第105話 大公夫妻の一日2
日中は、商人、貴族、地元の有力者の謁見が続いたが、慣れないことをすると疲れるね。少し休もう。夫婦で海が見える部屋でお茶をする。ここは上層階で外部の人間が入れないプライベートゾーンだ。ここは親衛隊もいない。
「最初の一月ぐらいは挨拶の謁見が多いだろうから、外出は控えて城にいるようにした方が良さそうだな」
「その方がいいと思います」
「わざわざ遠くから挨拶に来る方は好意的な人も多いだろうしね」
「そうですね」
「今まで他の領地の問題を早めに片付けておいて良かったよ。あの時はずっと外出してたからな。今は領地も落ち着いて、代官達に任せられるようになり、随分楽になった」
そろそろ夕方か、ちょっと屋敷内を見て回るか。
「謁見も落ち着いたみたいだし、夕食前に城の周りを歩いてみよう」
「いいですわね」
二人で一階におりたら、良い匂いがしたので、厨房を覗くと料理人が夕食の準備をしていた。ここは港町だから新鮮な魚介類が楽しめる。また貿易船も来るので、多彩な食材が手に入る。料理人も活躍しやすいだろう。裏口から外に出ると、親衛隊が敬礼したが、散歩だから大丈夫だと言った。しばらく行くと、親衛隊の施設。熱心に訓練をしていた。みんな、馬に乗れるし、剣、槍、弓、盾と使いこなす。やはり王城の元近衛兵を隊長にしたのは正解だったな。
「やあ、カイル親衛隊長、熱心に稽古してるね」
「これは大公様、お蔭様で皆、一生懸命です」
「王都から来た隊員はホームシックになってないかな?」
「ここは王都より開放的ですし、皆、気に入ってるようです」
「それは良かった」
隊員達が明るい表情で良かった。護衛と言えば、テネシア、イレーネには大公城にそれぞれ専用の部屋を与えてるし、使用人達にも伯爵の待遇で接するよう指示している。彼女達はこれまで走りっぱなしだったので、今後は少しゆっくりしてもらいたいと思う。
「こんなものか! もっと速く剣をふれ!」
声のした方を向くと、テネシアとイレーネが親衛隊に稽古をつけていた。やはりこちらの方が性に合っているか。その後、しばらく庭から夕方の海の風景を夫婦で楽しんだ。
そろそろ夕食の時間か、食事室に行こう。
食事室には、僕、メリッサ、テネシア、イレーネの四人。席は上座の中央に僕、右側にメリッサ、左側にテネシア、イレーネが向き合って座る。
食事中は、だいたい、テネシアとイレーネが日常にあったことを話し、それを夫婦が軽い感じで聞くスタイルが多い。というのも大公の業務はまあまあ重めの内容だし、取引上の機密等もあり、軽口で話すことは控えたいからだ。話と言えば一つだけ変わったことがある。それは……
「大公様、ここの魚はおいしいな。生でもおいしい」
「こんな、おいしい食べ物が毎日頂けるなんて幸せです。これも大公様のお陰です」
そう、私への呼び方が「大公様」となったのだ。今まであまり気にしなかったが、メリッサから、規律の意味でその点だけは変えた方がいいとの指摘があったのだ。二人には「お互いに偉くなると大変だけど、頑張ろうな」と言っといた。
「しばらくは忙しいけど、落ち着いたら、島に行こう」
謁見が落ち着いたら、島に行こう。
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