第130話 魔人レルス
「いやあ! 助けて、殺さないで!」
「やれ!」
「きゃああああ!! うっ……」
「……またか」
今日もウラバダ王国の中央広場で公開処刑が実施されている。多くの市民はこの光景に慣れ過ぎてしまった。独善的な王による恐怖政治は苛烈の一途を辿り、密告や濡れ衣だけの処刑も日常茶飯事。誰もが固く口を閉ざし、俯きがちでビクビクしながら生活している。
街には浮浪者があふれ、中には動かなくなって、ハエがたかっているのもいる。道端で行き倒れになっても助けようとする人もいなくなっていた。外国への密航を試みる者が後を絶たないが、捕まると死罪。既に周辺国からは国境封鎖状態となっており、逃避もままならない。
市民の多くは生きる希望もなくなり、自ら命を絶つものも増えている。この国はどうしてこうなってしまったのだろう?すべては今の王が豹変してからだ。
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薄暗い部屋、二人の黒い影が話をしている。
「この国は我々の手に落ちた。王も我が傀儡よ」
「たくさんの命、呪いこそ、我が力となる」
「しかし、あの国は本当に忌々しいわ!」
「配下の者は動けないのか?」
「結界により、使いのレイス(悪霊)と呪術が阻まれる。魔物を放ってもダメじゃ」
「どうするぞ」
「……しかたない。我がいこう」
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ヨウス領、深い森の中、最近、居住を始めたエルフが奥の方へ狩りに出ていた。
「あっ、なんだ、あれ?」
いつもは緑が広がる森の中、木々がざわめき、大群が動いてるような音がしている。
そして近づくと……
「うわ! ゴブリンだ!」
葉に隠れて分からなかったが、近づくと、あたり一面にゴブリンの群れ、その瞬間、足が震える。こんな状況は見たことがない。
「いけない! 早く山の館に戻らなくちゃ!」
エルフはすぐ引き返し、山の館へ戻った。
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山の館
「ゴブリンの大群ですって!!」
イレーネはそれを聞いて、不自然に感じる。以前、大公、テネシアらと、森の魔物は全滅させており、すぐ増えるわけがない。ましてや、そんな大群なんて……
しかしイレーネに焦りの表情は一切ない。
「……なら、狩るだけだわ。二人にも連絡しなくちゃ」
仲間を山の館へ避難させ、テネシアは先行して、ゴブリン討伐に向かった。今のイレーネなら、ゴブリンなどまったく相手ではない。ただの的である。向こうにゴブリンが見えてきた。
「う~ん、軽く千以上いるかな?」
最近は伯爵業や山の館の支援等、戦闘から離れていたが、久々の戦闘である。次第に血の気が上昇するのが分かる。久々の戦闘モードだ。
「エアカッター!」「エアカッター!」「エアカッター!」「エアカッター!」
「エアカッター!」「エアカッター!」「エアカッター!」「エアカッター!」
風の刃を連発する。ゴブリン達は絶叫をあげて次々と倒れていった。
今回も【飛行】【隠蔽】をかけての攻撃魔法のため、ゴブリン達は、どこから敵の攻撃が来るかも分からないまま、屠られていく。ダンジョン制覇を通し、イレーネの魔力は確実にパワーアップしていた。
風の刃はゴブリンを一度に数十体も切り裂き、木に隠れたゴブリンも木ごと切断してしまう。ゴブリンが逃げる場所はどこにもなかった。
もう相当、倒してるはずだが、まだまだ出てくる。キリがない。
「何かおかしい……」
もう千どころか、二千は倒してる。この数も異常だし、何よりゴブリンの戦意が消えないのはおかしい。まるで何かに操られてるみたい……
「……さあ、どんどん行くわよ!」
不自然さを感じながらも、イレーネはゴブリンを屠り続けた。
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森の洞窟の中
怪しげな魔法の杖を持って、魔法陣に向かって詠唱する男がいる。
「もっと魔物を召喚してやるぞ! この国を滅ぼしてやる。ぐふふ」
男は人間の姿をしているが、肌は青く、不気味な表情をしていた。
そして魔法陣の上にゴブリンが次々と現れた。
「いけ! 森を降りて、人間どもを蹂躙せよ!」
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「大公様、イレーネがゴブリンと戦ってる!」
「すぐ加勢しよう!」
しかし、あたりはゴブリンの亡き骸だらけだな……
イレーネは相当、倒してるのに、なんでこんなにいるんだ?
