第1820話 温泉旅行
寒い時期にはこれです。
関連回
第44話 島の温泉開発
第77話 公王巡回
第191話 家族温泉
第1406話 夫婦会3
体が芯からあったまる。
ゆらゆら白い湯気が漂い、風情があって温泉は実にいいものだ。
ああ、極楽、極楽ぅ~♪
「ふぅ、やはり温泉は最高だな」
そんな言葉が自然と口について出る。寒い時期だし、温泉もいいなと思い、晩餐で妃たちに提案したら全員賛成だったので、ふらっと家族みんなで温泉旅行と洒落込んだ。いつもはだいたい国内のパンタ温泉に行っているが、今回はちょっと羽を伸ばして、ギルフォード王国のギルフォード温泉に来た。
今でこそ、ギルフォードと言えば、誰もが知る大きな名前となっているが、何十年も昔、僕が島に来た頃はそうでもなかったので、島の名前にギルフォード島、港の名前にギルフォード港といった具合で仮称のような感覚で呼んでいたら、そのまま正式名称となってしまった。
それを言ったら、僕の名前もそうか……。
この世界に来て、何となく、アレス・ギルフォードと付けたら、
そのままそうなってしまった。
昔の僕はあまり物事を深く考えなかったからな。はは。
アレスはギリシャ神話に登場するオリュンポス十二神のひとりであり、戦いの神様ということで、今から考えると、平和を好む僕に合ってなさそうな名前だが、この世界の悪いものと戦ってきたのだから、そういう意味では合っていたのかもしれない。
ただ、ギリシャ神話のアレスは、交戦的、粗野で残忍、不誠実であり、後から知って、「いやいや、これはないだろ」と思ったことがある。だが、「そういう面が自分にまったくないのか?」と問うた時に、否定することができず、自分を戒める意味でアレスの名前のまま今日まで来ている。
軍神アレスのような力を持っても、軍神アレスのようにはならない。
それが僕のアレスという名前に対する思いだ。
自分はアレスであってアレスではない、という感覚はここから来ている。
人は誰しも自分の中に制御すべき力、克服すべき悪があるが、
それが僕にとってアレスなのからもしれない。
そんなわけで、アレスは「僕であって僕でない感」があり、だからこそ、ギルフォードの方が親しみやすく、人に名乗る際もギルフォードを使うことが多い。これも後から知ったことだが、ギルフォードは英国系の名前であり、前々々世の英国人の記憶が影響したものだ。当時、イギリスのギルバート商会で働いていたから、そこからだね。
おっ、テネシアとイレーネが海の方を眺めいる。
二人の話し声が聞こえてきた。
「向こうに船が見えるぞ」
「本当ですね。あれは観光船ですよ」
ここは小高い場所に位置する見晴らしのいい露天風呂。湯に浸かりながら海が一望できる。少し離れたところにいる女衆から、二人の声が聞こえてきたが、どこにいても相変わらず元気だな。
「わたしらみたいに観光で来るのか」
「ふふ、わたしたちは転移で来ましたけどね」
そうそう、今回も転移でさっと来た。
貴族時代、大陸と島の二重統治をしたのはいい思い出だが、
あれができたのは転移のお陰。今でもこのスキルはよく使う。
それにしても、いい湯だ。ずっと入っていたい。
ここは王族専用の貸し切り風呂で、いつものように家族みんなで入っているが、色欲制御のため、きちんと水着を着ている。親しき中にも礼儀あり、家族でも節度を保つべきというのが僕の考えだ。日本のスクール水着(紺色)のデザインを一貫して続けているが、これはここでは神デザインだ。日本ならダサいと思われるんだろうが、このダサさが色欲を減退させる。
その昔、日本では体育の時間、女子は提灯ブルマーを履いていた。現代日本人の感覚に従うなら、ダサダサだろうが、それにより色欲を減退させたので道徳的には優れていた。提灯型になったのは、膨らみを持たせ、密着感を無くすため。これにより体形が強調されず、邪な視線を防ぐことができた。
ちなみに日本の女子体操着の歴史だが、1900年代前半頃。袴姿で体育を受けるのが不向きとされ、膝下まで大きく膨らんだニッカーボッカー風ブルマーが採用されたのが始まり。なんと昔は膝下まであったのだ。その後、長さは次第に短くなり、緩やかにお尻を包み込む提灯ブルマーが60年代半ば頃までの定番だった。それが、64年の東京オリンピックを契機に密着型ブルマーに変わったのだ。
