第90話 ベイスラ領着任
王城の謁見の間で、元帥の称号とベイスラ領の授与を受けた時、今回も多くの貴族が参加していたが、元帥と聞いた時は「おおお!」「素晴らしい!」の明るい反応だったのが、ベイスラ領と聞いた瞬間、「えぇぇ……」「うわぁ……」の後、ヒソヒソ話しだして、微妙な反応に変わってしまった。
この反応からも、ベイスラ領がどういう所か窺い知れる。よし、やってやろうじゃないか! 元帥になったので、ザイス筆頭大臣に案内してもらい、ハイネラ軍事大臣に会う。なんか微妙な表情だなぁ。いきなりできた格上の称号持ちにどう接したらいいのか分からないのかも。それでは……
「私は軍のことはよく分かりません。あくまで元帥は軍の象徴のようなものです。引き続き、これまで通りの職務をお願いします」
こう言うとハイネラ軍事大臣の表情が一気に和らぐ。
「元帥のご就任おめでとうございます。元帥閣下の下で職務に励みます」
と答えたので、その後、隊長、部隊長などとも挨拶していった。元帥の初仕事はこれで終わり。テネシアとイレーネが王城で伯爵の叙爵を受け、ザイス筆頭大臣から説明を受けた後、早速、ベイスラ領に向かった。今回は早期に決着をつけるため、すぐ領地赴任にさせてもらった。
ザイス筆頭大臣の話では、ベイスラ領は王都に隣接する小規模な領地で商業、住宅街が大部分を占めるとのこと。王都に近いため王都への勤務・出稼ぎも多いようだが、逆に王都へ良からぬ人物も入ってくるため、長年、病巣のような領地だったとのこと。とにかく治安だな。
王都からベイスラ領に入ると、町の雰囲気がガラッと変わる。全体的に淀んだような、濁ったようなそんな感じだ。よく見ると、陰から睨みつけてくる者が多い。なんか警戒してるし……何だ、ここ。とりあえず、いつものパターン。領主邸だ。やることは変わらない。
領主邸に入っても誰も挨拶に来ない。しかたない……
「新しい領主だ。全員集まれ!!」
やっと出てきたかと思ったら、眠そうで、髪ボサボサで、面倒くさそうな表情の男が出てきた。こいつはクビだな。領主の出迎えにヨレヨレの寝間着姿で出てくる奴は論外だろう。
「他の使用人達はどうした!」
「あえっ、知りませんよ! 来るなら事前に連絡ぐらい欲しいですよね。ったく!」
と逆切れしてきた。念のため
「……お前が執事か?」
と聞いたら、「そうですよ」と事もなげに答えたので、クビを宣告し、テネシアが庭に叩き出した。その後、館を全部見て回ったが、寝ているもの、遊んでいるもの、酒を飲んでいるもの、酷いあり様だった。これは容赦する必要はないな。全員を庭に集めて……
「【スリープ】【収納】!」
あとで利用方法は考えよう。屋敷を空にしてしまったので、すぐ王都の大公邸執事ビスタに連絡を取り、メイドと新たな執事を手配するよう依頼する。ビスタには念話イヤーカフスを渡していたが、役に立ったな。しかし、この惨状を見て、この後の展開も大方の予想がついた。
「テネシア、イレーネ、悪いけど、アグラの防衛隊員を五十人ほど、すぐ連れてきてくれ。【転移】を使ってかまわない」
呼ぶのに時間がかかるだろうが、ここは最初から代官がいないようだな。書類も何も整理されてない。酷過ぎるね、まったく。ギースのリミア代官に念話するか……
(アレスだ。今、大丈夫か)
(大公様、お疲れ様です。大丈夫です)
(今日から、王都の隣、ベイスラ領の領主になった。代官を誰かに臨時で頼みたいが、スタッフの中から選んでおいてくれ、後で、転移で迎えにいく)
(分かりました。ベイスラ領のことは聞いてましたので、予想はしてました。新しい代官候補を選びます)
(頼むよ)
彼女達が動いてる間が、勿体ないので、早速巡回だ。よし行くぞ!