「テネシア! 火で焼き払ってかまわん! やれ!」
「よし! そうこなくっちゃ!」
「ファイヤーストーム!」「ファイヤーストーム!」「ファイヤーストーム!」
テネシアの炎の竜巻が森ごと、ゴブリンを焼き払う。僕は漏れた奴を【収納】。
しばらくすると、ほとんどのゴブリンはいなくなったが、まだ、奥の方から出てくる。
「おかしい……」
これは普通じゃない。同じ方向から、一定の方向に向かって、動いている。
「……これ、操られてるんじゃないか? なら奥に元締めがいるな」
残りはイレーネに任せ、ゴブリンが出てきた場所を辿ると、洞窟。近づくと青い肌で不気味な表情の男が魔法の杖をふるい、魔法陣の前で詠唱していた。犯人はこいつだな。どう見ても人間じゃない。
「おい! 何をしている!」
するとその男は怒りの目でこちらを威嚇し
「邪魔をするな! 人間どもを滅ぼすのだ!」
こいつは完全に敵だな。さあ、どう料理するか……
「魔法の杖を【収納】!」
「なっ!」
すると男の杖が消えた。
「なんだ! 貴様か!」
「お前は何者だ?」
「貴様に言う必要はない!」
「ここは僕の領地だ、勝手な真似はゆるさん! 魔法陣を地面ごと【収納】!」
男の足元の魔法陣が消えた。これで召喚不可能だろう。
「き、きさま、何者だ!」
「お前こそ名乗れ!」
男が逃げようとするので、
「テネシア、足を燃やせ!」
「ファイヤー!」
「うぎゃ――――!」
男が地面でのたうちまわる。
こいつは人間ではないし、人間を滅ぼそうとした。悪党は容赦しない。
「くそ、杖さえあれば逃げられるのに!」
やはり先に杖を奪っておいて良かった。
「それで名前は? 次は顔にいくぞ」
「我は……」
「先に言っとくか、僕は【鑑定】スキル持ちだ。嘘をつくなら、その場で燃やすからな」
「……我は魔人レルスなり」
「どこから来た? 誰かの命令か? なぜこんなことした?」
「……」
テネシアが威嚇に目の前で炎を広げても、魔人はひるまない。
「やれるものならやるが良い、あの方のことは絶対に言わぬ」
しかたない。
「【精神支配】!!」
「どこから来た? 誰かの命令か? なぜこんなことした?」
「ううおおお、ぜ、絶対に、い、言わんぞ!」
すると魔人レルスは必死に口を押さえつけて抵抗する。今まで抵抗できた者はいない。
「【精神支配】!!」
「どこから来た? 誰かの命令か? なぜこんなことした?」
「ぜ、ぜ、ぜ、絶対に、い、言わんぞ!」
「【精神支配】!!」
「どこから来た? 誰かの命令か? なぜこんなことした?」
「うああああ、うおおおおおお!」
すると魔人レルスは苦しみだし、近くの岩に思いきり頭をぶつけた!
「あっ!」
一瞬のことだったが、口を割わらないよう自害してしまった。しかし、後でゾンビにでもなったら、厄介だ。
「【収納】!」
洞穴を出て、イレーネの方に向かうと座りこんでいた。
「今までの最高記録かもしれないです。ゴブリン五千はやったと思います」
あたりはゴブリンの死体だらけだったが、いつものように【収納】した。こいつらは収納で分子レベルまで分解だな。大量に生物由来素材をゲットしてしまった。
念のため魔物、魔人と指定して【探索】したら、生体反応は無かった。回収した魔法の杖と魔法陣はたぶん召喚魔法用だろうな。面白そうだから、これを参考にして召喚魔法を【複写】してみるか。
「【召喚】を【複写】!」
簡単に【召喚】スキルが【複写】できた。サンプルがあると楽だな。
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薄暗い部屋
黒い影が苛立つ、上空にはレイス(死霊)が飛び、何やら報告している。
「あのレルスがやられただと! 奴は召喚魔法で一万もの魔物を出し、操るのだぞ!」
「奴め、敵を甘くみたか! ちっ!」
「しかし、お陰で敵の様子も掴めたわ、今度は逃さんぞ」
薄暗い中、男の青い肌があかりに照らされたが、表情は復讐に燃えていた。
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