外国人選手たちが密着型の服を着ていたので、その影響を受けたのだろうが、女子が希望したから、というとそんなことはなく、むしろ導入当時から女子の間で羞恥と不満の対象だったんだよな。思春期の少女にとっては、足の付け根まで露出し、「体形が丸見え」「下着同然」「パンツがはみ出る」 といった密着型ブルマーは非常に不評であった。
だから、このブルマー改革(?)は生徒本人やその親の声を聞いて、なされたものではない。おそらく、大和撫子を貶め、辱めたい、という邪な心を持った勢力による陰謀であろう。〇〇〇か? あの組織は日本が嫌いだからな。
90年代に入ると、それまでは一部のマニアのものであったブルセラ趣味が商業的に展開され、女子生徒から着用済みのブルマーやセーラー服などを買取り販売するブルセラショップが誕生した。ブルマーが性的好奇心の対象として一般に認知されるようになると、運動会などの学校行事でブルマー姿の女子生徒を盗撮したり、校舎に侵入してブルマーを窃盗し逮捕されるなど不審者による事件が相次ぎ、社会問題として取り上げられるようになったんだよな。日本を辱め、貶めたい連中は、さぞ大喜びしたことであろう。認知の歪みどころじゃないね。認知が狂っている。
こうなることは普通に考えれば分かる話。色欲を助長させる服装をさせてきたんだから、その悪因が悪果となって表れた。その後、密着型ブルマーは密着型でないクオーターパンツやハーフパンツに変更され、今に至る。これは名称こそお洒落だが、提灯ブルマーと似ており、先人の知恵を参考にしたもの。この動きを歓迎する。
だいたい、人前で肌を露出させたり、体形が露わになる密着型の服を着る意味が解らない。前世の一部の自然回帰主義の人は裸の状態を人としてもっとも自然な状態と捉え、裸で過ごすことを主張したりするが、僕はそれに与しない。僕も基本的に自然をいいものとして捉えているが、そのまま、ありのままの自然というのは、人にとってそぐわない部分があり、その部分は人に合わせるべきと考える。登山だって道の部分は人が歩けるように整備しないとできたものではない。
人は動物と違って毛がないのだから、その代替となる服を着た状態の方が標準であり自然だ。むしろ裸の方が不自然。西洋美術などでは裸の絵や像があったりするが、あれもどうかと思う。個人が家で大人しく創作や鑑賞する分には何も言わないが、それを公衆の面前で展示するのがね。皆の色欲を刺激するだろうに。仮に創作者がそう思っていなくても、観る側がそうだとは限らない。
ただ、皆に水着を強制するものではないので、一般入浴施設では、男女混浴の水着エリアと男女別浴の裸エリアを選べるようにしている。前の世界なら「それ以外の人は?」という声があるかもしれないが、生物学的に男か女かしかいないので、男女別浴では、男湯、女湯しかない。それが嫌なら水着を着て、男女混浴に入ればいい。
「体は男だけど、心は女だから女湯に入りたい」なんて人はこの世界にいないが、仮にいたとしても、その要望を聞くことはしない。体が男なら黙って男湯に入ってもらう。ちょっと考えれば分かるが、その要望を聞いたら、女湯がパニックになってしまう。ごく少数の意見(我がまま)を優先して、大多数に我慢を強いることがあってはならない。
そもそも「体が男だけど、心は女」ということは確認しようがない。それに人の本性である魂に性別はなく、魂の下位的存在である心も潜在的なところで性別はない。性別は肉体の影響によってできるものだが、なぜ性別のない魂が性別のある肉体に入るのかと言えば、肉体を通して性別を学ぶだめだ。
男性に生またのは男性としての生き方を学ぶため
女性に生まれたのは女性としての生き方を学ぶため
裕福な家に生まれたのは裕福な生き方を学ぶため
貧しい家に生まれたのは貧しい生き方を学ぶため
健康に生まれたのは健康な生き方を学ぶため
障害を持って生まれたのは障害を持った生き方を学ぶため
