鬼、〝錐嘴鳥〟を使った情報収集など、事前準備に重きをおいた堅実な戦いを心がけていたから、晴峰道楽の派手で強引な戦い方はしょうにあわないのだろう。
「なるほど七罪業夢さんの関係者だけあって……」
「やることが、すっごく過激なんだサメエエ」
一方、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、道楽が、元は日本政府に反旗を翻した元勇者パーティ〝K・A・N〟の一員だと知っていたため、苦笑いをするしかなかった。
「過激か。紗雨ちゃんの言うとおり、業夢さんは、日本政府にぶつけたクーデター軍をまるごと囮にしたり、ヨシノの里長に成り代わろうとしたりと、とかく派手だったものね」
「他にも桃太おにーさんと紗雨の変な合成写真をばらまくし、部下の人たちはナンパで大暴れするし、執事さんがやった水攻めは周囲の環境が悪化するから、クマ国にとってはいい迷惑なんだサメエエ」
辛くも倒したといえ、〝K・A・N〟は代表の七罪業夢といい、パーティメンバーといい、それはもう一癖も二癖もある冒険者が集まっていた。
「道楽の旦那に言わせると、レジスタンスは機動性が命。そもそも籠城戦になる方が悪い、と口だけは達者でやんしたが……。なんのことはない、キソの里からやってきた大軍に攻められて逃げ場がなくなり、本部に援軍を要請したそうです。で、この有様でさあ」
とうとう目的地が目視できる距離まで辿り着いた桃太達の眼前には、ヒスイ河に面した山砦を十重二十重に囲む、クマ国民の遺体を改造した陶器めいたパーツからなる兵器、〝屍体人形〟の群れがあった。
「離岸さん。〝完全正義帝国〟は、戦線を縮小して後退していたんじゃないのですか?」
桃太の問いかけに、亜大は船の甲板から山砦を見上げて肩をすくめた。
「六辻剛浚は、一度レジスタンスに奪われたといえ、半壊したガッピ砦を攻め落とすなら容易いと考えたんでしょうよ。あるいは、道楽の旦那によっぽど恨みがあるのかもしれやせん。支配下にあるキソの里周辺の戦力をまとめて突っ込んできたようです。見てのとおり、ちょっとやそっとの奇襲でどうこうできそうな相手じゃありません」
亜大が天を仰ぐのも無理はない、圧倒的な戦力差だ。
一騎当千の戦闘能力を持つクマ国代表カムロや、異界迷宮カクリヨを統べる八岐大蛇の首のような規格外ならばいざ知らず、小規模戦力ではどうしようもあるまい。
「〝完全正義帝国〟が集めた屍体人形は、一〇〇〇体や二〇〇〇体どころじゃないな。少なく見積もっても、三〇〇〇体か。こんなに多いと、打ち破るのに苦労しそうだなあ」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)





