第66話 アグラ領着任
アグラの町、領主邸に到着した。
「豪華な建物だな」
「贅沢してた感じだ」
「お金かけてますね」
僕、テネシア、イレーネの感想はこんな感じ。前の領主は中心街に閉じこもり、中で贅沢な暮らしをしてたらしい。それで郊外は放置だったと……
「ギースの領主邸より立派だけど……」
パルラの表情が曇る。書類を見るとろくに整理されておらず、内政が杜撰だったのが窺い知れる。パルラはギースの代官補佐だったが、臨時でここに来てもらっていた。ギースの方は避難民が落ち着いていたので、こちらに来てもらったのだ。パルラはリミアの古い友人で、リミアが旅に出る前に別れていたが、呼び寄せたのだと言う。僕も面談したが、事務仕事が抜群でまったく問題なかった。鑑定スキル持ちのリミアが推薦するなら間違いないだろう。
「ここは領主邸と代官邸とあるようだな」
パルラに領主邸と代官邸、それぞれの執務室の書類を整理するよう頼み、町に出た。
「町も立派だな」
「商店街もあるし、そこそこ開けてる」
「あっ、冒険者ギルドがありますよ」
ここは森から魔物が頻繁に発生してるので、冒険者ギルドもあるようだな。ちょっと覗くか。中に入ると冒険者が一杯いた。ギースと全然違う。折角だ。ギルド長に挨拶するか。
「今日からこちらの領地に赴任する領主です。ギルド長と会えますか?」
すると受付嬢がキョトンとした表情。一瞬、間をおいて。
「あ、少々お待ち下さい」
すぐ様、上に上がっていった。さあ絡んでくる奴は……いなかった。
「領主様、わざわざお越し頂きまして、恐れ入ります」
ギルド長は至って普通の感じの男性だな。こういう場面でよく筋骨隆々とか、荒っぽい人が出てきたりするけど、第一印象は悪くない。
「着任の挨拶に来ました。ここの領地は魔物の発生が多いと伺ってます」
「はい、北の森から魔物がたびたび発生して、近隣の村を襲うのです」
「討伐はうまくいってるのですか?」
「……その都度、冒険者に依頼してるのですが、繰り返し何度でも発生するのです」
「数が多いと?」
「そうです。魔物討伐の費用がかさみ、前の領主様にも協力をお願いしたのですが、なしのつぶてでした」
「予算不足だと?」
「はい、それで最近は魔物が発生しても、冒険者に高額の依頼が出せなくなっていました」
左右に同席していたテネシア、イレーネも渋い表情で聞いてる。
「どんな魔物が出るのですか?」
「ゴブリン、オーク、オーガ、マッドベアが多いですね」
大した魔物じゃないなあ。もっと強いのがいるのかな?
「今までで、最強の魔物って何ですか?」
「確認は取れていませんが、森のずっと奥に何かいるようです」
何だろうな……
「今回は私の方で対処します。私も冒険者ですが、魔物の討伐報酬は結構です。結果報告しますので、実績だけ記録して下さい」
「それは助かります」
「それと郊外に盗賊が発生してるようですが」
「郊外の治安が悪く、移動する旅人、商人が襲われています」
「被害が出てるエリアは御存知でしょうか?」
ギルド長が地図に印をつける。
「郊外のこのあたりが多いようです」
「(領境付近か……)分かりました」
ギルド長は至ってまともな人だったな。さて次は衛兵所だ。通りを少し歩くと衛兵が門番してる建物があった。あそこだな。んっ何か門番が大あくびしてるな。服もよれよれだ。
「ここの衛兵隊長に会いたいんですが……」
「んっ! 誰だ、お前!」
着任したばかりで領主の顔を知らないだろうけど、態度悪いな。それなら。
「そんな態度でいいんですか?」
「ああっ、お前、捕まえるぞ!」
「……本当にそんな態度でいいんですか?」
冷静に尋ねると逆切れしてくる。その内、中からもわらわら衛兵が出てきた。
「こいつらが絡んできた! 捕まえろ!」
左右にいたテネシア、イレーネに目で合図する。
「少し運動するか」
僕がニヤニヤすると、ついに前の男が胸倉をつかんできた。しかたない。
「本当にそんな態度で、い・い・ん・で・す・か?」
僕が言い終わる瞬間、テネシアとイレーネが正面にいた衛兵にありえない角度から一撃を加えた。開始数秒で、十人ほどいた衛兵はすべて地に伏せていた。
僕が入口に入ると、次々と衛兵達が近づいてきたが、問答無用で二人に倒されていく。異状な事態に気づいた衛兵隊長が上から降りてきて
「この事態はなんだ! お前たちはいったい!」
「あなたがここの衛兵隊長ですか」
「ああっ、そうだ。お前ら全員、牢にぶち込むぞ!」
「やっと会えましたね。私は本日着任したギルフォード公爵です。随分手荒いおもてなしですね」
「えっ! 領主! 公爵! そんな!」
「入口で門番の衛兵に衛兵隊長あてに訪問した旨、伝えると話も聞かずに、暴力をふるってきました。それでしかたないので、応戦したのですが……ずいぶんと教育が行き届いてますね」
「……」
衛兵隊長の顔が青ざめてきたな。しかし、冷静に中の様子を見渡すと、衛兵の髪がボサボサだったり、酒ビンがあったり、赤ら顔の衛兵がいたり、賭け事してたり……これはあかん。
「衛兵隊長、領主として、命じる。今すぐ全員を不敬罪として牢に入れろ!」
衛兵隊長が立ちつくしていたので、かまわず、次々に衛兵に【スリープ】をかけていく。
「テネシア、イレーネ、こいつらを牢に入れろ」
衛兵隊長に牢を開けさせたが、まだ茫然自失としている。その間にも、テネシアとイレーネが倒れた衛兵の首根っこをつかみ牢に入れていった。二人とも女性だが、竜人とエルフの体力は並外れている。しばらくしたら衛兵全員が牢に入っていた。口裏合わせを防ぐため衛兵隊長は領主邸の牢屋に収監した。
「そう言えば、姫様に念話イヤーカフスを渡していたっけ。ちょっと話すか」
(姫様、今よろしいですか?)