これらは生まれる前に魂が決めたこと。
だから、男性に生まれたのに男性として生きたくない、
というのは魂が決めた人生設計に反することになる。
男性に生まれたくなかった。それでも男性として生きるのが、魂が決めた生き方だ。だが、悪いことばかりではない。生きてるだけで辛いということは、それだけでカルマの解消になり、精神性を鍛えることができる。前向きの捉えるべきだ。魂もそれを望んでいる。
「父上、よくお越し下さいました」
「こちらこそ、受け入れてくれて、ありがとう。アレク」
すぐ隣で一緒に湯につかるアレクと言葉を交わす。僕の近くに男衆が集まっており、面子は僕、アレクの他、孫のレクサーとラルフだ。女衆はメリッサ、テネシア、イレーネ、ミアの他、サラ、ミローネがいる。サラはここの王女であり、お迎えする側だから分かるが、ちゃっかりミローネがいるのが笑える。僕の妃4人相手じゃ役不足と感じ、ミローネを応援に呼んだな。ふふ。
「父上のお陰で施設も立派になりまして……」
アレクが施設を見渡しながら言う。
「まぁ、好きでやらせてもらっているからね」
このギルフォード温泉は僕が生産系スキルでゼロから開発したものだが、この世界に来て最初に開発した温泉だから思い入れが強い。今でもたまにスキルでメンテナンスをさせてもらっている。ここは湯量が豊富で、100%源泉かけ流し、そのお湯を求めて国内は言うに及ばず他国からの観光が多く、特にロナンダル王国からは群を抜いている。ギース港とギルフォード港の間で日に何本も観光船が行き来しており、料金も安めに抑えているので敷居が低いからね。
孫にも声をかけよう。
「レクサーとラルフも温泉は好きかい?」
「「はい、おじい様」」
二人が小さく笑みを浮かべながら即答する。
「そうか、それは良かった」
それでこそ温泉を作った甲斐がある。温泉のメリットは広いので、家族と一緒に入れるところ。城のお風呂も広いので、入ろうと思えば一緒に入れないことはないが、家風呂で水着は違和感があるものでね。気兼ねなく家族で一緒に入れるのが温泉のいいところ。
それに、そもそも家風呂で夫婦一緒に入らない。だいたい一人で入っている。その方がリラックスできるし、ハーレムっぽい感じを避けられるからね。僕は四人の妃を平等に愛しているが、それは、各妃を四分の一ずつということではない。物理的には僕一人なので難しい部分はあるが、精神的には一人に一人として接するよう努めている。それが誠実というものだろう。
「政の方はどうだい?」
耳に入る情報から、うまくいってると推察するが、
一応、これをアレクに訊く。まぁ挨拶みたいなものだ。
「はい、特に問題なく、うまくいっております」
「ほぅ、それは良かった」
ギルフォード王国はロナンダル王国と比べれば、人口が少なく、商業と工業が発達しておらず、農業と観光業が主力となっているが、のんびりしていいところだ。人口の半分が亜人種で、彼らの多くが自給自足と物々交換の生活をしてるのが大きな特徴だ。
「亜人種への教育はどうだい?」
「はい、人間と同じようにできています」
亜人種への教育が昔から大きな課題だったが、うまくいっているようだな。
「それは何よりだ」
寒い時期の温泉は身に染みていい。
湯に浸かりながら日本酒できゅっとやるイメージが思い浮かぶが、僕は絶対にしない。ノンアルコールを志向してるのもあるが、意識障害と平衡感覚の喪失、血圧の急激な変化、心臓への負担、体温調節機能の低下など、大変危険だからな。もちろんここでも禁止となっている。
それにしても、つくづく温泉はいいものだ。
人生には、嫌なこと、辛いこと、きついこと、苦しいことがあり、それが溜まると精神的に消耗するが、そんな時にもっともいいのが温泉に入ることだろう。体を綺麗にするだけでなく、悪想念から離れ、善想念を増やし、心も綺麗にしてくれる。「極楽、極楽」というが、実際、周波数が上がっているんだよな。その感覚を思い出し、いつでもできるようにしたいものだ。
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