「【隠蔽】!」
次に衛兵所だ。もう予想してるが……
衛兵所の中に入ると、アグラの時より酷かった。全員が酒浸り、賭け事、居眠り、女性の連れ込み……ここは本当に衛兵所かよ。上の階から掃除していくか……
「【スリープ】【収納】!」「【スリープ】【収納】!」
上からゴミ共をどんどん収納していき全部空にした。入口を閉めとくか。いったん戻ろう。
領主邸に戻ると、テネシアとイレーネがアグラから防衛隊員を連れてきていたので
「衛兵隊員の制服・装備一式、ただし、下着は除いて【取出し】!」
目の前に衛兵隊の制服・装備一式が出てきたので、防衛隊員に着替えさせ、衛兵所に連れていく。
「今日から君たちは、ここベイスラ領の衛兵隊員だ。ただちに町を巡回して悪事を働く者がいたら、牢屋に入れてくれ」
新しく来た隊員は最初こそ、戸惑っていたが、すぐに動きだした。以前、アグラの衛兵隊員もギース防衛隊員で入れ替えた経験があるので、いろいろ聞いていたのだろう。
ギースからベイスラへ新隊員を転移、服を着替え、衛兵所へ、その後、すぐ巡回という作業が流れるように進んでいく。次は門番だな。ここは二箇所あるから、四人連れていき、それぞれ二人ずつ交代させる。前の門番は「【スリープ】【収納】」する。
さて、今度は町の掃除だね。今回は時間短縮でサクサクやりたいため、僕、テネシア、イレーネの三人とも【隠蔽】【飛行】スキルで、巡回していく。暴力、違法行為を見つけたら、即スキル発動だ。表通りは露骨におかしい奴はいないな。
なら裏通りだ。ほ~らいた。路地裏で金品をゆすってるのがいた。
「【スリープ】【収納】!」
しばらくいるとナイフを突き付けてるのがいた。
「【スリープ】【収納】!」
ははは、問答無用は楽だね。
悪党どもを片っ端から収納していく。テネシアとイレーネは悪党捜索役で小まめに回ってくれた。そして逃げそうな奴は実力行使で倒していく。本当に素早い動きだ。
「ここは酷い町だな……とにかく悪党は一掃しよう」
裏通りからスラムへ行く。スラム街は貧しいけど、決して全員が悪に手を染めているわけじゃないな。今回は目に見えて、暴力、恐喝等をふるった人間に絞ったが、それでも結構な人数になった。
さて、一段落して領主邸に戻り、一人ずつ【取出し】て、【スリープ】を解除して、尋問していった。もちろん【精神支配】(マインドコントロール)スキルを使ってだ。こういう輩には遠慮しない。
「お前は過去に犯罪をしたことがあるか? これからする予定か?」
「共犯者、犯罪の協力者はいるか? それは誰だ? どこにいる?」
「本拠地はどこだ?」
「グループのリーダーは誰で、どこにいる?」
こういうことを根掘り葉掘り、聞いたら、出るわ、出るわ、これで町の違法組織の黒幕、本拠地を把握できた。普段封印してるが【精神支配】スキルはチート過ぎるわ。
あとは三人で分担して、敵の戦力を無力化して、回収するだけ。テネシア、イレーネはアジトを一人で壊滅させてから、僕を回収に呼んでくれた。人間相手に【隠蔽】スキルが使える二人が行ったら、一方的に蹂躙されるだけだよね。今回は全部、生け捕りし、その度に【精神支配】で、芋づる式に仲間の居場所を吐かせた。
全員に尋問したのは骨が折れたが、情報の精度が圧倒的に高くなり、ピンポイントで悪の巣窟を潰せたのは大きい。ちなみに今回もお宝が結構見つかったので、領内改善に役立てる予定だ。
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