第92話 精神支配スキル
ここに着任してから、一番の課題だった治安の改善に集中的に取り組み、おおむね達成した。町の治安が良くなれば徐々に経済も上向きになっていくはずだ。しかし同時に問題点も確認した。それは貧困だ。もっと具体的に言えばスラム街の人たちだ。この環境では、今日、明日、食うにも困る。何とかしないと……もし環境が変えられるなら……
「そうだ! 島で生活したら、いいんじゃないか。少なくとも衣食住は困らない」
よし、スラムの住民を対象に島へ移住説明会を開催しよう。掲示もするが、直接、スラム街にも配布するぞ。
説明会はスラムの住民が来やすいよう、その近くで開催したが、結構集まった。最初は半信半疑だったが、衣食住の心配がないことを再三、説明すると、希望する者が出てきた。
さすがに全員を転移させるのはアレだから、護衛をつけて、荷馬車でギースまで運んだ。その後は船で島に送り、島の代官インカムに入居の割り振りをさせた。最初は十人、次に五十人とどんどん増え、最終的にスラム街の大多数の住民が島へ移った。島は人口が増えて活性化するし、ベイスラはスラム問題が解決するし、一挙両得だ。
今回、衛兵隊を入れ替えたが、さらなる治安改善と失業対策として、求人を募った。これは貧困に落ちるのを防ぐ目的もある。資金は悪の巣窟から回収したお宝がタンマリあるから大丈夫だ。衛兵隊が機能しだすと、住民は安心して仕事ができるようになるので、結果的に税収は上がるだろう。治安のいい町となれば、質のいい人、仕事が集まってくる。しばらくこの調子で続けよう。
さて、今回、多数の悪党達を収納したが、どう扱おう? 男はギースの防衛隊施設送りにして、ブートキャンプだな。レッド、ブルーにはまた鬼軍曹に戻ってもらう。今回は【精神支配】スキルがあるので、「悪事をしない」「真面目に働く」を入れておく。女性は町の清掃や介護等をしてもらうか。
しかし、この【精神支配】(マインドコントロール)のスキルは本当に凄い。根っからの悪党だと、「悪事をしない」「真面目に働く」のたった二つをさせるのが至難の業だし、そのために体罰や拷問しても、却って憎しみと恨みの念を増加させるリスクもある。人を更生させるのは大変なことだろう。しかし、このスキルはその手間がまったくかからない。悪事をしないということは、嘘をつかない。騙さない。相手を傷つけない。裏切らない等、全部を包括するし、真面目に働くは世の中に貢献する活動を指す。「小人閑居して不善をなす」という言葉があるが、真面目に働いていれば、悪事をする考えも浮かんでこないだろう。
このスキルの必要性を強く感じたのは、以前、レッドとブルーで、囚人達に体罰を与えたことが切っ掛けだ。あの時は殴る方と殴られる方の立場を超えた連帯感みたいなものが影響してか。たまたま良い方向に向かったんだろうと、一歩間違えれば、どうなっていたことか……後から冷静になって冷や汗をかいた。
悪党も生まれつきの悪党はいないと信じたい。たぶん周りの生活環境で「悪事をしてもいい」「真面目に働かない」が染みついてしまったんだろう。僕の【精神支配】スキルはそれを逆方向にかけて、更生を促すもの。悪用しないよう強く自戒するが、悪党相手なら抵抗感が減るのも事実なんだよね。ここぞという時だけ使おう。
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