(あら、アレス様、どうしましたか?)
(今日からアグラ領に着任したんですが、衛兵所に行ったところ、昼から酒や賭け事をして、酷い状況でした。これではまともな領地運営はできませんので、よろしければ私の方で人員を一新したいと思います。お手数ですが、筆頭大臣にご報告願えませんでしょうか)
(さすが、アレス様ですね。大臣には私の方から言っておきます。頑張って下さい)
婚約前に姫様にスキルを打ち明けていたので、王城に行った際、念話イヤーカフスを渡しておいた。これなら遠距離でも連絡が取れるし、王都の意向も確認できるから助かる。いきなり状況確認で王城に呼び出されるのは大変だから先手を打ったのもある。
実はこういうこともあろうかとギースから防衛隊のメンバー五十人を連れてきていた。衛兵所の近くで待機してもらっていたが、呼び寄せて。
「こいつらの服を脱がして、本日から、この町の衛兵になってくれ。武器も装備も全て回収しろ」
後には下着姿で眠る元衛兵の姿があった。着替え終わった元防衛隊員は早速、巡回しだした。よし、中心街の治安は彼らに任せよう。
それでは中心街から出ようか。この中心街は周りを防壁に囲まれていて、出入口が一か所ある。新衛兵(元ギース領防衛隊員)を二人連れて、そこに近づくと、門番がだるそうに談笑していた。しかたないので、後ろから近づき声をかけた。
「外に出たいのですが」
「ああっ! 外出目的は!」
「……領地内の視察です」
「ふざけたこと言うと、しょっぴくぞ」
「へへ、少しばかり駄賃を頂きたいよな」
今度は二人でニヤニヤ笑いながら、絡んできた、面倒だな。
「【収納】」「人間と下着以外【取出し】」
二人の門番が消え、制服と装備だけ出てきた。新衛兵(元防衛隊員)に。
「ここの門番を頼む。制服と装備も預かっておいてくれ、巡回が来るだろうから、適当に交代するのと、前の衛兵を見つけたら、制服と装備を回収して牢に入れるよう伝達も頼む」
さて、町の外に行くぞ。今回は効率よく広い領地を視察するため、いくつか事前に、スキルアイテムを【創造】した。今回は【飛行】アイテムと【隠蔽】アイテムを使用する。僕自身はアイテム不要だが、基本的にアイテムは本人だけしか使えないよう制限をかけてる。
「うわあ、主、これは凄いな!」
「気持ちいいです!」
「僕も空を飛ぶのはこれで二度目だよ。初回は人に見られないよう、夜飛んだけど、隠蔽を併用すれば、昼間でも騒ぎにならないからいいな」
領地の全体を見たいため、高度を上げていく。広大な平野が広がっており、あちこちに集落が点在している。
「おっ、畑だ。広いな。小麦畑かな」
「広いなぁ」
「人がいますね」
中心街から近いエリアは家が多かったが、郊外にいくにつれ、寂れていった。
「郊外にいくほど寂れていくなあ」
「人がいなくなったぞ」
「土地が余ってますね」
いくら郊外とは言え、広い土地がそのまま手付かずって勿体ないよな、でも……
「これは、元々、農地だったんじゃない?」
「そう言えば」
「中途半端に小麦が生えてますね」
さて、だいぶ西に飛んできたな。
「んっ! なんだ、あれは」
西側境界付近の道に近づいたところ、不審な集団を発見した。
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