三段共オチ(:菫)
View.ヴァイオレット
「ワタシモ、首都ニ行キマス」
「マジなのか」
日も短くなった日の夕暮れ。
明日以降の確認の終わり、バーントと共に必要な物資が無いかを確認に回っている中ロボさんにそう告げられた。
「お嬢様、はしたないですよ」
「すまない、つい」
ついはしたない言葉が出てしまいバーントに注意される。
いけない、どのような時も冷静に対処しなくては。だがロボさんが首都に来るなど突然どうしたというのだろう。
一緒に首都に行けると言うのは嬉しいのだが、間違いなく今の姿では目立つ……どころか、モンスターと勘違いされて捕縛や討伐されかねないし、装備を外して素顔の状態になるのをロボさんは嫌がっていたはずだ。
あるいはよく分からない内に王族に借りを作っていて首都で歩いても平気、などかもしれないが。……ありえそうで少し怖い。
「空間歪曲石ハ使イマセンヨ。ワタシガ行ケバ騒キギニナルデショウシ。ソレニ、首都ニ行クト言ッテモ、首都周辺ニ用ガアルンデス」
「そうなのか? つまり私達と一緒に行く訳ではないのだな」
「途中マデハ一緒ニ行キマスガネ」
「そうなると、ロボ……様とはしばらく別れることになるのですね。石が使えない以上はどうしても移動の時間差が出ますから」
「イエ、シキカラ首都ダト、休憩入レテ二日モカカラナイデショウカラ、学園祭期間中ハ会エルカト」
シキからだと馬や人馬族が飛ばし続けて十日以上はかかるはずなんだがな。というツッコミはよしておこう。今更彼女がどのような性能を隠していようと流せるようになってきた。
「はは、ロボ様もご冗談がお上手で」
「冗談デハナイデスヨ?」
「はは、ははは。ご冗談がお上手で」
バーントは必死に目を逸らして信じないようにしているが……いずれ分かる時が来るだろう。
例えばなんか鋭利なビーム状な物が腕から出て木々を伐採して修理の木材をお年寄りに提供したり。
例えば体内(?)から怪我をした3m級の天馬を取り出し、治療して欲しいと頼み込んだり。
例えば海の神を救ったお礼とか言ってハートフィールド邸サイズの巨大頭足魔物を持って帰ってきたり。
そういう場面を何回か目の当たりにすれば細かいことは気にしなくなるだろう。
「しかし首都周辺に用事とは一体……ああ、答えたくないのならば答えなくて良いぞ」
「構イマセンヨ?」
ロボさんの行動範囲は思ったよりも広く、知らない所にまで出没しているが、首都近辺などの人口が多い所は混乱の為に避けるようにしていると聞いた。
そんなロボさんがわざわざ首都に訪れる用事の内容が気になったので聞いてみると、ロボさんは特に隠すことも無くこちらの質問に答える。
「マズ一ツ目ハ、麻薬組織ノ壊滅デス」
「いきなりスケールがデカいのが来たな」
首都近辺を根城にしようとしている麻薬組織があるので、事実確認後に壊滅させるらしい。事実確認と言うがどのようにするのだろうか。嘘発見機能でも付いているのだろうか。……付いていそうだな。
「しかし、一つ目という事はまだ他にも?」
「エエ。次ニ巨木魔物集団ノ鎮静化デス」
「巨木魔物……C級上位モンスターじゃないですか! 単独では危険ですよ!」
「ロボさんなら平気だろう」
「エエ、余裕デス。【神カラノ杖】ノ爆撃デイチコロデス」
「え、ええー……」
【神カラノ杖】とやらはよく分からないが、ロボさんなら平気だろう。
B級下位の飛翔小竜種をあっさりと屠っていたし今更だ。むしろ単独でない方が迷惑になる気がする。一応ロボさん曰くB級上位やA級になると難しいらしいのだが。
「最後ニ、学園祭ヲ楽シモウカト」
「大丈夫なのかロボさん!?」
「規模が一番小さくても一番大変そうなんですね……」
馬鹿な、それは可能だというのか。
まず今のままの姿では間違いなく騒ぎになる。楽しみたいと言うのならば私達も楽しめるよう力になりたいが、どうしても限界が来てしまう。
しかし外装を脱いで素顔を晒せば問題ないというのは変態医者に怪我を見ても興奮するなと言うのと、毒物愛好家に毒を一切摂取するなと言う程には無理難題じゃないのだろうか。
ステルスモードも完全に透明になる訳でもないので、どうしてもバレるだろうから……
「イエ、少シ着飾レバ、仮装デ済ムノデハナイカト」
「難しいな。外部の者は騙せても学園関係者にはどうしてもバレてしまう」
「聞ク所ニヨルト、アッシュクンガ学園祭実行委員ニナッテイルトイウ事デス」
成程、ロボさんを知っているアッシュに願い出れば、混乱を避けるために仮装をお願いしているという扱いにできるのか。そうなると私かクロ殿がアッシュに頼み込んだ方が良いのだろうか。だが忙しいうえに私の味方という訳ではないアッシュに接触できるだろうか……
「イザトナレバ、顔ダケ隠シタ状態デ回レバ良インデスケドネ」
「それならば大丈夫だな、うん」
「良いんですか!?」
冬で寒いから身体全体は服で隠せるし、顔は防寒具+仮装でどうにかなるはずだ。いざとなれば私達でフォローすればいい。
「お嬢様の対応能力……常識が変わってしまわれた……いや、俺がおかしいのか? 俺が常識だと思っていた事は非常識だったという事なのか……?」
そんな私達の会話を見ていたバーントは、どこか遠くを見る目で何故か葛藤する表情で苦悩していた。どうしたのだろう。
「だけど友とお話しするお嬢様の弾む声……やはり素晴らしい……!」
本当にどうしたのだろう。
B級上位やA級になると難しいらしいのだが。
・倒せない訳ではない




